奴隷少女の名前

 奴隷の少女を買った俺はめでたく奴隷商を終え、念願の旅に出ることが出来るようになった。

 旅では親が残した金と馬車、そして俺が買った白銀の髪に赤色の目を持つ少女がついてくる。

 だがそれだけではさすがに旅をするには物が足りない。


「という訳で旅に向けて準備をする。まずは買い物だ」


 奴隷少女を買った次の日、俺の作った飯を食べながら奴隷少女にこれからの予定を話す。


「買い物ってどこに行くの?」


「この近くにあるファルストっていう町だ。そこに俺が昔から知ってる人が店をだしてるんだ」


「へぇ~」


 奴隷少女はもぐもぐとパンをかじる。


「ちなみにだが、お前を売る町でもあった」


「ぐっ、ごほっ!?」


 奴隷少女は急にむせる。俺はすぐに水筒を取り出し奴隷少女に渡す。


「あ、ありがとう。……いちおう確認だけど、私を売らないわよね?」


「売らないよ。もう俺が買ったからな」


「そう。なら良かった。まぁどの道私じゃあ売れないものね」


 奴隷少女は自分の長い白銀の髪を見る。


「呪いの子か。そういえばお前、魔法とか使えるのか?」


 この世界には魔法と呼ばれる神から授かった特殊な力を使える者がいる。

 奴隷の中にも数は少ないが存在し、そう言った奴隷はものすごい高値で売買される。


「どうだろう?魔法なんて使おうとしたことないから」


「それもそうか。町に行ったら調べてみるか」


 呪いの子は邪神に魅入られた者ともいわれる。邪神も神と言えば神だしもしかすると魔法が使えるかもしれない。


「そういうショウは魔法使えないの?」


「無理だな。昔魔法使いの人に会った時に調べてもらったが俺には使えないらしい。それに、もし使えていたら奴隷商をやるよりも俺が奴隷として売られていたかもしれないな」


 俺の両親なら平然とやるだろう。何せ年端も行かない子供に奴隷の世話をさせて自分たちは奴隷を売った金で豪遊するくらいだ。その子供には奴隷より少しマシな食事を与えるだけなのに。


「……それならショウが魔法が使えなくて良かった。あなたと出会えってなかったら困るもの」


「確かにな、あの両親なら呪いの子だろうが何だろうが無理にでも売る人だからな。こういうと不謹慎かもしれないが、いなくなってくれて良かったな。俺にとってもお前にとっても」


 俺のそんな言葉に奴隷少女は笑って言葉を返す。


「ショウも苦労してきたのね。……ねぇショウ」


「どうした、何か気になることでもあったか?」


 俺が聞くと奴隷少女はうんうんと首を縦に振る。いや、むしろ激しく振っていた。よっぽど気になることがあるらしい。何だ?


「私の呼び方!」


「呼び方?」


 呼び方、二人称、つまり奴隷少女の名前だ。


「そういえば名前聞いてなかったな」


「そういえばってひどくない!?」


「ごめんごめん。それで、名前は?」


「……」


 名前を聞くと奴隷少女は突然黙り込む。


「名前、名前ね。……普通奴隷の名前って主人が決めるんじゃないの?」


「そうだが、別に俺は気にしないからな。もしかして名乗りたくないのか?」


「………。うん」


 奴隷少女は小さく頷く。


「なら仕方ないな。名前、考えるか」


 その瞬間、奴隷少女のキラキラとした目が向けられる。そこまで期待されても困るんだが。


「……シロ。っていうのはどうだ?」


「シロ。どうしてシロ?あ、別に気に入らない訳じゃないから。純粋になんでか知りたいだけだから」


 奴隷少女いや、シロは手を横に振りながら焦ったように言う。

 別に嫌なら嫌でいいんだが。


「俺とお前は奴隷と商人として接してきた。だがこれからは違う。新しい関係、新しいスタート。真っ白な状態からの始まり。だからシロ」


「なるほど。ちゃんと考えてくれたんだね。ってきり私の髪の色から取ったと思ってたよ」


「……別にそういう理由も、無いわじゃ無いな」


「素直だねショウは。シロ、シロか。いいね。じゃあ改めて、これからよろしくねショウ」


「あぁ、よろしくシロ」


 俺とシロは握手を交わした。











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