第47話 温泉!
カナリアに薬を渡されたネロさんは、カナリアの妹のランに薬を飲ませるために別室へと移動して行った。
移動する際、所有している温泉に自由に入っていいと言ってくれたため、早速俺たちはカナリアの案内のもと温泉へと向かった。
「ここだよ!」
カナリアの家のから少し歩くと、里の端に位置する、宿泊施設が併設されている温泉館に到着した。入口の横に『休業』と書かれている札が立てかけられていたため、今日はお客さんは一人もいないらしく、俺たちの貸切だそうだ。
こっちの世界に来てから、温かい風呂に浸かったことなどなかったため、俺の中に眠っていた日本人魂がさっきから騒いでいる。ローマ人も騒いでそうだ。
「温泉……ですか。お話は聞いたことありますが、入るのは初めてです」
「すっごい気持ちいんだよ〜! えへへ、ウィルちゃんの初めての温泉がワタシの家の温泉って、嬉しいな!」
「ふふ、色々教えてくださいね?」
「むっ……今のなんかエッチだった! エッチだったよね、リオンくん!」
「そこで俺に同意を求めないでほしいけど、エッチだったな」
「り、リオンさんまで……恥ずかしいです」
カナリアと一緒にウィルを揶揄っていると、ウィルは恥ずかしくなって顔を赤くしていた。
ウィルはベッドの上ではなかなか激しく乱れちゃう子だが、普段は初っぽいんだよな。そこがまたいい、なんて思ったり。
温泉館の入口を開けて入ると、むわっと硫黄の匂いが鼻を襲ってきた。少し、うっとなるが、これがまた懐かしくてたまらない。温泉欲が増してきた。
「それじゃあ、また後でな!」
俺は軽い足取りで青い暖簾が下げられたドアへと向かった。しかし、カナリアは「え?」と俺の行動に疑問を持った声を漏らす。
「リオンくん、どこへ行ってるの?」
「どこって、男風呂だけど」
「違うじゃん! えっと、その、ワタシたちもいるんだよ?」
「だから、ここで分かれるんだろ?」
「……もう! うちには家族風呂もあるの! だから、一緒に入ろうよってこと!」
「……まじ?」
本気かどうか確認すると、カナリアは赤顔のままこくりと頷く。
ウィルもその気なのか確認しようと、彼女の方を見ると、目をキラキラと輝かせていたので聞くまでもなかった。
* * * * *
確かに彼女たちとは一線を超えた関係を築いているし、何なら結婚相手でもある。
しかし、そういった場面以外で見る裸体というのはまた別のもので、自分のを見せるのも、相手のを見るのも少し恥ずかしい。
カナリアに関しては、昨日、そういった関係になったばかりだ。それが昨日の今日で一緒に風呂とは……と思いながらも、俺は既に風呂場に入っていた。
家族風呂は、脱衣場と体を洗う場所、そして石を並べて作られて湯船が一つにまとまった部屋だった。周りは木製の壁で囲まれていて、外からは見えないようになっている。ただ上を見上げると、そこには青空が広がっている。横からは覗かれない露天風呂みたいな感じだ。
「ここで服を脱げばいいんですか?」
「そうだよ! 脱いだらこのカゴに入れてね!」
二人は楽しげに会話しながら、脱衣を始めていた。その姿を見て、俺も腹を括り、服を脱ぎ始める。
「……昨夜、暗闇の中であまり見えていませんでしたが、カナリアさんのお胸、やっぱり大きいですね」
「ふふん。一応、自慢の胸だよ! あっ! もしかして、ウィルちゃんに勝てるポイント見つかったかな!?」
「む。リオンさんは私の胸を愛してくださっているはずです。大小は関係ありません」
「じゃあ、直接聞いてみようよ! ねえ、リオンくん! 私とウィルちゃんの胸、どっちが好き?」
いきなりぶっ込んできたあなあと思いながら、二人の胸を見比べる。
カナリアの胸は確かに大きい。彼女の身長に比べて、とかではなく、一般的に大きいサイズだ。昨夜に触った時、フワッとしながらもハリのある感触だったなと思い出す。
ウィルの胸は慎ましい方だ。……うん、慎ましいったら慎ましいのだ。でも彼女の容姿はかなり均整を取れていて、可愛らしくも美しい。
だから……
「どっちの方が好きとかはないかな。カナリアの胸、ウィルの胸だから、俺は両方とも好きだよ」
なんて逃げるような回答をしてみせるのだった。
「そ、そう? えへへ、ワタシの胸だから好き、か。まだお湯に浸かってないのにポカポカしてきた!」
「私もリオンさんの頭のてっぺんから足の爪先まで、お身体の全てを愛しています」
逃げると言われるかもしれないと思っていたが、二人の反応はご機嫌な様子だった。二人ともを愛することが許されているからこそ、どちらかを選ぶ必要はないってことだろうか。
こんな変な話題を振られ、馬鹿真面目に考察していたからか、今まであった緊張感は気づけば無くなっていた。
三人とも生まれた時の姿になり、仲良く体を洗い始める。今まで泊まっていた安い宿場の汗を流すだけの湯浴びとは違い、さすが浴場施設、お湯も出るし石鹸も用意されている。
「リオンさん、お背中お流しいたします」
「あぁ、ありがとう」
「あっ、ウィルちゃんずるい! じゃあ、逆にワタシはリオンくんに洗ってもらおうかな! ねえねえ、頭洗って?」
「手持ち無沙汰だし、いいよ」
「……あ、あの」
「ウィルも後で洗ってあげるよ。交代交代で洗い合おう」
「は、はい! えへへ」
こうして、まずは、ウィルが俺の身体を、俺がカナリアの頭を洗うことになった。
ウィルは石鹸を使って自分の手のひらの上に泡立てて、そのまま泡と一緒に手で背中を洗ってくれる。泡の滑りとウィルのすべすべな肌が合わさって気持ちいい。少し力が弱いなと感じるが、「うんしょうんしょ」と頑張っているウィルの声が聞こえるため、俺は何も言わずに背中の快感を味わう。
しかし、この間も何もしないわけにはいかない。目の前にはワクワクした様子のカナリアが座っている。俺も石鹸を使って泡を作り、それをカナリアの頭に乗せた。そして、それを全体に広げて、まずは髪の汚れを取る。しばらく洗ったら、一度水で泡を洗い流し、もう一度泡立てた泡を使って、今度は頭皮を洗う。頭皮を揉んでマッサージするように洗っていく。
「んっ……あっ、リオンくん、これ……なんか、気持ちいい、よ……」
「何だか手慣れていますね。昔、どなたかの頭を洗っていらしたのですか?」
「……んー、いや。そんな経験はないかな、あはは」
「そ、それで、これは……やばっ、あっ」
悶える様子のカナリアをよそに、俺は昔のことを思い出す。
昔と言っても、リオンの過去ではない。竹中奏人の過去だ。
前世のまだ小さい頃、俺はよく妹の楓と風呂に入っていた。というのも、俺が入ろうとすると必ず楓も入ってきたのだ。そして、毎回俺に頭を洗ってほしいとせがんできた。何だかんだ、俺は妹に甘いわけで、毎日頭を洗ってあげていた。
そのせいか、徐々に技術は向上していった。楓が中学生に上がる時、今までは親が切っていたが、遂に美容室デビューした。その際、髪をカットしてもらった後、美容師に頭を洗ってもらったらしいが、俺の方が上手だったと言われた。それと、「私以外にはしないで」とも言われたのも思い出した。
約束を破ってしまったが、前世で結んだものなので、流石に許してほしい。
そんなこんなで、洗いっこの役割を交代し(と言っても俺は変わらないが)、ウィルも悶えさせる結果となった。
そして、俺たちは綺麗になった体でお湯に浸かり、気の抜けた声を出した。
「あぁ〜〜〜やっぱり温泉は気持ちいなあぁ」
「最高です……私はこのままお湯になってしまいたいです……」
「力が抜けていくよねぇ……あぁ体が浮いていくぅ……」
カナリアは足を伸ばし、全身を浮かせる。その中でも、特に浮いている場所につい目がいってしまう。その視線をカナリアは感じ取ったたようで、ニヤッと笑みを浮かべる。
「リオンくんはえっちだなぁ」
「男の
「別に謝らなくていいよ! ……ワタシの身体に興味を持ってくれるのは嬉しいし」
カナリアの顔が紅潮している。体温が高くなっているのもあると思うが、やはり自分のした発言が少し恥ずかしかったのだろう。
カナリアのそんな初心なところを可愛く思っていると、隣に座っていたウィルがピタッと身体を密着させてきた。慎ましくも柔らかいものが当たる。
「ウィル、大丈夫? のぼせちゃった?」
「リオンさん……私、もう我慢できません。リオンさんのお身体をたくさん眺めて、こうして身体も触れて……私……っ」
我慢ができないと訴えてくるウィル。その目は、別の意味で体が温まっていることを示唆するように、とろんとしていた。
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