第23話 勇者様御一行5
しばらくエルフの後ろ姿を追いかけて歩み続けると、突然開けた場所に出てきた。そこには建物がいくつか点在しており、多くのエルフが暮らしを送っている様子だった。
そのまま女王の間と呼ばれる場所へ案内されたあたしたちを待っていたのは、女のあたしでもドキッとするようプロポーションを持ったエルフだった。
目が合うと、ニコッと笑顔を送ってくれ、少しクラッとした。
ここまで案内してくれたエルフがその人の近くに寄り、何かを伝え終えると、あたしたちに向けて話を始めた。
「ようこそおいでくださいしました、勇者ライク様。私、この里の長をやっております女王のウルカと申します」
女王様の所作は洗練されており、全ての言動に魅了される。女のあたしでもそうなるのだ、男であるお父さんは……目をハートにさせている。お父さんの脇腹に肘を入れてやる。
なんとケンガさんも目をハートにさせている。だけど身内ではないのでどうでもよかった。ライクは……あれ? 特に変わりない様に見える。そういうのに興味がないのかな?
脇腹に手を添えながら、お父さんが女王様に質問をする。
「エルフ族の長殿。ワシは勇者の仲間のガルドと申す。この度は何用でワシたちは呼ばれたのでしょうか」
「はい。勇者ライク様にこちらを献上したく、ここまでお呼びさせていただきました。こちらへ」
女王様の合図に従い、女王様の側近の者が綺麗な剣を持ってきた。刀身は白く輝き、まるでエルフの美しさを表現しているみたいだ。
「妖精の剣です。勇者ライク様。魔王討伐に向けて、少しでもお力になれればと思い、こちらを献上いたします」
妖精の剣を受け取ったライクは、周りを確認した後に、軽く振ってみせる。綺麗な風切り音を聞いて、ライクは笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます、女王様。このような素晴らしい剣をいただけるとは」
ライクの言葉を聞いて、少しムッとする。素晴らしい剣はここにもあるのにと。だが女王様の前だし、何より恥ずかしいので、その文句を飲み込む。
「喜んでいただけて何よりです。ところで、今日はこちらで一泊されますか? もちろん、おもてなしはさせていただきます。と言っても、男性の方がメインにはなってしまうのですが……」
女王様がそう言うと、色気のあるエルフのお姉さんが出てきた。
……え? おもてなしってそういうこと!? え、えっちなやつってこと!? エルフじゃなくてエロフだこの人たち! てかお兄ちゃん、どんなゲームやってたの! 今度問い詰めなきゃ……
左右から生唾を飲み込む音が聞こえた。もちろんお父さんとケンガさんだ。ため息が出てしまう。
「たしかエルフは子供を産むために、人間を村に招くと聞いたことがあります。しかし、帰って来れた人はいないとか……」
「え、じゃあワシらも帰れないのでは……」
「ご安心ください。確かに昔はそのようなこともありましたが、今は体制を変えています。程々で済ませるように言っていますので。そう、程々に」
そう言って妖艶に笑う女王様を見て、あたしは身が震える。程々のレベルを知るのが怖い。
「ところで女王様がお相手してくれないのでしょうか? こう見えても私、100人斬りのケンガと呼ばれていまして、自信があるのですよ」
ケンガさん!? この人、度々町に出るなと思ってたけど、そんなことしてたの!? リオンたちの剣術の師匠が違うものを斬って名を馳せているの嫌すぎる……
そんなケンガさんの質問を受け、女王様はウフフと笑う。
「私の身体はすでに他の方の予約済みですので。どうか他の者とお楽しみください」
他の方……? 一体誰だろう。側近が微笑ましそうにくすくすと笑っている。
「そうでしたか、これは失礼いたしました。では、あなたが私の相手をしてくださるのですね?」
「はい♪ 天国を見せてあげるね、お兄さんっ」
「おっと、それじゃあワシは……」
「お父さん?」
「グフッ。はい……」
もう一度お父さんに肘を入れる。全く……娘の前なのに、いい加減にしてよね。
さっきからライクがこちらをチラチラと見てきているが、あたしは用がないので気にしないことにした。用があるなら向こうから話しかけてくるだろう。
こうして、遊びに行かないよう捕まえたお父さんとあたしは、今日はこの里で宿を借りて寝ることにした。雑魚寝になってしまうが構わない。野宿よりマシだ。どうやら最近空いた物件らしい。宿泊施設は1つしかないらしく、そちらを勇者であるライクが使うことになった。ケンガさんは……知らない。
泊まる家を案内してもらうと、確かに生活感がある家だった。ベッドもあり、なぜか良い匂いがして惹かれる、持ち主のために使わないでおこう。
貴重な体験だと思い、家の外に出て少し里を探索してみる。ほとんどの建物が木のみで使われており、里の中なのに自然の中って感じだ。
「ねえねえ、本物の勇者様がいらっしゃったらしいわよ」
「あらそうなの? でも、私にとっての勇者ってあの人って感じなのよねー」
「確かにそうねぇ。実際、この里を救ってくれたのは彼だもんね」
本物の勇者? 偽物がいるのだろうか。しかし話を聞いている感じ、偽物の勇者は悪いイメージではなさそうだ。
ちょっと詳しい話を聞いてみようかな。緊張しながら、会話をしているエルフたちに話しかけようした瞬間、「ミリヤ!」と声をかけられた。声の方を振り向くとライクが立っていた。
「どうしたの? ライク兄ちゃん」
「いや、里の中を歩いていたらミリヤを見かけたからさ。すごいねここ。本当にエルフしかいないみたい」
「へぇ、そうなんだ。エルフの里っていうくらいだもんね」
なんとも間が悪いなあと心の中で愚痴る。しかし、これから一緒に旅をする仲間だ。おざなりにするわけにもいかず、話を続ける。
「と、ところでさ、師匠すごいこと言ってたね。ひゃ、百人斬りとか」
「あぁ、あまり聞きたくなかった事実だけどねー」
「そ、そうだよね。ミリヤはそういうの軽蔑する感じ?」
「うーん、どうだろう。ケンガさんは意外だったから驚いたけど、別に軽蔑するほどじゃないかなあ。お父さんは身内だからちょっと嫌だけど。想像するのも嫌ね」
「じ、じゃあさ、えっと、ぼ……いや、なんでもない」
顔を赤くしたライクが何かを言おうとして止める。なんだろう。まあ、言わないのなら別にいいけど。
「そういえばさ、そっちの宿はどんな感じだった?」
「うん、前まで誰かが住んでたって聞いてたけど、本当に生活感があって誰かの家に泊まりにきたみたいで、ちょっと緊張しちゃうかな。ベッドも1つあったけど、使うのもなんだか忍びないし」
「じ、じゃあさ、僕のところに来ない? 里の唯一の宿泊施設なだけあって、お客さん用って感じの内装だよ! 緊張せずに休むことができるんじゃないかな?」
「うーん、いや、あたしはお父さんと寝るからいいよ。お父さん、あたしが見張ってないと遊びに出そうだし」
「そ、そっか。ミリヤも大変だね」
「普段は頼りになるお父さんなんだけどねぇ。……ふわぁ。体は疲れてるみたい。あたし、宿に戻るね? おやすみ、ライク兄ちゃん」
「う、うん。おやすみミリヤ」
話が途切れたのを見切って、会話を終了させてライクと解散した。
周りを見渡すが、先ほどのエルフはもういなくなっていた。
「聞きそびれちゃったなぁ……」
ぼやきながら、宿の家に戻ることにした。
結局、翌日この里を出るまで、偽物の勇者の真相を聞くことができなかった。
第一章 完
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