1-12 討伐報酬

 森を出て荷車を引きながら街に向かう。もう夕方だが陽が落ちきる前には街に戻れるだろう。


「黒狼じゃないか!!それも何頭も!!君が狩ったのかい!?」


 門番をしていたトムさんが荷車を見て驚く。そうだと返事をすると「やるじゃないか」と肩を叩いてきた。


「一人で群れを狩るなんてすごいぞ!俺たち衛兵だって群れ相手なら逃げの一手だ。それに黒狼は持ち込まれることが少ない魔物だからな。役場でも驚かれるだろう」


 褒めてもらってるのだろうが暗に無謀な奴だと指摘されている気もする。考え過ぎか。役場でも色々話をされるならさっさと行ってしまおう。早く帰ってご飯を食べたい。

 トムさんとの会話はそのあたりで切り上げて役場に向かう。すれ違う人が荷車の黒狼を見て反応している。珍しいからかな。


 役場に直接入れないので荷車を役場の裏に引いていく。荷車を借りた倉庫の前に荷車を置いて役場に入る。

 そこそこ人がいて受付が埋まっていたので壁際で人が少なくなるのを待つ。メガネのお姉さんが空いたのですっと受付に向かう。いろんな人と接するべきだとは思うんだけどついつい慣れた人とばかり接してしまう。お姉さんキレイだし。


「お疲れさまです。荷車の返却と買取をお願いします」

「ギンジさん、お疲れさまです。荷車は表ですか?」

「いえ、裏の倉庫の前に直接運び入れました」

「わかりました。それではそちらで荷車の状態確認をさせていただきます」


 お姉さんと連れ立って役場の裏に移動する。


「ええええ!!!!!?これギンジさんが狩ってきたんですか!?一人で!?」


 クールビューティだと思ってたお姉さんが今までにないほどの声を上げて驚く。荷車の状態チェックのはずがお姉さんは荷台の黒狼にくぎ付けだ。


「黒狼がこんなに・・・何頭いるんですか?」

「6頭です」

「6頭の群れを一人で・・・しかもキズも全然ないじゃないですか。これはどうやって狩ったんですか?」

「えーっと、棒で殴ってナイフで首をスパッと」

「はぁ。そんな兎狩るみたいに簡単に言わないでください」

「すいません」

「状態に関係なく黒狼の毛皮は需要が多いんですがここまで完全な状態のものは私も見るのが初めてですので査定ができません。担当の者とこういった素材を扱ってる商店の者を呼んで適正な価格で買い取りしますので支払いは後日でもかまいませんか?」

「はい。できるだけ高く買ってもらえるのは僕も助かるので」

「ではそれ以外のものは受付の方でやりましょう」

「あの、荷車の状態は大丈夫でしょうか?」

「ん!・・・はい。問題ありません。それでは中へ」


 完全に忘れてたな。俺が指摘するとビクっと反応した後、ササッとお姉さんは荷車を見ただけでOKが出た。

 兎の肉と毛皮、あと磨晶の入ったカバンと棒を持ってお姉さんの後ろについていく。受付に戻るとお姉さんは「少々お待ちください」と言って奥に行き、奥からお婆さんを連れ立ってそのまま荷車の方に行った後一人で戻ってきた。あのお婆さんも職員さんだろうか。


「お待たせしました。それでは処理をしてしまいましょう。まずは荷車の保証金ですね。こちら荷車に問題が無かったのと貸し出し期間内の返却ですので100ベルそのままお返しいたします。あ、清算はまとめて行って大丈夫ですか?」

「はい?別に問題ありませんが・・・」


 質問の意図が分からずぼんやりした解答をすると説明してくれた。


「計算が苦手な人はまとめず1つ1つの清算を希望される場合がありますので確認させていただきました。悲しいことに何件もの取引をまとめて行ってその時に計算をごまかす悪い人が存在しています。もちろん役場ではそういったことはありませんが計算ミスや複数の取引を挟んだせいで支払いを忘れてしまう可能性も0ではありませんので」


 詐欺やヒューマンエラー対策か。まぁこれくらいの計算なら別に問題ないだろう。


「いつも説明ありがとうございます。今回はまとめてやってもらって大丈夫です」

「かしこまりました。それでは買取する素材等をお願いします」


 カウンターの上に今日狩った魔物の魔晶、あと兎の肉と毛皮と黒狼の牙を置く。


「た、大量ですね。ゴブリンの魔晶が12個、兎の魔晶と素材、あと黒狼の魔晶が6個ですね」

「兎の肉って加工するの難しいですか?燻製とか作れるなら売らずに持って帰ろうかと思ったんですが」

「簡単な干し肉くらいなら問題ないですがそれ以外となるとあまりお勧めはできませんね。加工の作業自体を楽しまれるなら問題ないのですが。時間もかかりますし味も店で売ってるものの方が良いので素材を売って料理を買われるのがいいと思います」

「それではこれらすべて買い取りでお願いします」

「かしこまりました。それでは討伐報酬と素材の買い取り合わせまして全部で3080ベルになります」

「そんなに!?」

「はい。黒狼は脅威度が高く討伐報酬が高くなっております。目撃が多かったり被害がひどい時は特別依頼を出して討伐してもらう案件になりますので役場としては非常に助かります」

「役に立てたのならよかったです」

「それではプレートに入金しますね。荷車の保証金と合わせて3180ベル入金します」


 プレートをボックスにかざし入金してもらう。1ベル100円だとすると一気に30万円か。


「黒狼の毛皮の査定は2~3日中に終わると思います。査定が終わりましたら連絡いたしますか?」

「いえ、急ぐわけではありませんし、しばらくは役場に顔を出す日々が続きそうですので終わり次第で大丈夫です」

「わかりました。それでは今日のご用件は終わりでよろしいですか」

「はい。ありがとうございました」

「お疲れさまでした」


 役場を出るともう日が落ちていて街には明かりがともっている。臨時収入があったので昨日行った服屋に行って子供用の服を4セット買う。ジャックとメグにお土産だ。

 買い物を済ませた俺は教会に帰った。

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