1-10 荷車
役場を出たのは昼過ぎくらいだったのでせっかくなのでお店でご飯を食べてみようかと街を歩く。周りを歩いてる人を見ても高そうな服を着てたりする人も見かけないのでお高い店も無いだろうと思う。
めぼしい店も無く、通りを往復して結局役場の近くに合った飲み屋のような店に入る。「食事できるか」と聞いたところ問題なさそうだった。
カウンターの中では調理をしている中年くらいの男女(夫婦だろうか?)がいて、テーブルがいくつか並んでいるホールには若い女の子が2人いてテーブルへの案内をしてくれた。
昼の時間は個別のメニューはやってなくて定職のようなセットメニューがあるだけだったのでそれを頼む。ホールの女の子がすぐに食事を持ってきてくれた。
パンと野菜のスープ、それに燻製された肉が一切れがセットになっていて価格は5ベルだった。プレートで支払う。昨日服を買った値段と考えると大体1ベルが100円くらいの感覚だろうか。ただここと地球では需要の差や貴重なものの違いもあるだろうしそう単純じゃないかもしれない。
食事はさっと済ませて店を出る。そろそろ森の方に向かわないと狩りから帰るのが遅くなりすぎてしまう。一応陽が落ちるまでには街に戻ってきたい。
それに今日は一人なので自分のことだけ考えて森を歩ける。そうなると狩りもスムーズにできるかもしれない。そう思って役場に戻って受付に向かう。メガネのお姉さんがいた。ついつい顔見知りの人に声をかけてしまうな。
「ギンジさん、今度は何の御用でしょうか?」
「今から森に行くんですが荷車みたいな物って借りれたりしませんか?」
「ギンジさんは誰かとパーティを組まれたのですか?」
「いえ、一人ですが」
「一人で狩りに行くのに荷車を使われるのですか!?」
「そのつもりなんですが・・・無理ですかね?」
「貸し出しに制限はありませんが貸し出し料がかかりますので一人での狩りで利用される方はほとんどいらっしゃいませんのでお聞きしました」
「一応貸し出し料とかを教えてもらってもいいですか?」
「はい。人力で引く荷車ですと貸し出し料が1日50ベルかかります。また保証金として100ベルお預かりします。この保証金は返却時に荷車に破損がなければそのままお返ししますが破損があった場合はその補填に当てるためにいくらか頂く場合がございます。返却が遅れますと遅れた日数分の貸し出し料と罰則金を頂きます。それから・・・」
たくさん説明されたが
・返却が無い場合や全損・それに近い破損の場合は買取扱いになり荷車代を払う必要があること、
・バックレたり返却時に支払額が保証金を超えた場合払えなければ借金扱いとなること、
・借金に関しては一定期間支払いが滞るとお尋ね者として登録され国中に通達されること、
・借金が払えないままの者は奴隷として売られてしまうこと
等を説明された。
この世界は奴隷制度があるのか。常識かもしれないので小さな声で聞いてみる。
「この国は奴隷制度があるんですか?」
「はい。借金が返せない場合奴隷として売られます」
「そういうお店があるんですか?」
「店というか奴隷が暮らしている集合住宅があるのでそちらをご覧になって購入することが可能です。そこで暮らしている間も生活費はかかりますので労働はしていただいてます」
奴隷というのは誰でも売り買いできるものでは無く、役場を通して国に借金をしてそれが返せない者への措置みたいだ。
子供は教会で生活できるし大人が生活に困窮した場合は国から一時的に借金することも可能だが、それが返せないと奴隷にされてしまう。
奴隷から開放されるかどうかは買った人次第だがそもそも生活できないほど金が無いから奴隷になったのだ。開放されたって生活できないので開放される意味がない。奴隷の衣食住の保証は持ち主の義務なので奴隷でいればとりあえず食べていけるのだ。
そういった国の制度みたいなので自分の子供を売ったり人を攫って人身売買みたいなことはできないとのこと。
一通り奴隷のことを教わったのでお礼を言う。
「ありがとうございます。それでは荷車を借りてもいいですか?」
「わかりました。それでは貸し出し料と保証金をお預かりします。貸し出しは1日でいいですか?」
「はい。それでお願いします」
「それでは150ベルお預かりしますね」
プレートからお金を払う。荷車を借りている情報もプレートを通して記録されるそうだ。お金はギリギリ払えたが今日の狩りを頑張らないとダメだな。
役場の裏にある倉庫に案内されそこにある荷車を一台借りる。俺が借りたリアカーみたいなものから幌馬車のようなものも置いてある。
「馬や馬車も借りれるんですか?」
「はい。馬車も貸し出ししております。馬は別の場所で何頭か飼っておりますので事前に入っていただければご用意できます。また役場以外にも馬の貸し出しや販売をしている店がございます。そういった店では御者も雇うことが可能です。役場で借りる場合は自分で御者をしていただくか、御者のできる人のご紹介という形になります」
「色々と教えていただきありがとうございます」
「はい。ではお気を付けて」
空の荷車を引いて街を歩くのは少し恥ずかしい気もしたが周りの人も特別こちらを見るわけではないので自意識過剰なようだ。
街を出る時に門のところでトムさんに「気合い入ってるな!」と声をかけられた。愛想笑いを返して森に向かう。
森の中に荷車を引いたまま入るのは難しそうなので小川の近くに荷車を置いて森に入る。運ぶのが面倒だからできるだけ荷車から離れずに狩りをしよう。
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