1-9 マックさん

「マックさん、少し聞きたいことがあるのですがいいですか?」


 本を閉じて部屋の隅にいるおじさまに声をかける。マックさんは本を閉じると立ち上がってこちらに来てくれた。


「なんだい?紹介した本じゃ足りなかったかな?」

「いえ、こちらの本はとても役に立ちました。ありがとうございます。それで聞きたいのは街の近くの森にはどんな魔物がいるんでしょうか?ゴブリンと兎を狩ったことはあって、黒狼も見たことはあるんですが他にも魔物はいるんでしょうか?」

「ああ、君は戦士だったね。森の浅いところならゴブリンや兎、川の近くだと蛙の魔物も出るね。もう黒狼にも会ったのかい?」

「はい、少し遠くからこちらの様子を伺っていたみたいですぐ森を出て離れたので襲われはしなかったんですが」

「森の浅いところに黒狼がいるのは珍しいね。群れで行動するから魔物の中でも危険なんだ」

「毛皮が売れると聞いたんですが高く売れるんですか?」

「狩る気かい?なかなかやんちゃだね。黒狼の毛皮は出回る量が少ないからね。結構高く買い取っているはずだよ。それに危険な魔物とされているから役場での討伐報酬も高くついていたはずだ」

「高く売れるなら狩る人が多いんじゃないんですか?」

「こちらが集団で行くと姿を見せないんだよ」

「じゃあ一人か二人で行って狩るとかは?」

「そんな人数で黒狼の群れを狩れる戦士ならもっと稼ぎがいい依頼や魔物がいるからね。わざわざ危険を冒して魔物の群れに襲われにいかないよ」


 たしかに。


「黒狼の目撃が増えたり襲われたりした人が出て来たら討伐依頼として強い戦士の人にお願いすることはあるけどね。普段はあまり狩られないんだよ。だからあまり毛皮が出回らないので素材としての買取も少し高くなってるね」


 需要はあるが基本的に狩られないので供給不足で価格が高騰しているのか。チャンスかもしれない。


「詳しくありがとうございます。黒狼は素材として価値があるのは毛皮だけですか?」

「牙も素材として買取しているよ」

「わかりました。魔法ってここの役場で教わることはできますか?もしくは教えてくれる人の紹介とか」

「何の魔法を覚えたいんだい?」

「なんでもです!今は魔力を魔道具に流したりするのと小さな明かりを出すくらいしかできないので」

「自分の体を流れている魔力は感じれるかい?ならそれ流れを意識して自分の体の動かす部分や力を入れたい部分に強く流す意識で魔力を操るんだ」


 気を操るのと同じだな。これはそんなに難しくない。


「これが身体強化だ。治癒魔法も似た感覚なんだがこればっかりは怪我をしてないと練習できないがわざわざキズをつけるのもね・・・だから次に狩りに行った時に小さな擦りキズとかから練習するといい」


 わかりやすいね。というかさっきの魔法の入門書にもこういうアドバイスを書いとけよ!って思った。


「あとはそうだね。手を出してごらん」


 そう言いながらマックさんが手を出したのでその上に自分の手を重ねる。

 マックさんの手から魔力を感じる。


「僕の魔力が分かるかい?」


 俺は無言で頷く。


「それじゃあ集中して魔力の流れを感じてみて。一度だけだからね」


 マックさんが机の上にあるコップの上に手をかざすと


 '水よ'


 と言ってコップに水を注いだ。


「とまぁこんな感じだ。一回で使えるようになるほど魔力の流れを感じれたかはわからないが私は魔法の教師じゃないからね。あとは自分で頑張ってくれ」

「ありがとうございます。とても為になりました」

「ははは。初めから感じていたけど君は本当に戦士としては珍しく丁寧だね。役場の職員やお店の人とはうまくやれるだろう。ただ戦士同士だと丁寧すぎると舐められたりもするからね。うまく使い分けるといい」


 マックさんは社交辞令だと思ったのかもしれないが本当に為になった。

 魔力の流れも感じれたし目でも見れた。時間がある時に練習をしよう。


「本当にありがとうございました。また分からないことがあればよろしくお願いします」

「日中であれば開いているからいつでもおいで」


 お礼と挨拶をして資料室をあとにする。受付にいたメガネのお姉さんにもお辞儀をして役場をあとにする。


 資料室は役に立った。今は目の前のことだけだったが歴史や地理のことも知れそうだしまた世話になるだろう。

 何より最後のマックさんのサービスは本当に助かった。まさかこんなに早く魔力の流れを共有してくれる人がいると思ってなかった。


 目で見れる魔力の流れ・気の流れで慣れているコントロール・地球での物理現象への知識。

 魔法の習得はなんとかなるかもしれないな。


 そう思いながら俺は手のひらの上に水の球を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る