閑話 シルフ

 (なんでなんでなんでなんで!?)


 いつものように採集の為に森の浅いところに入っただけだったのに。

 樹皮を剥がし足元の薬草を抜きふと顔を上げると目の前にゴブリンがいた。3体も。

 魔物を見かけたらすぐに森から出て走って逃げるのに今日に限ってこんなに近づかれるまで気が付かなかった。

 驚いてしまってつい足がもつれて転んでしまう。ゴブリン達は「Gya!Gya!」と声を上げながら私を囲む。

 すぐに走れば逃げ切れただろうけど恐怖で腰が抜けてしまった。採集に使っているナイフを振り回すがゴブリンには届かない。逆に攻撃しようとした私に怒ったのか長い爪をこちらに向けて振る。ナイフで応戦するが全然だめ。

 いつもはこんな浅いところに来るゴブリンはせいぜい1体なのにどうして今日に限って3体も・・・ゴブリンは雑食で悪食だ。襲われた人間は骨も残らないらしい。嫌だ。血の繋がった家族のいない私だけどこんなところで魔物に食べられて終わりを迎えるのはつらすぎる。


「キャアアアアアアアアア!!誰かああああああ!!!」


 もしかしたら近くに戦士の人や衛兵の人がいるかもしれない。そんなわずかな希望にすがって叫ぶ。私の叫びにゴブリンが一瞬ビクっと反応したがすぐにまた爪が振るわれる。精一杯ナイフを振るが手足には爪による生キズがたくさんついている。死にたくない。死ななければキズなんて治せばいい。

 誰か。

 誰か助けて。


 その時目の前のゴブリンが消えた。

 消えたのではない。横に吹き飛んだのだ。1体吹き飛んだと思ったら瞬く間に3体とも私から離れた場所に倒れていた。


 お父様とお母様以外にも神様はいるのかもしれない。

 目の前で私に心配そうに声をかける男性を見て、私はそう思った。



 ギンジさんは不思議な人だった。

 どこから来たのかもわからないし色んなことを知らなかった。

 それでも強くて優しかった。

 私が助けてもらったのに話せば話すほど私に感謝をしていた。

 人見知りなのか初対面の人の前では寡黙だった。

 私にできることならなんでもしてあげたいと思った。

 なのに私の採集の護衛をしてくれた。

 申し訳なかった。

 でも嬉しかった。

 ずっとこんな風に生きて行けたらいいなと思った。


 でも私はあと数年で独り立ちしないといけない。


 私は魔法が全然使えない。水も出せない。

 ゴブリンからも逃げ出すくらい弱い。

 それに教会出身の孤児だ。働き口のツテもない。


 いや、悲しい未来のことは忘れよう。

 今はこの命の恩人の、ギンジさんの力になれるように考えよう。


 それでも採集する私の目の前で何の苦も無く魔物を狩るギンジさんを見て、私にできることなんてあるんだろうかと、自分の無力さに途方に暮れてしまった。

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