第55話 勇者様御一行9
今日はライクの勲章授与式。
ライクは朝から城へ出向き、ドタバタと式の準備をしている。
あたしも付き添いで来ていたが、特にすることもないので城を出て街中をふらふらとしている。
昨日、あいつがこの街を既に出ていたことを知った。しかも女と一緒らしい。逃亡者のくせして生意気だ。
その情報を教えてくれた武器屋のおじさんから詳しいことを聞こうと思ったが、お父さんに止められてしまった。あたしはそれからその場を去ったが、お父さんは鍛冶屋同士で話したいことがあると言い出し、一人だけ残っていた。
一体何の話をしていたのか。昨晩、宿で会った時にお父さんから聞いてみたが、はぐらかされてしまった。また肘打ちしそうになったが、なんとか抑えた。
別にお父さんから聞かなくても、鍛冶屋のおじさんから聞けばいいのだ。丁度いいので、今から聞きに行ってみよう。
街中を歩くと、どうしても悲惨な傷痕が目に入ってしまう。そこに住んでいた人はどんな気持ちを抱えているのだろうか。そこが職場だった人は、これからも続く生活に不安を抱いているのだろうか。
嫌な感情ばかり湧いてくる。あたしの時代には無縁なものだったが、戦争というものは嫌なものだいうことを実感してくる。
「あれ。おーい、お嬢ちゃん」
「ん?」
声の方を振り向くと、シャングリラの店長さんがいた。店がある通りではないのに、どうしてこんなところにいるのだろうか。
「店長さん。どうしてここいるの?」
「なに。街の被害を把握しておこうと思ってな。幸いにもうちは無事だったが、他の奴らは酷い目にあってるからな。こういう時に助け合ってこその仲間ってもんだろ?」
「店長さんは男前だね」
「ふっ。惚れたか?」
「それはないかなー」
冗談だと分かったので軽く返答すると、店長さんも「やっぱりなー」と笑ってみせる。
「お嬢ちゃんは、どこかに向かってるところだったか?」
「えぇ。……あっ」
そういえば、店長さんもあたしと雰囲気の似た人を知っているんだった。じゃあ、店長さんに聞いてみてもいいのか。
「ん? どうした?」
「あの、店長さん。以前、あたしの雰囲気に似た人がお客さんにいたって言ってたよね?」
「おう。あー、すまない。あいつ、もうこの街から出ちまったんだ。紹介はできなさそうだ」
もうこの街からいない……やはり、武器屋のおじさんが話していた人と同一人物なのかもしれない。
「その人に会えないのは残念だけど、今はその人のことについて詳しく教えて欲しいの」
「……なんでだ?」
瞬間、店長さんの目が険しくなった。下手に探りにいきすぎたか。しかし、こうして他人の情報を簡単に話さないのが、この人が信頼される所以なのかもしれない。黙ることにメリットなどないはずなのに。
だから、ここはあたしも正直に話す。
「もしかしたら、その人はあたしが探している人かもしれないから」
「探してる? お嬢ちゃんとあいつはどういう関係なんだ?」
「兄妹、かな」
「兄妹……にしては顔は似てないが」
「あいつは……リオンは、小さい頃にお父さんが拾ってきた子なの。だから、血は繋がってないよ」
店長さんの質問に、真実のみで答えると、店長さんは「ふむ」と顎に手を当てて思案顔を浮かべる。そして、ニヤッと笑った。
「本当に似ているな、お前さんら。あいつ……リオンも、こうしてオレに問い詰められた時、正直に答えてくれたよ」
「や、やっぱりリオンなんだね!」
「あぁ。しかし、あいつに妹がいたとはな。そんなこと教えてくれなかったなぁ。今思えば、自分のことをあまり話すタイプでもなかったか」
やはりリオンは、あたし達のことを避けているのだろう。だから自分に繋がる情報を極力出さないようにしているのだ。もしかしたら、この街にあたし達がいることも知っていたのかもしれない。少なくとも、ライクの存在には気づいていそうだ。彼は戦争関連でやけに目立っていたから。
「それにしても、どうしてあいつを探すような羽目になってるんだ?」
「えっと、兄妹で喧嘩して、そのまま飛び出して行っちゃったの」
「はは、あいつも兄妹喧嘩とかするのか。意外だなあ」
実際は違う。だが、本当のことを言うことになれば、ライクが勇者であることを明かさないといけないため、流石にそこは伏せておくことにした。
今思い返すと、前世を含めてあたしはお兄ちゃんと一度も喧嘩したことがない。あたしは結構わがままなのに、どうして喧嘩がなかったのかは明白だ。
「それで、どんなことを聞きたいんだ?」
「えっと……リオンは元気だった?」
「ガハハ、それはもう元気だったさ。なんせたった二日間で1000万ゴル稼いでたんだからな」
「えっ、何やってんのあいつ」
「それが女のためっていうのがたまらんな。あいつには男を見せられ……おぉ、お嬢ちゃん。殺気がすごいぞ」
女のため……? そういえば、この街を出たのも一緒にいた女の用事のためだとか、武器屋のおじさんは言ってたな……
「店長さんは、リオンがこの街を出た理由って知ってるの?」
「ん? あぁ、リオンと行動を共にしている少女の妹が病気でな、それを治すための薬をやっと購入できたっていうんで、届けに行くって言ってたな」
「……そうなんだ」
じゃあ、その1000万ゴルっていうのも、その薬を買うために稼いだのかな。やっぱり、あいつは優しい奴なんだ。
おっと、あんまり店長さんを拘束していてはいけない。店長さんはこの街のために頑張っている最中なのだ。それに、そろそろ城に戻らないとライクあたりに探されそうだ。
「あ、でもな。その少女とは別に——」
「ありがとう、店長さん。いいお話が聞けてよかったよ」
「え、あぁ。そうか。それはよかった」
「それで、リオンが向かったのは具体的にどこなの?」
「うーん、それは言えないな。あいつにもあいつなりの事情があるみたいだし、お嬢ちゃんばかりに肩入れするわけにはいかないんだ。悪いな」
「ううん。だから店長さんが皆に好かれてるって分かってるから」
「おっ。嬉しいこと言ってくれるな。そんなに褒められたら、口が滑っちまいそうだ。……あぁ、最近大変なことが多くて、久しぶりに温泉にでも浸かって体を労ってやりたいぜ」
店長さんは後半、棒読みで話し始めた。その内容に、あたしは心当たりがあった。だから、店長さんと目を見合わせて、互いにニッコリと笑う。
「ありがとう、店長さん。お体には気をつけてね!」
「おう。仲直りできるといいな!」
「うん!」
店長さんと別れ、城に戻りながら、やっぱり店長さんはイケおじだなと思った。
* * * * *
今日は朝から忙しかった。
城へ出向くと、式に向けて準備が必要だということで、僕は城の人たちに着替えさせられたり、王様たちの前での振る舞いを叩き込まれた。
そういえば、あの女王に成りすましていた魔物を倒した後に現れた女王に、一緒にいた男の人が王様になるらしく、その発表も今日行うらしい。
なんだか思っていたより大事になってしまったけど、なんとか大金を得ることができた。僕としては、勲章なんかよりこっちの方が重要だった。
式を終えて、僕は真っ先にミリヤの元へ向かった。
「ミリヤ!」
「あ、ライク兄ちゃん。お疲れ様」
「うん! ミリヤも見ててくれた?」
「うん、もちろんだよ。ライク兄ちゃんの仲間ってことで、お父さん達と一緒に近くから見てたよ」
「へへ、そうだったんだ。あの時は緊張してて周りが見えなかったよ」
ミリヤは今日の僕の姿を見てどう思っただろうか。騎士っぽい格好に着替えさせられた僕だが、城の人たちはすごく褒めてくれたんだけど、まだミリヤから感想をもらってない。自分から聞くのは……少し気が引ける。やっぱり向こうから言ってほしいし、何より恥ずかしい!
「あ、そうだ。これ。報酬として、すごい大金を貰えたんだ!」
「わぁ、すごいね。ライク兄ちゃんは、これが目的で志願したんでしょ? 何に使うの?」
「そ、それはね……ミリヤの願いを、叶えたいなって!」
結局、ミリヤが欲しそうな高価なものというものを見つけることができなかった。指輪も考えたが……流石にまだ早いだろう。自分の気持ちを伝えたその時に、渡すべきだ。今はまだその覚悟はできていない。
だから、彼女の望みを直接聞くことにした。そうすれば間違いないから。
すると、彼女は一瞬思案顔をした後、パッと笑顔を浮かべた。
「さすがだよライク兄ちゃん! あたしが考えてたこと、分かってたんだね!」
「え、あ、うん。そうだよ。でも、間違ってたらいけないからさ、ミリヤの口から教えてくれないかな」
「えー、ふふ。もしかしてライク兄ちゃん、恥ずかしいの? 誇っていいのに! 他人のために何かをすることは、良いことなんだよ!」
僕がミリヤのために何かをしてあげることが、良いこと? それは分かるけど、誇っていいって?
「ライク兄ちゃんは、その報酬金を使ってこの街を復興させようとしてるんだよね!」
「えっ…………あ、あぁ、そう。そうなんだ! やっぱり戦争のダメージは深刻みたいだからね。国のお金を僕が自由に使ってはいけないと思ったんだ」
「おぉ! かっこいいよ、ライク兄ちゃん!」
「かっこ!? ……よーし、すぐに王様のところに行ってくるよ!」
「うん! いってらっしゃい!」
なんだか想定とは違ったけど、ミリヤが喜んでくれたからOKか! 早速、王様のところへ話をしに行くとするか。
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