1-2 シルフ
(やはりここは地球じゃないどこか・・・)
魔法とゴブリンを見てそのうえ聞いたこともない国の名前を聞かされてここが地球じゃないことをなんとか理解する。
理解はしているつもりだがここはどこなのか、地球に戻れるのか、戻れない場合この世界で生きていけるのか、と色んな考えが頭のなかで浮かんで纏まらない。
「その通りです。ノールランド?という名前も今初めて聞きました。やはり国外から来た人というのはすぐわかっちゃうんでしょうか?」
「そうですね。先ほど話した感じだと魔法をご存じじゃなかったのと、見たところ'プレート'をお持ちじゃなさそうなので」
彼女はそう言いながら首から下げた四角い金属の板を見せてくれた。
5cmくらいの正方形の板には文字や模様が刻まれていて、角のところに空いた穴に糸のようなものが通してあり首から下げられていた。
「プレート・・・?それはいったいなんですか?」
「これは'国民登録証'ですね。ノールランド国では国民全員が持っています」
「紛失したり人に獲られたりすることはないんですか?」
「この糸は魔力の力が作用していて切れることはありませんし、プレートを使うには登録した本人の魔力が必要なので他人の物を手に入れても意味がありません」
なるほど。そりゃ首にプレートが無い人間がいれば怪しいよな。
詳しいことは置いといて先に気になっている聞いてみる。
「そういえばゴブリンでしたっけ?あれ一応まだ生きてると思うんですが放っておいて大丈夫ですかね?」
「あ!!マズいですね!魔物は倒せる限り討伐するのが推奨されています」
「それでしたら先ほど使っていたナイフをお借りしてもいいですか?トドメ刺してきますので」
言ってから思ったけど森の中で二人きりのこの状況で武器を渡すわけな
「どうぞ。よろしくお願いします」
渡してくれた。
ゴブリンのもとに向かいナイフで首に刃を入れていく。
「魔物は死ぬと心臓が結晶化して魔晶になります。それは討伐の証明になりますし魔晶は買い取ってもらえますのでそちらの回収もお願いできますか?」
首を切り気の流れが無くなって死んだのを確認したゴブリンにナイフを入れて胸を開く。
心臓があったであろう場所に拳くらいのスペースがあってそこにビー玉を一回り大きくしたくらいの丸い石が転がっていた。
同じ要領で残り2体の魔晶も回収する。
「これでいいですか?」
そういって魔晶を手のひらに乗せて彼女に見せる。
「はい。ちょっと待ってくださいね」
彼女はそういうと肩から斜めに下げていた鞄から鉄製のコップをとりだし俺の手の上で傾ける。
キズを治した時のように手元が光るとコップから水が溢れてきた。
「ゴブリンの血で汚れてしまっているので洗い流してください。手を洗ったらナイフもお願いします」
言われた通り手と魔晶とナイフを水で流してナイフは彼女に返す。
魔晶も渡そうとしたら討伐したのは俺だからと突き返された。とりあえずポケットにでも入れておく。
「それは水の魔法ですか?」
「これは'水飲み'という魔道具でコップの底に魔法陣が描いてあります。ほら」
そういってコップの中を見せてくれる。
魔道具というのはこんな風に魔法陣が刻まれており、そこに魔力を通すと対応した魔法が発動するみたいだ。
「私は水を出す魔法が使えませんので、魔道具に頼っています。良かったら飲んでください」
そういって水を溜めたコップを渡してもらう。
こんな可愛い子が使ってるコップで水が飲める!?素晴らしい。
なんてことを考えながら遠慮なく頂く。思ったより喉が渇いていたようで一気に飲み干した。
「ごちそうさまでした!」
そう言って水飲みを返す。
「いえ、これくらいでしたらいくらでも。先ほどは本当にありがとうございます。私はシルフと言います。お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「僕は銀二と言います。こちらこそ色々教えてもらって助かります」
やっと自己紹介だ。とりあえず下の名前だけ伝える。
「ギンジさんですね。よろしくお願いします。それと敬語は使わなくて大丈夫ですよ」
「それでしたらシルフさんももっと砕けた話し方でお願いします」
「命の恩人にそんな!!それに私の方が年下だと思いますので!!」
「うーん。わかった。じゃあ俺は普通に話させてもらう。シルフもあまり気を使わないでくれ」
「はい。わかりました」
「それで図々しいお願いだと思うんだけど、色々と教えてもらえるかな?」
「はい。何でも聞いてください」
じゃあ下着の色を・・・
なんてことはもちろん聞かず先ほどの会話で気になったことを色々と聞いていく。
ちなみにシルフは植物採集の為に森に来ていたそうでここは森の浅いところらしい。普段は魔物に襲われることもなくゴブリンが出ても1体なので逃げるのも問題なかったそうだ。
とりあえず街に向かって歩きながら色々と話を聞かせてもらう。
プレート、これは出生時や入国時に作られるもので身分証明として使われる他、預金の管理などにも使われているそうだ。
魔力には一人一人異なった魔法紋がありそれを認識する特別な金属で作られているらしい。しかも基本的に破壊不可。すげぇ素材だ。
魔法のこと。魔力は全ての生き物に流れておりそれを操って色んな魔法を使う。身体能力を上げたり自分の体のキズを治す治癒魔法は魔力を外部に出力しないので難易度は低いらしい。
火や水を出したり他人のキズを治したりするのはそれなりに難しくその魔法が使える人に魔力の流し方を教えてもらってやっと使えるようになるものだそうだ。
光の魔法は魔力をそのまま出力すれば光るのでこれも難易度が低いものだという。身体強化・治癒・明かりは程度は違っても誰でも使える魔法でそれ以外の魔法が使えると魔法使いとして扱われるようだ。
ちなみに治癒魔法を使った時と水飲みに魔力を流した時に確認したが気の流れと同じように人体に流れる'魔力の流れ'も見える。
気の流れのように体に触れて流れを操れるか分からないがもしかするとこの世界でもこの目は非常に役に立つかもしれない。
「プレート作る時に魔力を流さないとダメなんだよね?俺魔法使えないんだけど大丈夫かな?」
正直一番不安だったことを聞いてみる。一応自分の体に魔力が流れているのは見えるが操作の仕方がわからない。
「大丈夫ですよ。赤ん坊も生まれたらすぐに国民登録するんですから。それに魔法を使える人に魔力を流してもらうと魔力を使う感覚がわかると思います。やってみますか?」
そう言ってシルフが手を差し出す。
これは握っていいのかな?可愛い女の子の手を握るとか・・・ドキドキする。
俺がその手を握ると「いきますよ」と言って触れ合った部分が薄く光り少し熱くなる。
いや、熱くなったように感じているけど実際に温度が上がってるわけではないみたい。手から全身に向かって熱が巡る。
「お?おおおおおお!!!!」
触れ合った部分から自分の体に魔力が巡っていくのがわかる。
実際に目で見ても自分の体の魔力の流れが見える。
これが魔力か。と思った時、すっとシルフの手が離された。
「はい、終わりです。どうですか?」
そう言って手を離したシルフがこちらを見つめている。
使ってみろってことかな。手のひらを広げてそこに先ほど流れた魔力を集めていく感じで操る。
"ポワッ"
そうすると手の上に光る球が浮かんですぐ消えた。
「スゴイです!それが明かりの魔法ですね。いきなり魔力を体外に出すなんて驚きです!ギンジさんは魔法の才能があるかもしれないですね!!」
興奮気味のシルフが捲し立てる。
「そうかな?よく分からないけどとりあえずこれで国民登録は問題なさそうで安心したよ」
「それはそうですけど・・・ほんとにスゴイんですよ!私なんて明かりを出すのにどれだけ時間がかかったか・・・」
とにかくスゴイらしい。気の流れを操るのは慣れていたので同じような感覚でやっただけなんだが。まぁ否定しても仕方ないしな。
「わかったわかった。とにかく落ち着いたら魔法の練習をしてみるよ」
「それがいいですね!ただ魔法を教えてもらうのも簡単ではないんですが・・・あ、あれが私の住んでるヘルムゲンです!」
彼女が指さす先に塀に囲まれた街が見えた。
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