第二章
第24話 初めての街
エルフの里を出てから数日が経った。
途中途中で小さな町に寄って一泊しながら、住んでいた村から一番近い街ヘストイアに到着した。ここには王城があり、街は城下町でかなり賑わっている。
街に入ると、活気のある街の風景にウィルは目を輝かせていた。今まで里にこもっていたのだ。ここにはウィルにとって今まで経験できなかったものが詰まっている。
そういえば、エルフが街中にいて大丈夫なのかという問題があったのだが、エルフの里を出る前に女王から、認識を歪ませる魔法レブロックをウィルが教えてもらっていた。それを使うことで、他者はウィルをエルフだと認識できなくなるらしい。だからここに来るまでに町に寄ることもできた。
「さて、どこから行こうか」
「あ、あの、リオンさん。私、お魚を食べてみたいです」
魚か。たしかにエルフの里は森の中にあるため、魚を食べる機会なんて今までなかっただろう。ここ、城下町であれば魚も流通しているだろう。
「じゃあどこか魚が食べられるところ探すか。ほらっ」
「あっ……はい!」
ウィルの方に左手を差し出すと、ウィルは顔にパッと花を咲かせ、右手で俺の手を握る。指を絡み合わせ、俺たちは通りを歩き始める。
人前でイチャつくのは少し恥ずかしい。しかし、ウィルは森の神様の加護を失ったことで、代わりに俺からの愛を受け取らないと生命力が枯渇してしまう。
その受け取り方だが、ウィルが愛を感じ取れたら感じ取れるほどいいらしく、こういった身体の密着が効率的らしい。そのため、外でも積極的にウィルの身体と接触することを意識するようになった。ちなみに一番効率の良い方法は、毎晩行っている。おかげで少し体力がついてきた。
街通りを歩いていると目新しいものばかりで、ウィルはもちろん俺も色々目移りしてしまう。口を開けながらキョロキョロするその様は、まさに田舎出の少年少女だと俯瞰してみて思う。
「見てください、リオンさん。噴水の前でボールを持った方が、変わったことをされています」
「あれは大道芸だね。道中で通りすがりの人に芸を見せて、感動した人からお金を貰うんだ」
「わわ、4つ同時にボールを回されています。えっ、交差して……5つ!? 素晴らしい技術ですね……リオンさん、あの」
「うん、楽しませてもらった分払わないとね。はい」
「ありがとうございます、行って参ります!」
硬貨を1枚渡すと、それを受け取ったウィルは嬉しそうに大道芸師のもとへ駆けていき、目の前にある帽子の中に硬貨を入れた。そして大道芸師に何かを言って、満足気な表情を浮かべてこちらに戻ってきた。大道芸師を見ると、嬉しそうな顔をしている。どうやらウィルは賞賛の言葉を送っていたみたいだ。
ちなみにお金の管理は俺がしている。というのも、エルフの里では金銭でやり取りされていないため、金銭感覚が養われていないのだ。ウィルには少しずつ学んでもらおうと思っている。
俺のもとへ戻ってきたウィルはすぐに俺の手と繋ぎ直し、「喜んでいただけました」と笑顔で報告してくれた。思わず頭を撫でてしまう。
ウィルは見た目は幼く、旅に出てウィルの知らない場面に遭遇することも多いため、年下のような、それこそ妹のように思える時がある。まあ、年齢は俺より上だし、夜は……
「あ、武器屋がある。へえ、鍛冶屋と併設してるんだ。こういった場所で土地持てるなら、この方式の方がやっぱり良いのかな。運搬技術はあまり発展していないし」
「リオンさんは武器や商売にご興味があるのですか?」
「……うん、まあそうだね。父親の影響かな」
「リオンさんのお父様ですか! 一度お会いしたいです。……なんだか、リオンさんの過去の話を始めてお聞きしたかもしれません。リオンさん、あまりお話ししてくれませんから」
「ごめん。いつか話すから、もう少し待ってもらえるかな」
「はい。いつまでもお待ちしております。この先、ずっとそばにいるのですから」
そう言ってウィルは身体を密着させるように寄せてくる。俺もそれに応えるように軽く身体を寄せる。
ウィルにはまだ俺の出自に関して話していない。いったいどこからどこまで話せば良いのか、わからないのだ。正直に話すならば、俺の前世を明かさないといけない。そうなると、ここはゲームの世界であり、ウィルたちはその登場人物だと言わなくてはいけない。それだけは避けておきたい。
前世を隠すのであれば、俺は幼馴染や育ての親、村のみんなを裏切った大罪人だ。ウィルに嫌われるのは怖い。だから、俺は話をすることから逃げている。でも、いつかは話そうと思っている。
身体を寄せ合いながらしばらく歩いていると、大衆料理店なるものを見つけた。中は結構賑わっているみたいで、看板には肉や魚のイラストが描かれていた。
「魚料理もありそうだな。ウィル、ここでいい?」
「はい。どんな味がするのでしょうか。とても楽しみです」
店内に入ると「いらっしゃい」と野太い声が歓迎してくれた。カウンター席の向こう側に立っているスキンヘッドの巨体な男の声だった。そのシルエットを見て、少しガルドのことを思い出し、目を細めてしまう。
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