1-6 採集の護衛

 森に向かう途中の草原では時々足を止めて草を抜いては肩掛け鞄に入れていくシルフ。

 何か手伝おうか?と聞いてみたが私の仕事なので!と断られてしまった。


 森に入ってからは草を抜いたりきのこを抜いたり樹皮を剥いだりして鞄につめていく。途中でゴブリンやでかい兎に遭遇して俺はそっちの対応。と言っても気の流れを邪魔するように棒で付いて動きが止まったところをナイフでザクっとやれば終わり。

 動物と闘ったことは無かったけど気の流れがある生き物なら問題なさそうだ。


「植物の魔物っているの?」

「私が知ってるのは人面樹や人食い花と呼ばれる魔物ですね。実際に見たことはないのですが」


 やはりいるのか。魔物がどうかはわからないが植物の気の流れはほとんど見えない。というより気は見えるんだけど流れが遅すぎて流れてるのか止まってるのかがわからない。

 魔物であれば実際に動くんだろうし気の流れも見えればいいんだけど。

 鉱物や液体などの魔物もいるんだろうか・・・知識が必要だ。


「図鑑というか、魔物のことを知る方法って何かないかな?」

「役場に資料室があってそこにあると思います。私も採集のために素材となる植物を調べたりしますし」

「魔法のことも調べたりできるかな?」

「魔法関連の本もあったはずです。ただ魔法は個人個人の感覚の差が大きいらしく本などで学ぶのは難しいです」

「まぁ使えなくてもどんな魔法があるかとかも知りたいから」

「たしかにそうですね。魔法を使ってくる魔物もいますし」


 魔法使ってくるの?それは大問題だ。遠距離での戦いになるなら現状攻撃手段がない。そうなると魔法の会得を急がないとなぁ。


 そんなこんなで会話しながらもせっせと草集めをするシルフ。

 今は川辺に来て石をひっくり返したりしながら苔みたいなのを削っている。

 植物採集なんて簡単そうに思えたが何が売れるかなんて知識がないとやってられない。

 そう考えるとシルフは勉強熱心なんだと思う。

 ちなみに俺は先ほど狩った兎の血抜きをしている。こいつの肉は食えるとのことなので夕食に使ってもらおう。やはり食卓に肉は欲しい。


「これって今焼いて食べれないかな?」

「魔法が使えればいいんですが火が用意できませんし調味料も持ってきてないので難しいですね」

「火を起こす魔道具は手に入らないの?」

「持ち歩けるものは値が張りますね。旅をする方や狩りで野営をしたりする人達にとっては必須のものなので。水飲みも貴重なものなんですよ!」

「でも魔法使える人は必要ないんじゃないの?」

「はい、ですが火や水の魔法が使える人で戦士をされている人はそんなに多くないので。そういった人はいろんなパーティから誘われてしまうのでパーティ内に火と水魔法が確保できない人達も少なくありません」


 魔法のある世界!と思っていたが思ったよりも魔法のハードルは高いみたいだ。火や水を出せるだけで引っ張りだこになる戦士界隈。


 そうなると戦士としてやっていくならやっぱり自分で習得するしかないか。


「鞄がいっぱいになってきたのでそろそろ帰りましょうか。いいですか?」

「今日の夕ご飯は確保したしそうしようか」


 血抜きした兎2匹を棒に吊るして肩から担ぐ。ちょっと重いけど気と魔力を使って力をこめると楽々運べそうだ。


「シルフの取った素材はどこで売るんだ?それも役場で買ってくれるのか?」

「役場でも買い取ってもらえますが魔道具屋に持って行く方が高く買ってもらえますね」

「魔道具に使うのか?」

「私の持ち込むようなものは魔道具より薬の調合とかですね」

「治癒魔法があるのに薬を使うことがあるのか?」

「気絶したり魔法が使えないほど疲弊してたりすると自己治癒はできませんから。そういった場合に使ったり毒などは治癒で処理できない場合もあります。あと治す方だけじゃなくて魔物相手に使う痺れ薬とかですね。これは薬というより毒になりそうですが」


 調合して何かを作るのも魔道具屋の領分だそうだ。貴重な素材や特別な病に効く薬が必要になった金持ちがいたりすると役場経由で依頼が出る場合もありその時は直接売るより高い報酬が貰えるという。


 とりあえず近いうちに役場の資料室で調べものだな。


 森を抜けようかというところでふと気配を感じて振り返る

 でかい犬・・・いや狼か?がこちらを見ている。目に見えるのは1頭だけだが複数の気が見えるので群れかもしれない。襲って来そうな感じはしないが、


「シルフ、あれはなんていう魔物だ?」

「あ!あれは黒狼(くろおおかみ)です!早く森を抜けましょう。夜でも無い限り森の外まで追って来ることはありません!ほら早く!」


 そう言ってシルフが走りだしたので俺も慌ててついていく。


「あれはやばい魔物なのか?」

「危険ですね。群れで行動して自分たちより数が少ない獲物しか狙いません。襲われたときは絶対こちらより数が多いということなので簡単に倒せるほど強くなければ襲われた時点で終わりです」


 狼のくせにケチな狩りをするやつらだ。でもそれだとかなりの狩りを行わないと群れの餌を確保できない気がする。ローリスクローリターンすぎないか。


「黒狼は高く売れないのか?」

「毛皮が素材としては人気があるそうですがあまり詳しくないです。絶対に私には倒せないので」


 確かに逃げるしかない相手の値段など知っていても仕方ない。そんなものより1種類でも多くの植物を覚えた方がシルフには意味があるのだ。


 黒狼はこちらを追いかけるそぶりもなかったので森からある程度離れたところからは歩いて街へ戻っていった。

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