第七話

 清泉がうっすらと目を開けると、黒曜丸に握られた手が薄紅色に発光して見えた。

 その薄紅色のを辿るように、黒曜丸を見ると、黒曜丸は晴れ渡る空のような、輝く空色に包まれている。

 

(これって、もしかして…)

 改めて清泉は、視線を握られた手に戻し、もう一方の手も見てみた。

 基本的には薄紅色ではあるが、その手を纏った輝きは、虹のような色のゆらぎを見せ、穏やかに発光していた。

 

「綺麗…」

 思わず口に出してしまい、清泉は黒曜丸を見た。

 

「でしょう!」

 空色の気に包まれた黒曜丸に、優しく微笑みかけられ、清泉ははにかむような笑顔を返した。

 

「清泉さんにも、気が見えたんですね」

「ハイ、こんな風に見えるんですね…」

 そう言って、清泉は再び握られた手に視線を落とすと、

「でも、この手を離すと、また見えなくなるんだろうな…」

 寂しそうに、そうつぶやいた。

 

「その時は、また握ればいいじゃないですか、何度でも!」

 そう言って、屈託のない笑顔を見せる黒曜丸に、清泉は少しだけ勇気を出して、

 

「じゃ…なるべく近くにいてくださいね…」

 握られた手を見つめたまま、小声で恥ずかしそうに言った。

 

「え?」

 

 黒曜丸がそれだけ言って、しばらく黙り込んだので、清泉は勇気を出して言ったことを後悔し、握られた手を引いて離すと、うつむいたまま顔を上げることが、出来なくなった。

 

「すみません、清泉さん…」

 

「俺、剣術以外何も出来なくて、雲斬りが一人で抜けるようになったら、修行し直すために、お世話になってるここからも、出て行かなきゃと思ってます…」

 黒曜丸はいつになく、真剣な口調で続けた、

 

「でも、今の俺は…清泉さんがいなきゃ、帯一つまともに結べんのです!」

 自分の名前が出て、清泉が顔を上げると、黒曜丸は真っ直ぐ清泉を見つめていた。

 

「近くにいて欲しいのは、俺の方なんです!だけど、出て行くとなれば、そこまで甘えられません、だから…」

 

「私も一緒に行きます!」

 黒曜丸の言葉を遮るように、清泉はそう被せた。

 

 清泉の発したその言葉に、黒曜丸は目を丸くして驚き、当の清泉自身も驚いていた。

 

「も、もちろん迷惑なら、こ、断ってください…」

 瞳を潤ませ、顔を真っ赤にして、言葉を続けた清泉に対して、

「迷惑なワケ、ないじゃないっスか!」

 黒曜丸は真剣な表情でそう答えたものの、

「ただ、一緒に来てもらうとなれば、その…筋だけは通さないと、いけないと…言いますか…」

 視線を外して、どんどん口ごもり始めた。

 

 清泉も黒曜丸の言わんとしていることを察し、うつむいて何も言えずにいた…。

 

 二人にとって、かなり長く感じる沈黙が続き、意を決した黒曜丸が口を開いた。

 

「清泉さん!」

「ハイ」

「断ってもらって大丈夫です!」

「ハイ…」

「一緒に来てくれるなら、俺の…」

 

「俺の嫁になって来てください!」

 

 人生初の告白に、ど緊張した黒曜丸の言葉は、離れの部屋にいるにもかかわらず、かなり広い蘇童将軍の屋敷の、家人全ての耳に届くほど、よく通る大きな声量で発せられた。

 

「ハイ、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

 

 清泉は、育ちの良さが伺える、深く美しいお辞儀をし、黒曜丸の結婚の申し出を受け入れた。

 

 清泉の返答と、彼女の纏った幸せに満ちた美しい気は、黒曜丸にとって忘れられないものとなり、隻腕となった身ではあるが、この腕で清泉を一生守り抜こうと、堅く心に誓ったのである。

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