2-8 領主の娘

「娘のセレンだ」

「カーティラ=リアンクルの長女、セレンと申します。今日からよろしくお願いいたしますわ」


 カーティラさんが入ってきた女の子を紹介してくれる。女の子の後ろからメイドのような服を着た獣人の女の人も部屋に入ってきた。付き人とかかな?メイドさんは奥さんのサリーさんと交代するようにしてサリーさんとセレンさんの分のお茶をテーブルに並べた。

 女の子は紹介されるとカーティラさんの隣に座って自己紹介とよく分からないことを言った。メイドさんと交代したサリーさんも夫婦でセレンさんを挟むようにソファに座る。


「ギンジです。こちらは「シルフです!」・・・です。それで話がよく分からないんですが」


 こちらもそれぞれ自己紹介をしてカーティラさんに説明を求める。


「あら!?勘違いだったかしら。お父様、こちらの方は先生ではないんですの?」

「いや、そのつもりなんだがまだ何の話もしてなくてな」

「そうでしたのね。ギンジさんとおっしゃいましたかしら?わたくしの魔法教師になってくださいませんか?」

「は!?魔法教師?」

「ええ。魔法を教えてくださいませ」

「ギンジ、頼めないか?」


 ちょっと待て。魔法教師って普通は魔法協会公認の人を雇うんじゃないのか?領主ならお金もあるだろうし。それになにより


「なんで僕に?」

「魔法が使えるからだ」

「使えると言ったことはありませんし見せたこともないんですが」

「魔道具屋で使えると言ったはずだ」


 そんなとこまで情報網があるのか。


「魔法が使えるのでしたら問題ありませんわね!よろしくお願いいたしますわ」

「いやいやいや、僕も詳しいわけでは無いですが普通は協会の公認に依頼するんではないんですか?僕は公認どころか協会とまったくつながりもないんですよ!?」

「公認の魔法教師は獣人相手は消極的でな。依頼をしたところで基本的に後回しだ」


 説明を聞いたところそもそも公認魔法教師自体が不足していること、拘束期間の長さ、獣人の魔法習得率の低さなどが問題だそうだ。予備校の合格率かよと思ったが魔法教師も商売なら生徒の魔法習得率の高さは大事なのだろう。そういった問題が重なって獣人が依頼しても中々取り合ってもらえないのだという。


「公認ももちろん雇ったことはあるんだがな。上手くいかなくてそれ以降は派遣してもらうことも難しいんだ」

「あの方はすぐ帰ってしまわれましたわ!もっと時間があればわたくしだってきっと魔法を使えるようになりましたわ!」

「・・・とまぁ本人はやる気満々なんだがいかんせん教師が捕まらなくてな。時々街に来る只人にお願いをしているわけだ」

「カーティラさんやサリーさんは使えないんですか?」

「俺はさっぱりだな。サリーも自己治癒くらいならできるんだが教えるのは上手くいかなくてな」

「獣人の方が魔法が苦手だとは聞きましたが街の住民の方はたくさんいらっしゃいますし少しくらい使える人もいるんじゃ」

「もちろんその辺りは全部試し済みだ」

「ですよね」


 少し考える。見たところセレンさんの魔力の流れはあまり良くない。これだと公認の魔法教師も魔力共有の時点でお手上げだったのかもしれないな。公認魔法教師が試して無理だったんだ。カーティラさんも本気で俺に頼んで魔法を使えるようになるとは思ってないだろう。ってことはセレンさんが魔法を使えるようになりたいと強く思ってるんだろう。


「シルフさんは魔法が使えますの?」

「はい、少しだけですが」

「素敵ですわ!早くわたくしも使えるようになりたいですわ!」


 俺が考え込んでる横でセレンさんとシルフが会話している。


「シルフさんは才能があったんですわね!それにきっと魔法教師の方が優秀だったんですわ!どなたに教わったんですか?やっぱり協会公認の先生かしら?」

「それは・・・」


 シルフが答えに詰まって俺をチラっと見る。あちゃ~、シルフその目線はダメだ。ほら、カーティラさんがニヤって笑ってる。サリーさんも目を細めてこちらを見ている。俺がなんとか話題を変えるために口を開こうとすると


 パン!!


 と急にサリーさんが手を叩く。


「せっかくですから今日は夕ご飯をご馳走させていただきましょう!チル!5人分用意できるかしら?」

「食材は問題ないと思います」

「じゃあそうしましょう!セレン、せっかくだからシルフさんにドレスを着てもらうのはどうかしら?背丈も同じくらいだからあなたのを御貸ししましょう」

「それは素晴らしいですわ!シルフさん、わたくしの部屋に行きますわよ!」

「え!?は、はい!」


 そう言ってセレンさんがシルフを引っ張って部屋を出ていく。チルさんと呼ばれたメイドさんもそれについて行く。部屋には領主夫婦と俺の3人だけになった。

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