1-14 お婆さん

「ギンジさん、お時間があれば別室の方に来ていただいてもいいですか?」


 シルフの護衛の後、本日手に入れた素材を役場に持ち込むといつものメガネのお姉さんにそう告げられた。

 昨日シルフに魔法を教える約束をした後、上機嫌になったシルフは採集の方も気合が入っており、今日も朝から森に行って帰ってきたところだ。

 黒狼討伐の影響か昨日も今日も森で採集する人を見かけた。縄張りというわけではないが先に採集をしている人がいる場合はその近くは避けるマナーがあるようなので交流することはなくせいぜい目が合ったら会釈する程度だったが。


 シルフも同行していいか聞くと問題ないようなのでお姉さんに案内されて別室行く。テーブルの両側にソファーのような皮の椅子がありその片方にシルフと一緒に座る。別の職員さんがなんと飲み物を出してくれた。お茶かな・・・?香りと色から紅茶のようなもんかもしれない。


「黒狼の毛皮の査定が終わりました」


 向かいに座ったお姉さんがそう告げる。おお!2日で終わったのか。


「毛皮の方は状態が良かったので1枚1000ベル、1頭いた大きな個体のものは2000ベルで買い取りさせていただきます」


 7000ベル!?これって高いんじゃないのか?わかんない。シルフは驚いた表情で俺の方を見ている。


「この値段は高いんですか?」


 相場がわからないから聞いてみる。


「黒狼の毛皮を買い取りする場合は大体500ベルくらいです。これは役場ではなく素材を買い取りしている店に持ち込んでも大きく変わりません。しかしこの価格で買い取っている毛皮はもっとキズがついています。普通は狩りをする時は剣などの刃物を使いますから。ここまで状態の良いものは査定を手伝ってもらった商店の人も見たことがないそうです」


 出されたお茶を飲みながら話を聞く。


「ですので暫定的に相場の2倍をつけさせていただいております。1頭いた大きな個体はさらにその倍を付けております。売却する商店や人次第ではもっと高い値段で売れると思いますがどうされますか?」

「こちらで買い取りお願いいたします」

「かしこまりました。それではこちらに」


 机に置かれたボックスにプレートをかざす。


「はい、結構です。それにしても本当に良かったんですか?」

「もしかして買い叩かれたんですかね?」

「そんな!役場でそういったことはいたしません。私に関しては絶対しないとお約束いたします」

「なら大丈夫です。運ぶのも面倒ですし。必要ならまた狩ればいいだkひっ!!」


 隣に座った少女に睨まれてしまった。


「と、とりあえずはお金に困っているわけでもないので。今回は問題ありません。気を使ってもらってすいません」

「いえ、素材の持ち込みはともかく黒狼の討伐に関しては街側がお礼を言うべきことですので。本当にありがとうございました」



「また危険な狩りに行くんですか?」


 役場を出たとたんシルフに問い詰められる。くそう。せっかくの上機嫌が2日も持たなかった。


「行かない行かない。シルフも聞いてたと思うけどしばらくお金には困らなさそうだからね。狩り以外のことを先にやっていくよ」

「それは危険なことですか?」

「魔法の練習とか調べものとかかな。あ、衛兵の訓練にも来いって言われてたしシルフの護衛以外では森の方にも行かないよ」

「約束ですよ?」

「約束します。それにシルフに魔法を教えないとだしね」

「そうでした!!へへっ」


 よし。機嫌もよくなったな。

 実際シルフに止められなくてもああいう危険な狩りはしばらくするつもりはなかった。狩りなんて金を稼ぐ手段であって金があるなら他のことをするべきだ。

 魔法の習得が第一なんだけど教えてくれる人がな~。俺の場合は魔法を使う時の魔力の流れを見せてもらえるだけでもなんとかなるかも知れないけど魔法って誰がどこで使ってるんだろ。衛兵さんに使える人いたら見せてもらえるかな。訓練に参加した時にお願いしてみよう。


 その後は魔道具屋に行ってシルフが今日採集した植物を買い取りしてもらう。俺は店内をうろうろとして待つ。コンコン と音が鳴り顔を上げると店の外でお婆さんが手招きしているのが窓越しに見える。周りに人がいないので俺を呼んでいるみたいだ。さっきの音は窓を叩いたのかな。とりあえず店を出る。


「はい?なんでしょうか」

「お前さん黒狼狩ってきた兄ちゃんだね」

「ああ、あの時の!」


 査定してもらう時にお姉さんが呼びに行ったお婆さんだ。お婆さんは俺の体をジロジロと見て「この細い体でねぇ・・・」とか言ってる。そりゃ衛兵の人みたいにゴリゴリマッチョじゃないけどそれたりに鍛えてるんですがねぇ。


「ま、見た目と強さは別さね。それにしてもお前さんあれはうまくやったね。あんなにキレイな状態の黒狼の毛皮は見たことないよ」

「ありがとうございます」

「あれは役場で売っちまったのかい?」

「はい。先ほど買い取りしてもらってきました」

「なんだもったいない。今度からああいう珍しいのはうちに直接持っておいで。役場よりは高く買ってあげるよ」

「お婆さんもお店やってらっしゃるんですね。お店はどこですか?」

「あんた今どこから出てきたんだい?ここはあたしの店だよ」


 なんと!魔道具屋さんの店主さんだった。今お店に立ってるのは息子さんらしい。


「ここお婆さんのお店だったんですね。植物以外も買ってもらえるんですか?」

「狩りや採集から帰ってきた客にいろんな店周らせるのもかわいそうだろ?買い取りやってる店はどこも横のつながりがあるからね。ある程度どんな素材でもそれなりの値段で買い取ってもらえるもんさ。お前さんは腕も人も良さそうだからね。ちゃんと買ってあげるよ」

「便利に使えそうって感じですか?」

「ハハハ。考え過ぎだよ。戦士ってのは粗雑なやつが多いからね。生意気なやつは適当に追い払ったりするけどお前さんはちゃんと客扱いするってことさね」

「ありがとうございます。やっぱりお店に直接持ち込んだ方が得ですか?」

「討伐報酬の問題だけだね。それさえ除けば役場より損することはないよ。特に今回の毛皮みたいにでかい額の素材は手間でも店に持ってきた方がいいね」

「勉強になります。機会があれば相談にきます」

「また面白いもの持ってくるの待ってるよ」


 お婆さんは話し終えるとすぐに路地を通ってお店の裏の方に消えていった。裏口とかに住居があるのかな?

 お婆さんと入れ違うようにシルフが店から出てくる。店の外にいたことに疑問だったようなので店主のお婆さんと話してたと言うと「キャリーさんですね」と顔見知りのようだ。お婆さんがお店に立ってる日もありお世話になっているようだ。


「薬草の見つけ方とか、採集しやすい素材のことを色々教えてもらったんです」


 シルフの植物採集の師匠らしい。一緒に森に行ったこともあるそうだ。黒狼の毛皮の査定をしたのはお婆さんだと教えると「キャリーさん珍しい素材好きですから」と言っていた。

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