第31話 いざ転売
あれからしばらく歩いて、遂に目的地であるモストンに到着した。
戦争前であることもあり、検問は厳しく行われていたが、俺の荷物が大量の武器類であることを知ると快く通してくれた。やはり需要があるみたいだ。面倒な手間を省きたいため、何度か来ることを伝えておいた。
モストンは立地が悪く、流通量が少ない。このままではいけないと考えた王国は、観光客を呼び寄せるために、近年グルメに力を入れているという。その効果もあり、街全体の収入は大幅に上がったらしい。
だが、今は戦争前ということもあって、あまり観光客は見当たらない。そのため道が広く空いているので、そのまま城前まで荷馬車を引いてもらう。
城門前に着いたところで、俺はカナリアに「お疲れ様」と言って少しばかりのお金を差し出す。
「この街はグルメで有名らしいよ。疲れてるだろうし、休憩がてら食べてきなよ。俺はその間、やることあるからさ」
「えっ、いいの!? ありがとうリオンくん! へへっ、二日連続お肉食べるぞー!」
カナリアは礼を言って、満開の笑顔で料理街へ駆けて行った。
カナリアに金銭を渡してまでご飯に行かせたのは、労いのためもあるが、一応この稼ぐ方法を詳しく知られないためでもある。ここまで一緒に行動しているので、見抜かれていてもおかしくはないのだが、念には念をである。
城門の門番に、武器類を売りにきたと話をすると、慌てた様子で城内に入り、しばらくすると走って戻ってきた。どうやら担当の者に話を通してくれたみたいで、商談をしてくれることになった。商品は城の者が運んでくれるらしく、俺はそのまま担当者のところへ案内された。
「リオン殿、お話は聞いております。どうぞこちらへ」
コンシュと名乗った担当者に促され、俺は城内の一室の椅子に、コンシュとテーブルを挟み対面する形で座る。
「この度は、我々モストンのために武器や防具をお持ちいただいたということで」
「ああ。最近、何かと入り用かと思いましてね」
「ええ、仰る通りです。ご存じだと思いますが、我々は近々ヘストイアと戦争をします。しかし、その際に必要な武器類が不足していたところだったのです。言い値で買わせていただきますよ、リオン殿。……ところで、こちらはどこから調達されたのでしょう?」
俺の真意を探るような視線をぶつけてくるコンシュに、俺は冷や汗を隠しながら平静を装って答える。
「ヘストイアですよ」
「ほう……つまり、我々の敵国の戦力を削ってくださってるということで?」
「私はどちらかに肩入れしようとは思っていませんよ」
「……なるほど、承知いたしました」
昔、ガルドから教わったことがある。上手い証人は嘘をつかない。相手の信頼を得てこそ、最大利益が得られるのだそうだ。そして、舐められてはいけないということ。ここで、俺は全面的にモストンを支持するというと、信頼は得られるかもしれないが、舐められてしまう可能性がある。
だから、俺は商品の調達元を正直に答え、そしてどちら側の味方でもないことを伝えた。
コンシュは俺の真意を読み取ってか、より一層顔を引き締めて、洋紙にペンを走らせる。そして、そこに書かれたものを俺に見せてきた。
「今回リオン殿がお持ちになられた全物品を、こちらの額で買い取らせていただきたく思います」
「おぉ、これはなかなか。しかし、残念ですな。私はあなた方と良い関係を築けるのであれば、もっと商品を販売してもいいと思っていたのですが」
「なっ! ……であれば、こちらでどうでしょうか?」
再び提示された金額を見て、俺はニッコリと笑顔を見せて、「これからよろしくお願いします」と手を差し出した。コンシュは一瞬安堵した表情を見せ、俺の手を握り返してくれた。
こうして、ヒルトンさんときのアレを除いて、俺の初めての商談は無事に終わった。部屋から出ると、はぁぁぁと深いため息が漏れた。思っていたより、相当ストレスが溜まっていたらしい。
案内された道順を思い出しながら、俺は城の出口を目指して歩き始める。すると、城内の警備を担当している兵士たちが話している声が聞こえてきた。
「なあ、ヘストイアと戦って俺たち勝てると思うか?」
「武器類の調達に目処はついたみたいだが、兵力が違うよなあ。騎士団団長がいてくれれば、勝ち目も見えてくるんだけど」
「行方不明になってからもう半年だろ? もうこの国を捨てやがったんだよ。裏切り者め」
どうやらモストンの騎士団団長が不在らしい。ゲームでは結局、ヘストイアの女王を打ち倒すことで戦争も流れるから、この2国の戦力差はよく分からないが、そのような立場の人がいないのは辛いだろうな。
まあでも、俺には関係ないかなと思いながら、なんとか城の外にまで出ることができた。すると、カナリアが既に荷馬車の近くに戻ってきており、少しぽっこり出ているお腹をさすりながら俺を待っていた。
「ごめんごめん、だいぶ待った?」
「お! おかえりなさーい。さっき戻ってきたところだから大丈夫だよ! あのね、この街の料理、どれもすごく美味しかったの! さすがグルメ国だよねぇ」
「はは、それはよかったな」
「うん! お金出してくれてありがとね、リオンくん! それでさ、リオンくんにも食べてもらいたくて、テイクアウトしてもらったんだ!」
そうして差し出された紙袋には、ハンバーガーのようなものが入っていた。青々しい葉はシャキシャキしてそうだし、パティからは肉汁が溢れており、パンも程よく柔らかい。見たらわかる、美味いやつだ。
「わざわざありがとう、カナリア」
「元々はリオンくんのお金なんだけどね」
「でもあれは一度あげたものだから、カナリアのものだよ。ありがとね」
「うーん、そっか! えへへ、どういたしまして!」
カナリアの笑顔を見て、思わず俺の顔も笑みを溢す。
しかし、悠長にしている場合ではない。再度武器類を売りつけるために、商品を仕入れるべくヘストイアへ戻らないと行けない。
俺は貰ったハンバーガーを齧りながら、急いでモストンを後にした。
* * * * *
あれから、結局俺はヘストイアとモストンの間を2.5往復した。最後にモストンに到着した所で日が暮れてしまい、これ以上は危険だとカナリアに言われたため、今日はモストンで一晩過ごすことになった。
ヘストイアの鍛冶屋は商業街なだけあり、質ではなく量を優先しており、毎度多くの商品を卸してくれた。
そして、今日一日かけての成果だが……150万ゴルである。いや、普通に考えれば十分多い。多いのだが、目標金額の二割も満たしていない。残り二日。最終日はウィルを迎えに行かなければならないので、丸一日は使えない。つまり、明日でほとんどを稼がなければいけない。
俺は一体どうすればいいんだろうか。段々と気が重くなっていく。
カナリアはそんな俺を気遣ってくれる。事あるごとに心配そうに眉を寄せた顔で俺の顔を覗き込んで「大丈夫?」と声をかけてくれるのだ。俺はそれに対して「大丈夫大丈夫」と返しているが、それが空元気だと見抜かれているはず。
やはりカナリアはお姉ちゃんみたいだ。自分も妹のことで気を病んでいるはずなのに、知り合って間もない俺を心配してくれる。
作中の
さて、今日はこちらで宿を取らないといけない。どちらの街にいたとしても宿泊しなければならないのだが、今はこの出費も痛く感じる。
カナリアと二人で宿へ向かい、受付をしていると、隣にいるカナリアから衝撃の発言が放たれた。
「あ、二人一部屋で大丈夫です」
「……へ?」
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