奴隷商と売れ残り奴隷少女
影束ライト
売れ残りの奴隷少女
俺は物心ついたときから奴隷の世話をしていた。
その理由は親が奴隷商だから。
俺は親の言われるままに奴隷の世話をし、商品としての価値を守り、そして売られる姿を見てきた。
そんな俺の人生は一生親の言われるがままに奴隷商として手伝いをして終わるものだと思っていた。
そんな中、俺が15歳の時に親が死んだ。
俺が奴隷の世話をしている時に宿屋で盗賊に襲われたらしい。
騎士団からそう聞かされ、残った奴隷と金は俺の物になった。
そして親を失い、多くの奴隷を抱えた俺はこう思った。
これチャンスじゃね?と、
親がいなくなった今、残った奴隷さえ売り切ってしまえばあとは親が残した金と奴隷を売って得た金、そして商売で使っていた旅道具や馬車まで手元にある。
これだけの物があれば夢だった世界をめぐる自由な旅が出来る。
ということで思い立ったが吉日、俺はその日から積極的に奴隷を売るようにした。
と言っても決してテキトーに売ったわけでは無い。
親にはなかっただろうが俺には世話をして直接奴隷と関わってきたからこそ、少なからず情というものがある。
だからこそ、少しでもまともな人に買われてほしいと思う。
俺はこれまで親の手伝いで得た人脈を使い、多くの奴隷を少しでも幸せに暮らせる人の元に売った。
そんな風に奴隷を売り、それと共に旅の準備を進めて約一年。
残りの奴隷は一人となり、いよいよ旅をする日が見えてきた。
「よう。あとはお前だけだな。ほら、飯だ」
「ん。ありがと」
俺は残り一人の奴隷に食事を与える。
奴隷の食事というのは、黒く固いパンと、味の薄く具のないスープ。
これが俺が親に与えろと言われた食事だった。もちろん一日一食だ。
だがこれだけでは奴隷が痩せ、価値が落ちてしまう。
そう考えた俺はその食事に加え、旅している間に通った森や道などで採った果物や植物を加工して出したり、ジャムにしたり、スープの具材にしたり、たまに魚や肉が取れた時は親に内緒で奴隷に与えていた。
どれもいつか旅に出たときのためにつけた知識や経験だったが、奴隷の価値を上げるのにも役に立ちまさに一石二鳥だった。
「ねぇ?」
そんなことを考えていると珍しく残った奴隷が喋りかけてくる。
こいつはここに来た時からフードをかぶっていて顔を見たことがなく、分かるのは女であることと年が俺より少し下なことくらいだ。
「どうした?」
「もう、残ったのは私だけよね?」
「そうだな」
「新しい奴隷はもう入ってこないんだよね?」
「あぁ、俺はお前を売ったら奴隷商をやめるからな。もう新しい奴隷は入ってこない」
俺が奴隷を売って旅に出ることは親が死んでから奴隷たちに言っていたことだ。
「でも私売れないよね?」
「そうだな」
こいつは売れない。
何故かは分からないが、こいつを紹介して顔を合わせると誰も買ってくれない。
もちろん顔を合わせさせる必要はないし、人を選ばなければ買ってくれるだろう。だがきちんと買う相手には奴隷のことを知ってから買ってほしいと思うし、奴隷には奴隷としてましな生活を送ってほしい。
そんな俺のプライドのせいで、こいつは売れ残っている。
「あなた。変わってるよね」
「そうか?」
「そう。他の奴隷の子たちから言われたことない?」
そう言われると確かに、これまで食事を出した時「こんな食事を食べられるなんて」とか、熱をだした奴隷を看病したときは「奴隷が熱を出しても普通は放っておくのに…」などいろいろ言われたことはある。
「思いあたる節、あるみたいだね」
「そこそこ長くやってるからな。そう言われることも無くはなかったな」
「やっぱり。……ごちそうさま」
奴隷は食事を終え、空になった容器を渡してくる。
俺は奴隷に食事を作る機会ももうすぐなくなるんだなと思いながら、容器を受け取ろうとした瞬間。
「っ!?なんだ?」
奴隷が俺の腕を引っ張りフードをとると共に顔を近づけてくる。
その時、初めてその奴隷の顔を見た。
「どう?私の顔」
奴隷はそんなことを聞いてくる。
どう?と聞かれてもな、俺はよく奴隷の顔を見る。
まず目につくのは、その長く白銀に輝く髪。
その髪は一定の期間しか水浴びなどが出来ないから多少は傷んでいたが、それでもきちんと手入れをすればかなりきれいな物になるであろうことは容易に想像がつくほどきれいな物だった。
そして次に目につくのは赤い瞳。
その眼はルビーのように澄んだきれいな眼だった。
そして改めて全体を見ると容姿としてはとても整っている。
だがどうしても髪と眼の色に目がいく、というよりもこの色は……。
「特異体質だったか?」
「うん。昔は呪いの子、とか呼ばれていたらしいけど」
呪いの子。
それは白い髪と赤い眼を持ち、特殊な力を持って生まれた子供。
その特殊な能力や髪色と赤い眼は邪神から受け取った物だとされている。
そのせいで昔は呪いの子は生まれたときに殺されていたが、今ではそういった風習も薄れ殺されることは少なくっている。
ただそれでも彼女が奴隷として売られたのも、買い手がつかないのもこのせいなのだろう。
「どう?気持ち悪い?」
奴隷は自嘲するように笑いながら聞いてくる。
「いや気持ち悪いとは思わないぞ」
「そう?じゃあどう思う?」
「きれいだと思う」
そんな俺の口からでた言葉。
そんな言葉を聞き奴隷は固まってしまう。
「えっ、きれい?私が?」
「あぁ。お前はきれいだと思うぞ。というかなんでいきなり顔を見せたりしたんだ?」
俺はそこそこ長い付き合いにも関わらず、これまでに一切顔を見せようとしなかったこいつがわざわざ顔を見せた理由が知りたかった。
そんなことを聞くと、うろたえていた奴隷はコホンと咳をして心を落ち着かせる。
「えっと、一つ聞きたいんだけど、ほんとに私がきれいだと思うの?」
「思うぞ」
俺はとっさの質問にノータイムで答えるとまた奴隷が固まり顔を赤くする。
「そ、そう。なら提案なんだけど……」
奴隷は心を落ち着かせ真剣な顔を俺に向ける。
「あなたが私を買わない?」
そんな言葉を言われ、今度は俺が固まった。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるが。お前を俺が買う?」
「そう、あなたが私を買う。そうすればあなたは旅に出られてきれいな奴隷が手に入る。私はおいしい食事と寝床に困らない。どう?」
あまりに突然の提案に俺はまたしても固まる。
いや、確かに奴隷の言うことには一理あるし、こいつを売るのは難しいだろう。
そんな風に悩んでいると奴隷は不安そうな顔をしながら口を開く。
「も、もちろん私だってなにかしら手伝いはするし、あなたの言うことは聞くし、あとは……安くするよ?」
そんな奴隷の怒涛のアピールに俺はこれまで考えていたことを忘れ、思わず笑ってしまう。
「え、え?いきなり笑ってどうしたの?」
「いや。なかなか商売熱心だと思ってな」
そんな風に笑う俺に向かって奴隷は少し睨むように俺を見てくる。
俺はそんな奴隷にそう睨まないでくれと手を向け、深呼吸をして頭の中を整理する。
そして結論を出す。
「分かった。俺がお前を買うよ」
俺は彼女を買うことにした。
理由としてはいろいろあるが、一番は彼女の目に明確な信念のようなものが見えたからだ。
俺は昔からいろんな場所でいろんな人と関わりそれなりに人を見る目を持っている。
そんな中でも彼女は何があっても俺に自分を買わせたいという思いを感じた。
俺の結論を聞き、彼女は驚いた表情をつくる。
自分からアピールしたのに驚くとは、買われる自信がなかったのか?
「あなたが買ってくれるの?本当に?」
「そう言っているだろ?」
「ほんとのほんとに?」
「あぁ。なんだ?やっぱり買われたくなかったか?」
俺はあまりにも念を押されるのでそんなことを冗談めかして言うと、彼女は焦ったように首を振る。
「そんなことない!私を買ってください」
俺はその奴隷の言葉を聞き、一枚の紙を取り出す。
「それは?」
「これは奴隷契約書。奴隷の売買の時に使うものだな。これを使うことでお前は商品から俺の物になる」
俺の説明を聞き彼女は感心したように契約書を眺める。
「あとは金だが。さてお前をいくらにするかだな」
「ちなみに私ってどれくらの価値がついてたの?」
そう言われると、正直彼女の顔を見たことがなかったので価値を付けたことは無い。
奴隷の相場もその奴隷の種類によりかなり変動する。
親の奴隷商ではほとんど女の奴隷しか扱っていなく、その時はだいたい十万から前後させるかんじだった。
ちなみに女しか扱わなかったのは、男よりも女の方が食事代がかからず価値が上がりやすいからだ。
もちろん男の奴隷も労働用や戦闘用などでは高く売れる奴もいる。
だが旅をしながらの商売だった家では扱いきれるものではなく、結果女の奴隷のみを扱うことになった。
「なんか面倒だね。まぁ安くするって言ったしあなたが決めてくれればいいけど、でも結局あなたがお金払う必要ないんじゃないの?」
確かにその通りだが、
「奴隷を売り終わったら奴隷商をやめるって決めたからな。必要はないかもしれないがちゃんと決別したいから。金は払うよ」
俺は十万に少しプラスした金額を彼女に渡す。
「私?」
「あぁ、お前が自分で自分を売り込んだからなその金はお前が持っていてくれ。じゃあ契約書を書くぞ」
俺と彼女は契約書にサインする。
「契約完了だ」
「これで私はあなたの物だね。よろしくねご主人様?」
「いや、ご主人様はやめてくれ」
「そう?じゃあなんて呼べばいいの?」
「そうだな……ショウ。そう呼んでくれ」
「分かった。よろしくねショウ」
「あぁよろしく」
こうして俺はすべての奴隷を売り終え、一人の奴隷と親の残した金と道具を持ち念願の旅を始めるのだった。
___________________________
反応があれば続き書きます。
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