1-7 服を買う

 街の入口近くで馬車とすれ違う。御者が1人と馬車の外に3人。歩いてる3人は体格もよくみんな腰に剣を下げ槍を持つものもいる。金属製の胸当てや肩当もしている。鎧とまではいかないが動きやすい範囲できちんと防具をつけている。戦士の遠征か商人の護衛か。

 御者の男は体格は普通な感じだから御者として雇われているのか。

 こちらは2人なので道の端に避けて道をゆずる。御者の人が片手を上げてこちらに合図をくれたので軽く会釈して返す。


「兄ちゃん、獲物はそのナイフだけか?」


 戦士の一人が俺が棒にぶら下げてる兎と腰に下げたナイフを見比べながら声をかけてきた。

 気の流れは落ち着いている。敵意はなさそうだ。


「そうですね。この棒で殴ったり突いたりもしますが・・・刃物はこれだけです」


 というか今のところ必要もないしな。もし植物の魔物と闘うなら打撃だけだと危険かもしれない。魔法で燃やせるようになるかそれなりの刃のある武器が必要になりそうだ。


「兎狩りならそれでも大丈夫かも知れんが魔物相手に剣が無いのは危ないぞ。それとも兄ちゃんか嬢ちゃんのどっちかが魔法が得意なのか?」

「いえ、2人とも魔法はさっぱりなので。お金ができたら剣を持つのも検討します。助言ありがとうございます」


 素直に心配してくれてるんだろう。そう受け取りこちらも素直に返す。


「そうだな。あまり森の深くに行くんじゃないぞ」


そう言って馬車と共に離れていった。


「あっちって何かあるの?となりの街とか?」


 森に行くなら道沿いじゃなく草原を突っ切った方が近い。道なりに進んでいく馬車を見ながらシルフに尋ねる。


「森が切り開かれていて道が作られているところがあるんです。そこから森の深いところに行くんだと思います。野営をするなら荷物がたくさん必要ですしそれを運びながら森を進んでいくのは大変ですので」


 森の奥に行くならそれなりの手練れなのだろう。馬車の中にも人がいたようだしそれなりのパーティなのかもしれない。


「ギンジさんは剣も使えるのですか?」

「ちゃんと使ったことはないよ。必要になれば使うかもしれないけど今のところはあんまり考えてないな」

「それは今後の狩り次第という感じですか?」

「そうだな。どんな魔物がいるのかもわからないし、資料調べてみてからだね」


 街に戻って先に役場に向かう。今日はゴブリン2体と兎が2匹、兎は危険視されていないので討伐報酬はなく魔晶の買取のみだった。肉と毛皮はそれぞれ売れるらしいがこれは食べるのでお持ち帰り。毛皮が売れると思っていなかったのとそもそも毛皮を剥いだりなめすやり方を知らないのでやり方を聞く。皮を剥いだ後水にさらして持ち込めばいいとのこと。それ以降の加工は実際に皮を扱う職人がやってくれるそうだ。この兎の皮も後日持ち込もう。

 今日の買取は120ベルだった。


 続いて魔道具屋へ。シルフの採集した素材の買取だ。買取額を知るのは他人の財布を覗くみたいでなんとなく嫌だったので待ってる間、店内の商品を見る。

 水飲み・火おこしみたいな魔法陣が刻まれた道具は大小さまざまな種類があり、傷薬・毒消し・魔物避け・痺れ薬のような消耗品と色々ある。水飲みなんて名前だがバケツや桶くらいの大きさのものもあるし火おこしも手のひらサイズから大きめのコンロのようなものまで多数ある。教会の台所にも火おこしはあったしこの世界では魔道具が家電の役割をしているようだ。

 魔法陣が刻まれたものは壊れるまでずっと使えるようなので消耗品に比べると値段がすごかった。ただ物価がよくわかってないのでゴブリン〇体分、としか把握できない。火や水の魔法も誰でも使えるわけじゃないみたいなのでやはり需要が高いのだろう。

 やはりそのあたりの魔法の習得を早くしたいな。


「お待たせしました!」


 シルフの買取が終わったので店を出る。パンパンだった鞄は出発する前のようにぺったんこになっている。


「ちょっと買いたいものがあるんだけど、服屋ってどこかな?」


 兎を担いだまま買い物するのもあれだけど着替えが無いので服を買いに行く。

 庶民向けの服屋に行きシャツとズボンと下着を買う。とりあえず1セットあれば今着ている甚兵衛と交換でやれるだろう。

 シルフの服は教会で支給されているものらしくここに売っているものよりも簡素でくたびれていたのでそちらも買ってあげる。断られたが細かいサイズがあるような商品でもないので俺が着るには小さいサイズを2セット買って無理やり押し付けた。

 今日の稼ぎが丸々吹っ飛んだけど生活必需品だ。問題ない。近いうちにジャックとメグの分も買おう。宿代だと思えば全然問題ない。


 教会に戻って兎を見せると3人とも喜んでくれた。シスターは少し申し訳なさそうだったが俺が肉が食べたいから遠慮しないでくれと言って納得してもらった。

 焼いて塩を降っただけの兎のステーキだったが新鮮なおかげか美味しかった。1匹を何日かに分けて食べることにしてもう1匹は干し肉にする。剥いだ毛皮は井戸の水で洗ったあと外に干させてもらう。井戸の水を何度も汲んで作業するのは中々面倒だった。今後はできれば森の小川で皮を水にさらすところまで済ませたいと思う。

 ただこれで森に行くときも肉が持って行ける。というか火を用意できるようになってその場で狩った魔物を調理できるのが一番いいが・・・



「明日は街の清掃を手伝いますので採集には行きません。すいません」


 子供2人が寝静まったあとシルフと話していると明日の護衛は休みだそうだ。

 手伝うか聞いたがシスターに尋ねたが不要だそうだ。清掃を教えるのも街の人に新顔の説明をするのも逆に手間だと言われてしまった。たしかにそうかも。

 しばらくは働くしかないので狩りに出かけて、可能なら役場の資料室に行ってみよう。

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