第6話
家から財布を取ってきた美麗は、席に座った迅をみつけて、迅の向かい側に座った。
「はい、メニュー」
迅に冊子を渡されて、美麗はそれを眺める。生憎だが、あまり食欲がない。一応、小さめのドリアの単品に決めて、メニューをしまう。
「塚田、決まった?」
「うん」
「じゃあ頼むか」
「……え? 二人、は?」
「俺もう腹減ったし。先食ってても平気だよ」
迅が言うので美麗も頼むことにした。
注文が終わると、迅が美麗を見て、さらにメニューを見た。
「少なくね? 足りんの?」
「うん。お腹、あまり減ってない、から」
迅もそう、と納得して、注文のときに出したメニュー表をしまった。
迅の注文は結構な量で、美麗は結構驚いた。しかし、兄も同じようなものだと思い出して、勝手に納得する。男子高校生の食事は量が必要なのだ。
ドリアと一緒に頼んでいたドリンクバーで、コーラを注いでまた席に戻った。カフェにもドリンクバーがあるのだ。
迅もジュースを取りにいったのだが、濁った変な色をしている。
「何、それ」
「少年の心を忘れるなドリンク」
飲むかと聞いてきたが、美麗は断った。緑っぽくて、不安な色をしているのだ。迅はストロー無しでごくごくと飲んで、うまい、と言ったが、美麗は飲む気にならない。
「うわ、迅、またやってるよ」
遅れてやってきた彩華が迅のグラスを見て、顔を引き攣らせた。理生は羨ましがっているが。
理生が美麗の隣に座って、彩華がその向かい側に座った。
理生と彩華もランチを注文して、ドリンクバーを取りにいく。理生はウキウキと戻ってきて、グラスをテーブルに置いた。
「見ろ、迅。理生くんスペシャル」
こちらは茶色い。迅は理生くんスペシャルを一口飲んで、勝ち誇ったような笑顔を浮かべる。
「俺の方がうまい」
理生は顔を顰めて、迅の少年の心を忘れるなドリンクを一口もらった。何故か納得したような表情で頷く。
「あー、うまいわ」
「少年っていうか、ガキじゃない? それ」
彩華も苦笑と共に戻ってくる。彩華は普通にお茶のようだ。コップの半分くらいに注いであるものを、理生に差し出した。
「はい、あげる」
理生も大人しくそれをもらって、一口飲み込む。
「―――ぐっ……!」
「ふはははー。お前の苦手なレモンティー」
ニヤニヤと彩華は笑って、普通のレモンティーを飲んだ。理生は彩華を睨んだが、彩華はどこ吹く風でレモンティーを飲んでいる。
「さっき仕掛けてきたのは理生の方だからねー。仕返しだよ」
迅はボソッと、
「性格悪ぃ」
と呟いたが、彩華の睨みで消されてしまった。
先に頼んでいた美麗と迅のご飯が運ばれてきた。美麗はドリア、迅はスパゲティセットとプラスしたグラタンだ。
美麗はドリアをもぐもぐと食べるが、なにせ、あまり食欲がない。喉を通っていかないのだが、なんとか飲み込んでいく。
その様子を理生がじっと見ていて、美麗は気まずくなった。スプーンを皿に置いて、顔を上げて理生を見た。
「……何?」
「ん? あー……、食欲、無いのかなと思って」
「うん、ちょっと……」
「そっか」
深く聞いてくるわけでもなく、美麗は小さく息をついた。美麗が半分ほど食べたところで二人分のランチが運ばれてくる。そのころには迅が食べ終わるところだった。
美麗は美麗でゆったりのんびり咀嚼していくが、男子三人はやはり早い。美麗が食べ終わる直前で、全員が食べ終わってしまった。
「急がなくていいよ」
焦り始めたところで、それを彩華に止められる。理生はドリンクバーを取りに席を立った。
美麗はまたゆっくりと食べ始める。
「ごちそうさま」
美麗がようやく食べ終わって手を合わせると、三人も丁度コップの中を空にしたところだった。
「お待たせ」
「じゃあ行くかー」
と、理生がバックを手にして立ち上がる。迅と彩華と美麗も続いて立ち上がり、会計を済ませた。
「ごめん、私、帰る、ね。今日はありがとう」
美麗はそう言って、家へ帰る道へ足を向けた。
「塚田ー、学校、嫌なら行かなきゃいい。俺たちもどうせそんなもんだし」
理生が美麗の背中に向かって言うと、美麗は振り返って、躊躇ったあとにまた背を向けた。
彩華は小さく笑って、美麗に手を振った。
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