第22話 勇者様御一行4

中央の広場にいると、既にほとんどの住人が集まっていた。その中にはお父さんもいて、あたしに気づいて手を振っている。


「ミリヤもきたか。おっ、ライクも一緒なんだな」

「ねえ、お父さん。これってなんの集まりなの?」

「うーん、ワシにもわからないんだ。村長から話があるらしいが」


そんな会話をしていると、ちょうど村長がやってきて、みんなの視線が村長に集中する。みんなの前に立った村長が、おっほんと咳払いをして話し始める。


「先日の魔物の襲撃は、やはりライクを狙ったものだった。つまり魔王にライクの居場所がバレてしまったんじゃろう。……あの日から考えに考えたのじゃが、この村に留まるのは危険だと判断した。よって、この村を捨てて、全員での移動を考える。またいつ襲撃されるかわからんからの。そして、ライク。ライクには勇者として、魔王討伐の旅へ出てもらおうと思う。元々、18の誕生日に勇者であることを伝えて、旅立ってもらおうと思っていたのじゃ。そこで、ライクと一緒に旅をしてもらう者を集う。……以上じゃ」


村長が話し終えると、住人たちはざわざわと各々で話し始める。


「僕が、魔王討伐の旅か……」


ライクも自身に突きつけられた運命を受け止めようと、村長の言葉を反復している。


新しい村はどこに作ればいいのか、それともライクを匿う必要はなくなったので町に引っ越すほうがいいのか、みんなの不安の声が四方八方から聞こえてくる。


しかし、あたしにとっては絶好の機会だと思った。


この一週間、どうやってリオンを探すのかを考えていた。あいつはある意味逃亡生活を送っているはずなので、一箇所に留まっているとは思えない。そのため、探すのであればあたしも世界各地を回らなくてはいけない。そのためには戦力と知識と仲間が必要だ。


「ねえ、ライク兄ちゃん。あたしも連れていってよ」


そう、あたしは魔王討伐の旅に便乗して、リオンを探すことにする。


ライクは目を丸くして驚いた後、わたわたと焦った様子を見せる。


「き、危険だよミリヤ! たしかに僕も君と一緒に旅ができるのは嬉しいけど、これから魔物とたくさん戦うことになるんだよ!?」

「大丈夫よ。あたし、魔法使えるもの。戦力になるはずよ」

「で、でも……」


ライクはあたしを旅の仲間にすることを渋る。


どうしたものか。何か説得する手段はないものだろうかと考えていると、お父さんが手を上げながら会話に入ってきた。


「ワシもその旅に同行するぞ。となれば、ミリヤも一緒にいてくれたほうがワシは安心だ。それに、ワシとライクで守ればいいだろ?」


そう言って、ニカッとこちらに白い歯を見せてくる。どうやら助け舟を出してくれたらしい。


結局、ライクはあたしの同行を認め、あたしたち3人に加えて、リオンとライクの剣術の師匠であるケンガさんの4人で旅立つことになった。


待ってなさい、リオン。絶対に探し出してやるんだから。




* * * * *




村を出発する当日、あたしたちは旅の準備をして村の入り口に集まった。


合流場所に来たライクを見て、あたしは気になることがあり、聞いてみる。


「ライク兄ちゃん。リオンの剣は?」


するとライクはばつが悪い顔をする。


「リオンの剣は持っていかない。もう使わないって決めたんだ」

「えっ」

「昨日、ガルドさんから剣を譲ってもらった。旅ではこれを使おうと思うんだ」


リオンの名前を口にするライクの目からはやはり恨みが伝わってくる。でも、あの剣は使って欲しかった。ならば、


「じゃあ、あたしが持っていく」

「ミリヤ!? 何を言ってるんだ。あんなのは使っちゃダメだ。それに、君は魔法使いだろ」

「いいの! ライク兄ちゃんが使わないなら、あたしが使うから!」


少しキレ気味に返して、あたしはライクの家へ向かう。あんなの、なんて言われて腹が立ったのだ。


しかしああは言っていたが、剣は丁寧に立てかけられていた。持ってみるとやはり重たく、自分に使えるだろうかと不安になったが、持っていくことにした。


こうして村を出てから2日後。あたしたちは森の中を彷徨っていた。


森は際限なく広がっているように思えるほど大きく、どれくらい進んでいるのか感覚が狂ってくる。


所々で木が伐採された跡が残っており、それを目印にして進んでいく。誰が伐採なんかしたんだろうと、お父さんは不思議そうにしていた。


どれだけ歩けばいいのだろうか。もしかして今日はここで野宿なのだろうか。そんな考えが過ぎっていたその時、脇から人影が出てきた。


お父さんとケンガさんが瞬時に身構える。遅れてあたしとライクも身構えて、出てきた相手をよく見る。……エルフ?


出てきたのは長い耳が特徴の人のような生き物だった。前世で見たエルフのようだ。敵意は感じず、柔らかい笑顔を浮かべてこちらに話しかけてきた。


「皆様は、勇者様のお仲間でしょうか?」

「あ、あぁ。まさしくそうだが、君は一体」

「失礼いたしました。私、エルフの里から参りましたナービと申します。女王様の命により、勇者様を里へご案内いたします。勇者様はどなたでしょうか?」

「ぼ、僕です。ライクと申します」

「承知いたしました。ではライク様、仲間の皆様。こちらへ」


エルフはあたしたちに背を向けて、森の奥に入っていく。


あたしたちは顔を見合わせ、大丈夫だろうかと不安になりながら彼女の後を追うことにした。

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