第21話 勇者様御一行3

ベッドの上で寝転び、あの日までのことを思い出していると、あたしの部屋の扉をノックしてお父さんが入ってきた。


「なんだミリヤ、まだ寝ていたのか」

「ううん。ちょっと横になってただけ」


魔物たちがこの村を襲撃してきた日から1週間が経った。リオンがあたしたちを裏切ったことは村全体に広まり、お父さんは一部の住人から責任を問われた。なんならお父さんも魔王の手先ではないかという声も上がった。しかし、村長がそれを否定すると、そういった声もだんだん聞こえなくなっていった。普段は存在感の薄い人だが、やはり村長なだけあって住人からは信頼されているみたいだ。


リオンはあたしの証言により、どこかに逃げ去ったことになっている。お父さんはたまにリオンの安否を心配するようなことを口にしている。リオンがあんなことをしたのは、何か考えがあってのことだろとお父さんは言っていた。リオンを信頼してくれているお父さんのことが更に好きになった。


おそらくリオンはあたしの……。確証はない。だから、会って聞かなければいけない。しかし、あてもなく全く知らないこの世界で探すのは非常に難しい。それに魔物もいる。結局あたしは村で足踏みをしている。


ところで、お父さんは何か用事があるのだろうか。


「どうしたの?」

「あぁ。ライクの様子を見てきてくれないか? ずっと家に引きこもってるみたいなんだ。あの日からずっと」


そういえばここ最近、ライクの姿を見ていない。と言ってもあたしもあまり外には出ていないのだが。


「なんであたしが?」

「なんでって、幼馴染だろ。仲良いし」


たしかにライクとは小さい頃から一緒にいた。だが、あれはミリヤの記憶の通りにしていたに過ぎない。それに、気づけばその中にリオンがいて、あたしはリオンと遊んでいる気分だったのかもしれない。そんなことに今になって気づく。


「わかった。ちょっと見てくるよ」

「ご飯を作って持っていってやったら喜ぶんじゃないか?」


料理か。少し気が乗らないが、ずっと家にいるんだったら食事もまともに摂っていないだろう。仕方ないが、作ってやることにする。




* * * * *




ライクは村の端に位置する小さな家で一人暮らしをしている。ご両親はずっと前からいないらしい。リオンと一緒だなと思い、彼の顔を思い出す。


家の前に着き、ドアをノックするが返事がなかった。引きこもっているはずでは? と思いつつ、「ライク兄ちゃんー?」と声をかけると、すぐにドアが開いた。


「ミリヤ? 来てくれたんだ」

「えぇ。最近家から出ていないって聞いて。ご飯、作って持ってきたよ」

「本当!? 嬉しいなあ。あ、どうぞ中に入ってよ」


ご飯を渡したらすぐに帰るつもりだったが、様子を見ることが本来の目的だったので、言われるがままに中に入る。


ライクの顔は少し痩せこけていた。やはりまともな食事を摂れていないことがわかる。そういえば、リオンは何も持たずに出ていったが、ちゃんとご飯を食べているだろうか。空腹で倒れてなければいいが。


ライクは「いただきます」と言ってご飯をガツガツと食べ始める。途中「美味しいよ」と言われたので、「そう」と短く返した。


食べっぷりを見て、そこまで心配するほどではないのではないかと思い始める。ついでなので、ご飯を食べ終えるまで待って、器などを持って帰ることにした。


ものの数分で食べ切ったライクは、膨れたお腹をさすりながら「ありがとう、ミリヤ」と笑顔を向けてくる。元気になったみたいだ。これでお父さんを安心させてあげられる。


「それじゃあ、食器持って帰るわね」


そう言って器を乗せたトレーを拾おうと伸ばした腕を、ライクに掴まれた。突然のことに「えっ!?」と驚き、瞬時に腕を引き戻して彼の手から逃れる。


「あっ……ごめん。ミリヤがもう帰るって言うから、つい掴んじゃった。……痛かった?」

「ううん。大丈夫だよ」


実を言うと少し痛かった。さすが男というべきか、勇者というべきか。その力はやはり脅威だった。


痛いといえばと思い出し、首の傷に手をやる。あの日、リオンが人質にするためにあたしを拘束していた時。やってることとは裏腹に、あまり痛くなかったのだ。やはり彼はあたしを痛めつけようとは思っていなかったのだ。


それにあの時、彼は何かを要求することなく、ただただライクを煽るだけだった。まるで、自分は悪者であると印象付けるために。


ただ、一つだけ傷をつけていった。それがこの首の傷だ。リオンが持っていた短刀が、あたしの首に刺さった時のものだ。すぐに治癒魔法を使えば傷も残らず回復できたのだが、あたしはそれをしなかった。自分でも理由はわからない。ただ、彼との繋がりのようなものが欲しかったのかもしれない。


あたしが首に手をやるのに合わせて、ライクは視線を動かし、傷を見て怒りの表情を浮かべる。


「リオン……! あいつ、妹であるミリヤの身体に傷をつけやがった! 僕、もう一度あいつに会って殴ってやらないと気が済まないよ!」


ライクはあたしのために怒ってくれているのだろう。だが、あたしはそれに対して何も思わなかった。ただ、もう一度会いたいというのには同感だ。


ライクはリオンのことを裏切り者だと思っている。それがリオンの狙いだったみたいだから、あたしはその誤解を解かないでおいでおく。


改めてトレーを拾い、家から出ようとドアを開けた。すると、目の前に初老の男が立っていた。村長だ。


「あれ、どうしたんですか村長」

「おぉ、ミリヤもおったのか。今、村のみんなを中央の広場に集めておる。ミリヤもライクと一緒に来なさい」


そう言って、村長は次の家に呼び出しに行くのか、この場を去っていった。


どうしたんだろうか。疑問を解消するためにも、あたしはトレーを置き、ライクと一緒に中央の広場に向かうことにした。

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