1-15 衛兵の訓練
エイ! ヤア! ハイ! セイ!
色んな掛け声がする。ここは街の衛兵の訓練場だ。
今日はシルフが街の清掃に行っているので護衛は無し。
「ぜっっっっったい一人で狩りに行っちゃダメですよ!!!?」
と言った感じに釘を刺されてしまったので昨日は教会に戻る前に詰め所に戻りザックさんに明日ならと話をした。
なので今日は朝から男達が汗をかく姿を見せられている。俺と同じか少し年上くらいの女の子も1人いるが彼女は治癒魔法が得意で訓練で怪我をした時に治してくれるそうだ。
訓練場は街の外にあって地面は草が抜かれていて平らに整地されていて周りは塀で囲まれている。今は10名ほどの衛兵さんが訓練をしている。
「兄ちゃん、今日はよろしく頼むな」
「はい。と言っても何すればいいのか」
「後で何人かと手合わせしてもらうつもりだから動けるように準備しておいてくれ。兄ちゃんは持ってきてる棒を使ってもらって構わない。こっちは木剣や木槍か刃をつぶしたものを使わせてもらう。切れないが打撲はあると思うのでそこにある防具をつけてくれ。訓練だし治癒魔法が使える者もいるが念のためな」
「わかりました」
軽くストレッチをして体を動かせるようにした後、指示された防具を見に付ける。皮でできたもので肩・胸・肘・膝を守れるようになっている。軽いし動きの邪魔にもならないので問題なさそうだ。ただ足元が下駄なので見た目は変な感じがする。
衛兵の人達は筋トレ的なトレーニングや剣・槍の素振りをしたあとは二人一組になって型の確認のような感じでゆっくりと剣を振り受ける、といったトレーニングをしている。想像したよりもしっかりしたトレーニングだ。気の流れもみんな洗練されている。
そんな感じで訓練を眺めているとザックさんに呼ばれたのでそちらに行く。初めに手合わせするのはこのお兄さんか。向かい合うと少し見上げる形になる。俺より少し背が高い。体つきはこのお兄さんだけでなく全員が俺よりがっちりしている。腕相撲なら全員に負けそうだな。
「首から上と股間への攻撃は無しだ。あと武器を落とした時と俺が止めた時もそこで終わりだ。それでは始め!」
他の衛兵さんも訓練をやめて見学している。なんか見られてると緊張するな。相手は剣を両手で握りこちらの動きを伺っている。まぁこっちのほうがリーチ長いしね。俺は両手で棒をもち半身に構える。
踏み込む 棒で剣をはじく そのまま相手を突く 斜め後ろにステップされ躱される そのまま踏み込み手元に棒を振る 強く当てなくても良い 相手の力の入れ具合を見て気の流れを断つようにする。
「ぐっ!!」
カラーンと音がして相手が剣を落とす。ここまでだな。
「そこまで」
ザックさんが止めに入る。お兄さんは軽く叩かれただけで剣を落としたのが疑問なのか手をグーパーさせて不思議そうにしている。
「あっさりしたもんだったな。疲れてなさそうならこのまま次の相手でもいいか?」
ザックさんが笑顔で問いかけてくる。
「構いませんがこのまま全員とやるんですか・・・?」
それは簡便してほしい。元々少し手合わせしてほしいと言われて来たのだ。
「いや、2・3人で構わない」
「それならまぁ・・・」
ザックさんが衛兵を呼ぶと2人目の人を呼ぶ。今度のお兄さんは俺と同じくらいの身長だ。右手に剣を持ち左手に盾を持っている。盾を持ってる人と闘ったことはないな。そんな武道なかったし。
お兄さんは右手を前に半身に構えている。
「はじめ!」
今度のお兄さんは打って変わってガンガン攻めてきた。が、避けるのは難しくない。後ろに下がりながら避ける 避ける 避ける 相手が踏み込み重心が前にくるタイミングで剣を躱しながらこちらも踏み込み右の肩、腕の付け根のあたりを突いて剣を落とさせる。
「そこまで」
こちらもそんなに強く突いたわけじゃないので負傷はしてないだろう。
「目が良いのか?・・・う~ん」
ザックさんが顎に手を当てながら考えている。目は目なんだけどザックさんが考えているのは動体視力とかの話だろう。
そのあともう一人槍を持った人とも手合わせした。リーチが同じくらいなので今度は何度か打ちあったが同じように武器を落とさせて終わらせた。
「いやー、ここまであっさりやられてしまうとは思わなかった。兄ちゃん強いな」
ザックさんがそう言いながら右手を出して来たので握手をしながら「そんなことないです」と返す。
「そうは言うがこちらは手も足も出なかったからな」
「ですが僕の戦い方だともっとしっかりした鎧や甲冑を装備されていたらお手上げなので」
「そういうもんか」
「そういうもんです」
俺が抜けた後も衛兵の人達は武器を持ち変えたり片方が武器を持たない状況や1対2や1対3など色んなシチュエーションでの訓練を行っていた。
せっかくなので見学をしていたがとりあえず午前で訓練は終わりらしい。というか俺が来るから少し特別に人を集めたと言っていた。普段はそれぞれが訓練をするくらいで特別集まってやることは無いとのこと。なんか役に立てたか怪しいので申し訳ないな。
訓練が終わると治癒係の女の子が衛兵のもとを回り治癒していく。魔力の流れを見ても特別な感じじゃなくて自己治癒の時のように肉体を活性化させるように魔法を流している感じだ。女の子は結構可愛かったので治癒を受ける衛兵たちは少し嬉しそうだ。うらやましい。怪我をすればよかったか。
衛兵のうち何人かが魔法で水を出し顔を洗ったり水を飲んだりしている。全員が水魔法を使っているわけじゃないので使えない人がいるのか得意な人が担当しているのか。その様子を眺めながら見ていると
見つけた
一人だけ魔力の流れが違う人がいる。あの人が使う水魔法は俺が教わったものとは違うものだ。やはり資料室で読んだ'魔法の可能性'に書いてあった
『魔法が引き起こす現象が同じでも魔法としては別物である可能性』
これは当たりだったのだろう。
違う水魔法を使っていたのは2番目に手合わせした剣盾使いの人だ。
「あの~ちょっとお願いがあるんですが」
「ああ、水かい?君も使うといい」
さっきはありがとう。と言いながら彼がこちらに水の球を出してくれる。うん。近くで見てもやはり魔力の使い方が違うことが分かる。
「ありがとうございます。ただお願いしたいことは別でして・・・魔力の共有して水の魔法を使ってもらえないでしょうか?」
「魔法を覚えたいのかい?確かに僕は他の人より水を出すのは得意だけど、あまり長い時間は付き合えないよ?」
「1回で大丈夫です」
「1回じゃあ使えるようにならないと思うんだけど、それくらいだったら構わないよ」
そう言ってお兄さんは手を出してくれたのでその手に俺の手を重ねて魔力の流れを感じる。もちろん目でもしっかり見るのを忘れない。
「じゃあいくよ」
そう言って反対の手からさっきと同じように水を出す。
「これでいいかい?」
「はい。ありがとうございました」
「面白い子だね。魔法の才能がすごいのかな?」
ハハハ。と笑いながらお兄さんは他の衛兵さん達と一緒に訓練場を出ていく。
「今日はわざわざ来てもらってありがとうな」
「いえ、あれでお役に立てたでしょうか?」
最後に残っていたザックさんのお礼に対して正直な感想を返す。
「思ってた訓練にはならなかったが見た目だけじゃ分からない強いやつもいるっていうのはいい経験になったよ」
「それなら良かったです」
そんな感じのやりとりをして共に訓練場を出て街に戻る。治癒の女の子も一緒だ。話を聞くと女の子は街の診療所で働いている子で、訓練の時や街の外から戻った戦士が怪我をしていた時などに門の近くの詰め所に良く出張してきてもらうそうだ。「お怪我はありませんか?」と改めて聞かれるが全く無いので「大丈夫です」と答えると「そうですよね。凄く強かったです」と言われ少し照れてしまった。
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