2-7 領主邸

「よく来たな!さぁ中に入ってくれ」


 領主邸に来た俺とシルフは案内も無く門を通されて、扉のベルを鳴らすとなんと領主である白虎のおっさんことカーティラさん自ら出迎えてくれた。門の外には門番の人が立っていたが、こういうのって使用人とかが出て来て案内してくれるものじゃないのか?いや、この世界のお偉いさんの家に来たのは初めてなのでこういうものなのかもしれない。



 昨日の夜に手紙で呼び出された俺とシルフは今日は朝から少し採集を行ったあと、宿に戻って昼食を取った。正装のような服は持っていないのでとりあえず二人とも体を洗い服を着替えてから領主邸に赴いた。剣は下げていないが棒は持っておく。

 領主邸は塀で囲まれた大きな家で豪邸と言っても差し支えないと思う。正面に門がありそこには門番の人が立っていた。犬の門番さんだ。門番の人に手紙を見せると「どうぞ」と通してもらったのでそのまま家の扉まで行きベルを鳴らしたわけである。


 カーティラさんに連れられて廊下を進みテーブルと豪華なソファがある部屋に通される。奥側のソファにドカッと腰かけたカーティラさんに勧められて手前のソファにシルフと一緒に腰かける。

 カーティラさんがテーブルの上のハンドベルを鳴らすと給仕さんがやってきてお茶とお菓子を出してくれた。半獣人の人で耳を見た感じ猫っぽい感じだ。あからさまなメイド服みたいな服装ではなくキレイなワンピースのような服装だった。


「妻だ」

「サリー=リアンクルです」


 奥さんでした。奥さんがスカートをつまんでキレイなお辞儀をされたのでつい立ち上がってペコペコとお辞儀をしてしまう。


「そんなにかしこまらなくても良い。今日は使用人がおらんので茶を入れてもらっただけだ」


 今日は安息のイドの日なので家の使用人にも休みを出しているらしい。一人もいないのか?領主夫人が給仕のようなことをするくらいだから本当に使用人は全員休みにしてるのかもしれない。ホワイトな職場だ。白いのは毛だけじゃないってか。


「それでだ」


 カーティラさんが目くばせすると奥さんのサリーさんが何枚かの紙を渡す。カーティラさんはその紙をペラペラと眺めながら


「ギンジ、お前なかなか腕が立つらしいな」

「えっ!?いや、そんなことは無いですが」


 あの紙に何書いてるんだろう。カーティラさんは俺の答えにニヤリとして


「隠すな隠すな。と言ってももしかしたら本当に自分が大したことないと思ってるのかも知れんな。お前が自分をどう評価してるかは知らんが周りから見ればお前は強いんだよ」

「いや~何をもってそう言われてるのか」

「強さを隠すのも賢い生き方だけどバレてる相手にそれをやるのはあんまり良くねぇ。お前の黒狼討伐もヘルムゲンの衛兵をなぎ倒したのもこっちには分かってるんだ」


 そう言って机の上に置いた紙にはヘルムゲンから合わせて今まで討伐して役場と取引した魔晶の履歴が書いてあった。こんな記録も残るのか。


「まぁそれは運が良かったので」

「運で5匹も6匹も倒せる魔物じゃないし、運で倒される衛兵じゃ街は守れねぇよ」


 というか衛兵との訓練のことも知られてるのはなんでだ。ああいうのも報告されるのか。あんまり目立つと変な人に絡まれるから嫌なんだよな。あ、今がまさにそうか。


「そうです、、、ね。自分の身を守るくらいなら自信はあります。ですが魔物に関しては本当に運もありますし、衛兵との訓練に関しては相性みたいなのもありますので」

「街で声かけた時も逃げなかったもんなぁ。俺に襲われても何とかできる算段があったのか?正直に答えろ」


 そういってカーティラさんがこちらに目を向ける。怖い怖い怖い。2足歩行とはいえ完全に虎だからさすがに目の前で睨まれたら怖いっすよ。俺がびびってのけぞるようにソファにもたれかかると バシン! と奥さんがカーティラさんの頭を叩いた。お茶を持ってきたトレイですねそれ。


「あなたいい加減にしなさい。お客様を怖がらせてどうするの。ギンジさん、すいませんねバカな旦那で」

「いてててて。そんなに強く叩かなくてもいーだろ。取って食おうってわけじゃないんだから」


 虎の獣人と猫の半獣人だから虎の方が強いと思ったらそうでもないらしい。意外と尻に敷かれているのかも。


「いえ、大丈夫です」

「それでどうなんだ!?俺と戦っても勝てそうか?」


 先ほどの目力はなくなったが同じ質問が繰り返される。まぁ色々調べられてるみたいだし正直に答えるか。


「あの場では半々でした。勝てると確信は持っていませんが襲い掛かられてからでも逃げきる自信はありました」

「ほう。理由は?」

「街の人全員が敵ってことは無いと思ったので。付き人?のような人もいましたが1対2ならなんとかなるかなと。最悪でもシルフを逃がすくらいはなんとか」

「やっぱり腕が立つんじゃねぇか!聞いたかサリー!?初対面で俺とやりあって勝つ気だったんだぜ!こいつは大物だ!!痛ぇ!」


 サリーさんがまたトレーで叩いた。


「あなた街を見て回るのはいいですけどいきなり声かけるの止めなさいっていってるでしょう!?もう」


 常習犯なのかよ。このおっさんは。


「それにしても本当に腕に自信がありますのね。ギンジさんと言ったかしら。獣人と戦った経験がおありで?それとも何か強さの秘訣があるのかしら」

「獣人の人と戦ったことはありません。なのでそれだけが不安でした」

「只人同士なら敵なしってことか!?そりゃすげぇ。それなら俺に声をかけられても逃げないわけだ」

「そういうわけじゃないですよ!」

「どうなんだシルフ?ギンジはやっぱつえぇんだろ!?」

「はい!ギンジさんはとっても強いんです!!」


 シルフぅ・・・そんな自信たっぷり言わなくていいから。というかシルフの前ではゴブリンとか猿しか倒してないよ?なんでそんな自信たっぷりなの?


 バーーン!!!!


 そんな話をしてると扉を勢いよく開けて人が入ってきた。


「その方が新しい人ですの!?どちらの方かしら!?あなた!?それともあなたかしら!!」


 俺とシルフの二人を交互に眺めて声を上げる少女は真っ赤な髪をした半獣人の女の子だった。

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