第17話 エルフと初夜
俺とウィルはこの先の人生を共に歩むことにな理、盛大に祝われた。
その中、そういえばと女王が口を開く。
「リオンさん。この森を救っていただいたあなたには、何か褒美を差し上げなければなりません。そこで、エルフ族に代々伝わる妖精の
出た。妖精の剣。
妖精の剣は序盤の冒険において非常に強力な武器だ。実際、俺もプレイ時に使用して、その火力に大いに助けられた記憶がある。
だからこそ、俺が受け取るわけにはいかない。
「失礼ながら、女王様。それを私が受け取るわけにはいきません」
「あら。と、言いますと?」
「その剣は非常に優れた一品だとお見受けいたします。であるならば、私ではなく、この世界を平和に導く勇者様にこそ相応しいと考えております」
「でもこの里にとってはあなたが勇者よ」
「たしかに私はこの森を救うことができました。しかし、それには女王様やウィルを始めとした、多くにサポートがあってのことです。そして、グェルの発言から、魔王が世界を支配しようと動いていることがわかりました。それならば、本当の勇者様にその剣を使っていただいて、魔王を倒していただきたいと思っております」
俺の必死な説得を受け、女王は「そう」と瞼を閉じる。
「わかりました。リオンさんのお望み通り、この剣は勇者に渡すこととします。皆さん、勇者の捜索を継続してお願いします」
近衛兵たちが頷き、そのうちの一人が伝令のためだろうか女王の間を後にする。
「すみません、女王様。森のこの先のことについてお話したいのですが」
「間伐のことですね?」
「はい。その件に関しまして、私に一つ提案がございます」
「あら。ぜひお聞きしたいです」
コホンと咳払いを一つして、俺は考えていた案を話し始める。
「今回、私が間伐を行ったことで森は回復していくと森の神様から証言をいただきました。しかし、エルフが伐採を行えない以上、今後またこのような状態になることは必至です。そこで、人間に伐採してもらうことを提案します」
エルフ族は特に人間を嫌悪していない様子。だからこそできる提案だ。
「確かにそうするしかありませんね。しかし、私たちは対価を持ち合わせていません。人間界では金銭でやり取りしていのでしょう? 過去に来訪された人間が残していったものがいくらかありますが、エルフ族にそのような文化はないので、いつか無くなってしまいます」
「その点も考えております。金銭ではなく、その、せ、セックスすることを対価としてはどうでしょうか」
「……ほう?」
女王の瞳が妖艶なものと変わる。それ以上言葉は続かないようだったので、俺は説明の続ける。
「ご存知の通り、人間はその命が尽きることになろうとも、エルフと交わることを厭わないほどです。それは、あなたたちエルフが美しいからです。だからこそ、報酬として相応しいのです。それに、伐採を行う者のほとんどは男性でしょう」
「ピッタリですね」
「はい。また、定期的にそのような機会を得られることは、エルフ側も森の保全以外にもメリットがあるということです」
彼女たちはそのような機会があまりないために、珍しく来訪した人間を食い尽くすのだ。定期的にそのような機会を設けることで、多少の自制を期待できる。
「もちろん、来てくれた人間を生きて帰すことと、トラブルを起こしかねない人間とは交流しないことを条件として盛り込む必要がありますが」
「トラブルとな?」
「……まあ、エルフ族に危害を与えようとする者です。あとは妻帯者ですかね。恨みを持たれると厄介ですから」
「うむ。危ない輩は森の神様が弾いてくださるでしょう。妻帯者、つまり人生のパートナーがいる人ですか。私たちに結婚という概念はないのでよく分かりませんが、そこはうまく交流するため、人間の文化に合わせましょう」
そういえば、エルフはたまたま里に訪れた人間と交わり、子を成している。つまり、父親という存在がいないのか。結婚システムがないのも頷ける。
あれ? そしたら、俺とウィルの関係性ってなんなんだ? 後で聞いておこう。
「素晴らしいご提案、ありがとうございます。これから会議を開いて、どのように実施していくか細かく詰めていきたいと思います。そういえば、リオンさんはこの里を旅立たれるのですか?」
「そうですね。明日には出ようかと思っています」
あまりここに長居することはできない。
「そうでしたか。そんなにも早く。……そういえば、妖精の剣をお断りされたので、まだ褒美を渡せていませんでしたね。どうでしょう。今晩、私と熱い夜を」
「え? ……え?」
女王は熱を帯びた目をしており、甘い声で俺を誘ってくる。
そういえば、このクエスト達成後って勇者は女王に筆下ろしされるんだった! それで失った幼馴染のことを振り切れて、新しい恋に前向きになるんだっけ。
あまりに慣れていない状況に、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまっていると、今まで隣で静かにしていたウィルが大きな声を上げた。
「お待ちください、女王様。リオンさんと今晩一緒に過ごすのは私です。女王様といえど、譲ることはできませんっ」
「ウィル……」
ウィルが代わりに断ってくれて、正直助かった。しかし、誘い自体を咎めないあたり(女王相手だからかもしれないが)、本当に結婚システムがないんだなと実感する。
「うふふ。申し訳ありません、ウィル。リオンさんが明日にも帰ると仰るので、つい」
揶揄うように笑う女王を見て、今の誘いはもしかして冗談だったのでは? と思えてしまう。
実際のところどうなんだろうと考えていると、ウィルが立ち上がり、俺の腕を掴んで扉に向かって歩き始める。
「え、え? ウィル?」
「女王様、私たちはこれで失礼いたします」
有無を言わせない雰囲気を漂わせたウィルに連れられて、俺たちは女王の間を後にした。
* * * * *
女王の間を出てから、ウィルに連れられて診療所へ向かった。
ここまで歩いてこれたことから分かってはいたが、グェルから受けたダメージは大したことなく、治癒魔法をしてもらってほとんど回復した。あとは寝て起きたら体力は全快らしい。
あいつ、本当に戦闘力なかったんだなあと心の中で呟く。なんかカマセ感あったもんなあ。
それにしても、森の神様相手に一人で挑むことができる勇者はやはり異常だ。俺はウィルに強化魔法をかけてもらってやっとだったのに。こんなところでもライクとの力の差を痛感する。
診療所の後はウィルの家に戻り、疲れたなあと椅子に腰掛けた。すると、ウィルが俺の膝の上に座ってきた。しかも対面で。
「ウ、ウィルさん?」
「リオンさん。リオンさんは女王様のお誘いをお受けするつもりだったのでしょうか」
そんなことを聞いてくるウィルの表情は少し怒っているように見える。眉尻を上げて、頬を少し膨らませている。しかし、目が少し潤んでいる。
俺が即断れなかったから、嫌な思いをさせたんだなとすぐにわかった。頭を撫でてやると、一瞬目を細めたが、誤魔化されないぞと言わんばかりに再び目をキッとさせる。それがまた愛らしく思えてくる。
「断るつもりだったよ。ただ、あまりに急なことで言葉が出なかったけど」
「……本当ですか?」
「あぁ」
「……わかりました」
納得してくれたのか穏やかな表情に変わり、俺の胸に顔を埋め、「落ち着きます」と言って頬擦りを始めた。
しかし、この体勢、少しクるものがある。主に下半身に。生粋の童貞である俺は、前世を含めてこのような経験がない。
「あの、リオンさん」
ウィルが上目遣いでこちらを見つめてくる。その目は、先ほど見た女王のものと同じ、熱を帯びたものだった。
「私、聞いたことがあります。人間たちは男女が結ばれた日の夜を初夜と呼ぶと」
「あ、あぁ。結婚初夜ね」
「はい。私たちは正確には結婚はしていませんが……」
そこで、ウィルは俺の耳元に顔を寄せてきて、吐息混じりに言う。
「私、初夜を迎えたいです」
全身に痺れのようなものを感じた。その瞬間、俺の下半身が元気になってしまう。
「あっ……えへへ」
俺の股間の上に座っているのだ。気づかないわけがない。ウィルは妖艶な笑みを浮かべ、自分の手を下へ持っていく。
「お慕いしております、ウィルさん」
俺とウィルはそのまま熱い夜へと突入したのだった。
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