第48話 妹のお礼

「ねぇ……もしかして、ウィルちゃんって結構えっちな子?」


俺の身体に身を寄せるウィルを見ながら、カナリアがそう俺に聞いてきた。


「昨晩ので分からなかった?」

「だって、昨日は一度した後、ワタシは寝ちゃってたから……え? あの後、二人もしたの?」

「カナリアとの様子を見ていたら、我慢できなくなったってね。三回ほど」

「三回!? え、そんなに!? リオンくん、ワタシの時は優しく動いてくれたけど、多分ウィルちゃんとはそうじゃないんだよね? それを三回?」

「昨日は少なめだったことも補足しておく」

「うわぁ……ウィルちゃんもだけど、それについていけるリオンくんもなかなかだね……」

「鍛えられたんだよ」


そう言って遠い目をする俺に、カナリアは慈愛に満ちた目を向けてくれる。


耳元から、ウィルの激しい吐息が聞こえる。ウィルの興奮具合が分かる。


「なあ、カナリア。流石にここでするのはまずいよな?」

「うーん、毎日お湯を抜いて清掃してるから大丈夫だと思うよ。今日は休業日だし」


そこはダメって言って欲しかったなぁと思いながら、ウィルの背中に腕を回す。ウィルの小さな口から「あっ」という甘い声が漏れ、身体がビクッと震えたのが伝わってくる。


「えへへ、ウィルちゃんとはどんな感じなのか観察させてもらおうかな」

「カナリアさんに見られていると思うと恥ずかしいですが……少し、興奮してしまいますね」

「ウィル……」


彼女のポテンシャルの高さに慄きつつ、俺は彼女の身体を愛撫する——




* * * * *




結局、後にカナリアも参加して、三人でヨクジョウを楽しんだ後、俺たちはタオルで体を拭きながら談笑していた。


「ワタシもウィルちゃんみたいになれるかなぁ」

「ふふ、僭越ながら私がサポートいたします。一緒にリオンさんを愛していきましょう」

「う、うん! ワタシ頑張る!」

「ウィル二人分? 俺の身体は保つのか……?」


二人の会話の内容に恐ろしさを覚える。ウィルは特別かもしれないが、複数のお嫁さんをいただくのは色々とハードルが高いことを実感する。


頭を拭いているウィルを見ていて、ふとその特徴的な耳が目に入り、俺はあることを思い出す。


「そういえば、カナリアのお母さん、ネロさんはエルフ族について詳しく知ってそうだったな。エルフ族におけるパートナーのことも知ってたみたいだし」

「お母さん、昔にお父さんからエルフのこと聞いたことあるんだって。なんでも、お父さんも小さい頃にエルフに会ったことがあるらしいよ」

「なるほどな。ウィルはカナリアのお父さんのこと知らない?」

「申し訳ありませんが、そのような方については存じ上げません。おそらく、無事に里から出ていかれたということは、カナリア様のお父様は本当に幼き頃だったと思います。エルフ族は、外から来る幼い人間の男性にあまり興味を持ちませんので」


エルフ族にとって、外部から人間とは繁殖するためのモノでしかない。その機能を有していない幼い男の子の話なぞ、何年も語られることはないか。


「あー、エルフって女しか生まれないから、子孫を残すのに苦労するんだってお母さんから聞いたことあるよ。……子供かぁ。ワタシも、いつかリオンくんとの子供欲しいなあ」

「ふふ、私もです」


そう言って、二人は微笑み合いながら自分のお腹をさする。


今はウィルの魔法によって避妊されているため、子供ができることはないが、いずれは俺も欲しいなと思っている。二人との子供なぞ、絶対に愛しまくる自信がある。


「まあでも、当分はリオンくんとの思い出をたくさん作りたいかな! もちろん、ウィルちゃんともね!」

「はいっ。三人で、素敵な思い出をたくさん作りましょう」

「そうだな」


三人で笑い合う。


考えなくはいけないことはたくさんあるが、今はこの三人でたくさん笑う合おう。そして、将来的に幸せな家庭を築けるよう、全力で生きよう。


将来の家庭像を妄想して、俺はふと気になったことを口にする。


「そういえば、俺とウィルの間の子供って加護はどうなるんだ?」

「森の神様の加護を受けていない者の子供も加護を受ける資格はありません。ですが、両親の愛によって生きることができると言われています。また、将来的にパートナーを見つけることができた際は、そちらから愛をいただくことになるみたいです」


なるほど。じゃあエルフの里に戻って籠らなければいけない、という事態にはならないみたいだ。


「両親の愛で生きるか。まさに二人の愛の結晶といった感じか」

「二人の愛の結晶……とてもいい響きですね」


俺の呟きに、ウィルは目をとろんとさせてうっとりした表情を浮かべる。


「ど、どうしよう。そんな話聞いてたら、ワタシ、赤ちゃん欲しくなってきちゃった!」

「まずは思い出を作るってさっき言ってたばかりだろ」

「で、でもさ〜!」


気持ちはわかるが、今はしなければいけないことが多い。そういうのは落ち着いてからにした方がいいだろう。


「大丈夫だ。この先ずっと一緒にいるんだから、焦らずゆっくりやっていこう。な?」

「あっ……うん! えへへ、そうだね!」


カナリアは満面の笑みで頷き、今は子供を作らないことに納得してくれたみたいだ。


これでこの話も終わりかな、と服を着終えながら思ったその時、服の裾をつんつんと引っ張られた。その方を向くと、ウィルがおずおずした様子で口を開く。


「あの……リオンさん、私、欲しくなってしまいました」

「欲しいって。子供はまだって話をさっき……」

「はい。それは承知しております。魔法はかけますので、その、リオンさんのを……」

「……え?」

「うわぁ、ウィルちゃん。ワタシの予想以上だよ。見た目に反して、ドすけべだよこの子」


想像を遥かに超えていくウィルに恐れ慄くカナリアをよそに、ウィルは上気した顔で迫ってくる。


結局、俺はもう一度服を脱いでウィルに愛を注いだのであった。




* * * * *




疲れを癒すためにいただいた温泉だったが、結果的には少しのだるさを覚えながら、俺たちはカナリアの家へと戻った。


ツヤツヤした顔をしたウィル、紅潮した顔でもじもじした様子のカナリア、そしてげっそりとした顔つきの俺を見たネロさんは、ニヤニヤしながら「若いわね〜」と言った。カナリアの顔が更に赤みを増してしまった。


ネロさんからお水をいただき、俺たちはそれを喉を鳴らしながら飲み干していく。風呂上がりの冷たい水ほど美味しいものはない。


温かくなった体を椅子に座って落ち着かせ、頭をぼーっと働かせていると、再び別室に移動していたネロさんが、短い金髪を二つ結びにした少女を連れて戻ってきた。


「ラン! 歩いて大丈夫なの?」

「うん。お姉ちゃんが買ってきてくれたお薬のおかげで、こんなに元気になれたよ。ありがとうね、お姉ちゃん」

「ラン……! いいんだよ、ワタシはお姉ちゃんだから! 妹のためならなんだってしてあげるんだから!」


カナリアは歓喜極まった表情で、その少女——妹のランを抱きしめる。ランも微笑みながら、姉であるカナリアを抱きしめ返す。


「お薬の効果、すぐに出たみたいで良かったですね」

「あぁ。高いだけはあるってことだな」


二人の微笑ましい光景を見ながら、俺とウィルがそんな会話をしていると、ランと目が合った。


ランはカナリアから一旦離れ、俺たちのそばにやって来て頭を下げた。


「リオンさん、ウィルさん。お母さんからお話は聞いております。わたしの薬を購入するためにお力を貸していただき、ありがとうございます」

「い、いや。ほとんどカナリアの力だよ。俺たちは何もしてないよ」

「そうですよ。私なんて、カナリアさんには助けていただいてばかりですから、私こそお礼を申し上げないといけません」

「ふふ、でしたらウィルさんとはお相子ということにしましょう。……リオンさん、あなた様には特別お礼を差し上げたいのですが、よろしいでしょうか」


さて、このイベントだが、原作にもたしか似たようなものがあったと記憶している。俺がプレイしたやつでは、お礼にとほっぺにキスをしてくれた気がする。


今後の付き合いで気を遣わせないためにも、ここで向こうなりの恩返しをさせることで、この件はそれで精算した方がいいかもしれない。ほっぺにキス程度なら、俺も嬉しいし、向こうにもダメージは少ないだろう。


なので、


「うん、いいよ」


と答えた。すると、ランの笑みは何か企みを持った笑みに変わった。


「じゃあ、わたしの身体をリオンさんに差し上げます。どうぞご自由にしてください」

「……はぇ?」


予想していた内容と違い、素っ頓狂な声が漏れてしまった。


ランの発言にいち早く反応を示したのは、彼女の姉であるカナリアだった。


「ラン!? 何言ってんの!? リオンくんはワタシの旦那さんなんだよ!?」

「ふふ、だってお姉ちゃん言ったじゃん。わたしのためだったらなんでもしてくれるって。だから、ちょっとリオンさんのこと貸して?」

「だ、ダメ! 流石にそれは妹のわがままを超えてるって! ちょっと、お母さんも止めてよ!」

「あらら、姉妹揃って同じ人を好きになるなんて……これも、この血の運命さだめなのかしらね」


カナリアがネロさんに支援を要求するが、ネロさんはランを止めようという素振りを一切見せず、この状況を楽しんでいる。


ランは胸を寄せながら、俺を上目遣いで見つめる。


「ねえ、リオンさん。わたし、たくさん寝ていたからかおっぱいは大きく育ちました。今のお姉ちゃんぐらいあります。でも、まだまだわたしは成長期なので……お姉ちゃんのを超えちゃうと思うんです。どうですか?」

「ごくり」

「ちょっと、リオンくん!? ごくりじゃないよ! さっきはワタシたちの胸だから好きって言ってくれたのにー!」


そうは言っても、ついつい反応してしまうのが男というもの。許してほしい。


だけど、流石に手をだすわけにはいかない。俺はランから一歩後退し、諭すように話しかける。


「ランちゃん。君は今、俺が救世主か何かかと思っているかもしれないけど、本当の救世主はお姉ちゃんであるカナリアであって、俺は本当に何もしていないよ。それに、君はまだ幼い。正しく身体を男に預ける判断ができるような年齢じゃない。だから、そのお礼は受け取れないかな」


子供扱いするなと反論されると思ったが、ランは大人しく俺の言葉を聞き、思案顔をした後、こくりと頷いた。どうやら納得してくれたようだ。


「じゃあ、大きくなったらまたお礼にお伺いしますね? その時は、どうかわたしとの将来のことも考えていただければと思います」

「……あれ?」

「ラン!!」

「あらら」

「ふふ、リオンさんは人気者ですね。私も鼻が高いです」


この場を凌ぐことはできた。しかし、それは一時的に解決しただけで、問題を後送りにしただけかもしれない。


俺が考えるべき悩みがまた一つ増えてしまったようだ。


そして、おそらくだが、この展開になった原因。それは、もしかしたらR-18版では主人公ライクは二人を……。そういうことなのかもしれないが、今の俺に確かめる術なんてなかった。

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