第42話 報酬は…
ライクとカナリアのガーゴロン戦を見届けた俺たちは、侵入に利用した通路を使って、すぐさま城内から脱出する。
そういえば、オニキスとミスラ王女はどうなったのか気になったが、最短ルートを通ると例の部屋の前を通らなかったので、この目で確認することはできなかった。でも戦っているような音が聞こえなかったし、ガーゴロンも死んだので、おそらく落ち着いてきてるだろう。
それより、ガルドの発言だ。あれは……完全に俺の正体を見抜いていた。どこで気づいたのかは分からないが、確実にバレていた。
でも……彼は俺のことを恨んでいなかった。何か理由があったんだろうと理解を示してくれた。彼は……ガルドは、本当の意味で俺の父さんだった。
このまま再会を喜び合いたいところだったが、ライクがどう思っているかは分からない限り、容易に合流することはできない。だから俺は逃げた。
「リオンさん……」
通路を通り抜け、城からの脱出が完了したところで、ウィルが声をかけてきた。何が言いたいのかは分かっていたので、兜を脱ぎながら、続きの言葉を待たずに返事をする。
「話すよ、彼らのこと。俺が旅をしている理由。全て」
全て……とは言うが、流石に転生のことは伏せておこう。そこらへん、うまく辻褄を合わせる必要がありそうだが。
街ではまだ戦闘が繰り広げられている。しかし、ガーゴロンが亡くなった今、この事実を公表すればすぐに収まるだろう。
さて、一旦ここから離れようか。
「その話、ワタシも聞きたいなっ」
「!?」
突然の第三者の声に驚き、勢いよく振り返る。俺たちが通ってきた通路から、もう一つの人影が現れた。——カナリアだ。
「う、うわ、カナリア。どこから現れてんだよ。ビックリしたぁ」
「嘘つき。リオンくんもウィルちゃんも、この通路を使って城を出入りしてたんだよね? 上の階にいたおじさんに教えてもらったよ」
あぁ完全にバレてる。てか父さん、なに教えてるのさ! いや口止めとかしてなかったけどさ。
嘘がバレ、俺たちがたじろいでいると、カナリアは後ろにやっていた手を前に出した。——その手の中には、先ほどガーゴロンを狙って投げた短刀があった。
「リン!」
ウィルは短刀を見るや否や飛び跳ね、カナリアのそばへ駆け寄る。
カナリアは近づいてきたウィルに、その短刀を手渡した。
「うぅリン……今生の別れかと思いました……カナリアさん、本当にありがとうございます」
「え、あ、うん。やっぱりウィルさんのだったんだね。でもそれ、そんなに貴重なものなの? ワタシには分からないんだけど」
「いや別に、剣聖ガナルハルトの愛剣シュラウツみたいに高価なアンティーク品でもないし、プレミアムが付いてたりしないよ。うちにあったただの短刀、のはず」
「これはウィルさんから初めていただいたもので、私たちの命を救ってくださった、私の愛刀です。私にとってこの世で一番貴重な刀です」
ウィルは短刀の柄の部分に頬擦りしながら、どれだけこの短刀が自分にとって大事なものなかを力説する。流石に柄とはいえ刀に顔を近づけるのは危ないので、頬擦りをやめさせる。
「命を救ってくれた、か……」
カナリアは小さく、しかし実感の篭った声を漏らす。そして、そのまま言葉を続ける。
「ワタシもその短刀に命を救ってもらったんだよね? いや、正しくは短刀とリオンくんに」
「……なんだ、それもバレてたのか」
「うん。もしこの短刀の持ち主が分からなかったら、あのおじさんかと思ったかもしれないけど……ウィルさんが腰に下げていたものに似てたから、分かっちゃった。ほら、ワタシ、人の得物を観察するクセがあるからさ」
そういえば、俺の元愛剣をいち早くアンティーク品だと見抜いたのもカナリアだ。普段から人の武器を観察していたのなら、色々と納得できる。
「その短刀がさ、ワタシの命と想いを繋ぎ止めちゃったの」
「想い……?」
「うん……でも、ごめん。ちょっとさっきから気になってことがあってさ。……ウィルちゃんのその耳、前からそうだっけ?」
「「あっ……」」
そういえばまだ、レブロックをガーゴロンにかけたままで、ウィルにかけ直してなかった。
こんなに間近で見られてしまっては言い逃れはできない。俺たちは隠し通すことを諦め、正直に話すことにする。
「実は、ウィルはエルフなんだ」
「エルフ!? え、でもエルフって森の外には出られないって聞いたことあるけど……」
「えっと、確かにそうなんだけど、ウィルは特別で、その……」
「私はリオンさんの愛をいただくことで、森の外でも生き永らえることができています」
「愛!?」
ウィルの返答を聞いて、カナリアは目を丸くして驚く。次第にその顔が朱に染まっていく。
「愛、愛かぁ……やっぱり二人は愛し合ってるんだね」
「ま、まあ、そうだね。少し恥ずかしいけど……俺はウィルを愛してるよ」
「はい。私はリオンさんをこの世で一番愛しています」
「……そっかぁ」
胸の位置にやった拳をぎゅっと握り締め、苦しそうな表情を浮かべるカナリア。ガーゴロンとの戦闘で生じた傷が痛むのかと思い、大丈夫かと声をかけようとしたその時、パァンとカナリアは自分の両頬を思いっきり叩いた。突然の行動に、俺とウィルは言葉を失う。一方で、振り切ったような顔をしたカナリアが口を開く。
「ねえ、リオンくん。リオンくん言ってくれたよね。『もし助けが必要になった時、その時は俺を頼ってほしい』って」
「あ、あぁ。言った。たぶん一言一句同じだ……よく覚えてるな」
「覚えてるよ、そりゃ。大事なことだもん。……それでさ、リオンくん。今、ワタシ困ってるの。ワタシが集めてるお金なんだけど、あと55万ゴル足りなくてさ。今回の志願兵での報酬は女王がいなくなったことで消えそうなんだよね」
「え!? で、でも、カナリアは国を救ったんだぞ? 流石に国から勲章や報酬が貰えると思うけど……」
「それは辞退しようと思うんだよね。だって、見てよ。この街の状態。めちゃくちゃに荒らされてさ、これじゃあ店長さんたちの仕事無くなっちゃうよ。だから、そういったお金は街の復興に使ってほしいなって」
カナリアは本当に優しい心の持ち主だ。国からの報酬となると、55万ゴルなんて端金と言える額を貰えるはずだ。それなのにそれを断り、俺からピッタリの金額を貰おうとするなんて。
「……そうか。分かった。それで、俺はその55万ゴルを渡せばいいんだな」
「うん。でも、それじゃあワタシが貰いすぎかなって思うんだよね」
「いや、カナリアはよく頑張ってくれたよ。護衛の依頼もそうだし、今回の女王討伐も。だから、これは俺からの報酬ってことで——」
「ううん、それじゃダメ。ワタシは仕事以外の報酬はリオンくんから受け取れない。……だから、さ。その代わりとはいっちゃなんだけど、その、ワタシの、から——」
カナリアが何かを言おうとしたその時、少し離れたところから男の人の声が聞こえてきた。
「おい! お前さんら、何をやっているんだ! こっちへ来い!」
声の主は街から避難したはずのヒルトンさんだった。近くの小屋のドアから身を少しだけ出して、俺たちを手招きしている。
「ヒルトンさん!? どうしてここに? 逃げたはずじゃ……」
「その話は後でするから! 早くこっちに来い!」
俺たちは首を傾げ合い、とりあえずヒルトンさんのもとへ駆け寄る。そのまま小屋の中へ案内されると、中は空っぽで、地面に隠し扉らしきものだけがあった。
それを見て、少し村での出来事を思い出す。この街にも似たようなものがあったんだな。
「この中は隠れシェルターになっている。入るぞ」
俺たちはヒルトンさんの誘導に従い、地下へ繋がる階段を下りていった。
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【あとがき】
コメントありがとうございます。
すべて読ませていただいております。
あと100kPV感謝です。
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