1-13 報告
「えっ!!!?ギンジさん黒狼狩ったんですか!!?」
翌日、シルフの植物採取の護衛のために連れだって森に向かう。街を出るところでトムさんに「ちょっと待っててくれ」と言われ詰め所に走っていくトムさんを待っていると戻って来る時は二人で戻ってきた。ザックさんだ。
「兄ちゃん、昨日黒狼を狩ってきたらしいな」
俺の顔を見たザックさんがそう言うとそれを聞いたシルフが驚きながら俺に尋ねたのが先ほどの発言だ。
ハハハ・・・と愛想笑いで返すがシルフがじっとこちらを睨んでいる。『なんで黙ってたんですか?』と言っているような目線は身長差のせいか上目遣いで睨んでいるのに可愛い。
「で、どうやって狩ったんだ?まさかその棒でか?」
そんな俺たちのやりとりなんてまるで無かったかのようにザックさんがグイグイ聞いてくる。
「はい。棒で殴ってナイフでトドメを刺しました」
別に隠すことでもないし正直に話すか。
「見た感じそこそこ鍛えてはいるようだが、そんなに強そうにも見えないんだがなぁ。魔法が達者ってわけでもないんだろう?」
「魔法は使えるようになりたいんですが教わるツテも無いので。とりあえずは自分のできる戦い方でなんとか」
「兄ちゃんは人との戦いはできるのかい?」
「殺し合いはしたことがありません。手合わせ程度なら少しは」
「もしよかったらうちの衛兵の訓練に顔を出してもらうことはできないか?」
「えっ!?僕がですか?」
「ああ、棒での戦い方を見せてもらえたらと思ってな」
「別にいいですけど・・・大したことないですよ?」
「一人で黒狼の群れを狩れるなら大したことあるんだよ。もちろん対人は勝手が違うかも知れんがそん時はそん時だ」
衛兵って言うくらいだし鍛えてるマッチョな感じの人ばかりだろう。正直言うとそう言う人達と汗水流して訓練するなんて乗り気じゃないが・・・街を守ってくれてる人達だしな。役に立てるかわかんないけど。
「わかりました。ちなみに今からですか?」
「今からでもいいが兄ちゃんにも予定があるだろ?暇な時でかまわんよ。できたら前日までに来れる日を教えてもらえると助かる」
「わかりました。でしたらまた後日・・・」
「助かるぜ。出かける前に時間取らせて悪かったな。嬢ちゃんも待たせたな。今日も気を付けてな」
「はい。でも今は頼りになる護衛がいますので」
「違ぇねぇな」
そう言ってザックさんは詰め所に戻っていった。
「はぁ。肝心なこと言わないからあのおっさんは。ギンジ君?だっけ。今回はありがとう」
立ち去ったザックさんを見てため息をついたトムさんが俺に礼を言った。
「いえ、お役に立てるか分かりませんが少し手合わせするくらいなら」
「ああ、訓練の件だね。それもなんだけど黒狼の討伐をしてくれことだよ。昨日は驚いてお礼を言い忘れたからね」
トムさん曰く俺が狩った黒狼は最近目撃が増えており被害が出る前に討伐依頼を出すか衛兵の腕利き2~3人で討伐に向かうか議論されていたらしい。
シルフのように森の浅いところで採集をしたり狩りをする戦士にとっては危険なので森に出かける人も減っていたという。
金策のためだったがこの街で暮らす人の役に立てたのは嬉しい誤算だ。
門を抜けて森へ向かう。向かうが会話は無い。黒狼の件を知ってからシルフの機嫌が悪いように感じる。怒らせてしまったんだろうか。
無言のままシルフの少し後ろをついていく。今日は小川の方に先に向かうみたいだ。
「ギンジさん、ここに座ってください」
小川に着くとシルフにそう指示される。ちょうど腰がかけれるくらいの大きさの石があったのでそこに座る。シルフがこちらを見下ろす形で向かい合う。
「昨日何があったんですか?」
「えっと・・・特に何も」
「昨日は 何 し て た ん で す か ?」
「ひっ!!」
すごいプレッシャーだ。変な声出た。
順を追って説明する。
・資料室で調べものをしたこと
・飲み屋でお昼ご飯を食べたこと
・一人で狩りに行くのでたくさん狩ろうと思って荷車を借りたこと
「荷車!?もしかして初めから黒狼を狩る気だったんですか!?」
「・・・はい」
正直に話すと「はぁ」とため息をつかれて「危険な魔物だって言いましたよね!?」と怒られた。
なんで怒られてるの?と思ったけど俺の身を案じてくれているからだろう。心配をかけてしまったのだ。「ごめん」と謝るとシルフは近づいてきて俺の頭を抱いた。ふむ、今後の成長に期待ですね。などと失礼なことを考えてると先ほどまでとは違う優しい声が聞こえた。
「ギンジさんが強いのは分かっています。それでも心配なものは心配なんです。ただで護衛してもらってる私が言えたことではありませんが・・・あんまり無茶しないでください」
俺もまだまだ子供だ。
それでも年下の女の子にこんなことを言わせちゃダメだ。
そう思った。
シルフの胸から離れて目を合わせる。
「ごめん。心配かけちゃったね。これからは気を付けるよ」
「もう危険なことはしませんか?」
「しばらくは控えます」
「ってことはまたやるんですね!?」
「う・・・」
「はぁ。しばらくはホントに止めてくださいね。あと私じゃ力になれないと思いますがそれでも行く前に相談くらいはしてほしかったです」
「そうだね。これからはきちんと話すようにする」
仲直り(と言っても喧嘩していたわけじゃないが)の証に右手を出す。シルフは握手するとニコっと笑ってくれた。可愛い。
「それで、まだ何か話してないことはありませんか?」
終わってなかった。
笑顔の裏に先ほどのプレッシャーを放ちながらシルフが問いかけてきた。
尋問はまだ続くみたいだ・・・
「えっと、話してないことって?」
「そのままの意味です。もちろん言いたくないこともあると思いますが・・・」
そう言うとシルフは少し困ったような顔をする。先ほどまでは悪さをした子どもを叱るお母さんみたいな雰囲気だったが、今の表情を見るとただ心配をしてくれているだけなんだと思う。「わざわざ言う必要も無いかなと思って」と前置きしたうえで昨日あったことを細かく話した。
話を聞いたシルフは
「魔法使えるようになったんですか!?」
「えええ!?3000ベルも!?素材の買い取りはまだ!?」
と言った具合で驚きの連続だった。特に一度の魔力共有で魔法を習得したのにはとても驚いていた。まぁ流れが見えるのは話していないけど。
「初めからすごい人だと思ってましたがどんどんすごくなっていきますね。水の魔法、見せてもらってもいいですか?」
そう頼まれたので ポワン と手のひらの上に水の球を出す。
「疑ったわけじゃないんですが、本当に使えるようになったんですね。すごい」
「これくらいなら誰でもできるようになるよ。シルフにも使えるように教えるから」
「教えてもらえるんですか!?」
「もちろんそのつもりだけど」
シルフはギュっと目をつむったあとぱぁっと笑顔になると俺の手を両手で握ってブンブン振る。
「ありがとうございます!!!」
「ただ少しだけ待ってもらってもいい?ちょっと色々試してからシルフに教えようとは思ってて。もちろん水以外の魔法を使えるようになったらそれも教えるから」
「ほんとですか!?」
「もちろん。と言ってもまずは俺が使えるようにならないとだけどね」
「ギンジさんならすぐですよ!!」
黒狼のことを問い詰めてきた時とは打って変わって機嫌が良くなったシルフは「さ、早く採集に行きましょう!」と俺を引っ張って森の中へ入っていくのだった。
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