第12話 森が抱えている問題

女王の間の目の前には二人の番兵が立っていた。どうしたものかと思ったが、なんと顔パスで通ることができた。この里には俺しか人間はいないため、女王の命令で森の調査に当たっている俺だとすぐ分かったのだろう。


女王の間に入ると、玉座に座っている女王が驚いた表情を見せた。


「どうされたのですか、リオンさん。かなり急いだご様子で。それに同行をお願いしたウィルの姿が見当たりませんが」


どうやら、ウィルの状態についてはまだ女王の耳には届いていないらしい。


「先ほど森の調査に当たっていたのですが、蔓に襲われ、ウィルに持っていた加護の力が奪われました」

「……そうですか」


俺の報告を受けて、特に驚いた様子を見せない女王を見て、俺は確信する。


「女王様。あなたはこの事をご存知だったのではありませんか?」


俺の問いに、女王は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら「はい」と素直に認めた。


「確信はありませんでした。ただ、森に襲われて亡くなったと思われるエルフに、御加護が残っていないことに疑問は持っていました」

「どうしてそれを事前に教えてくださらなかったのですか!」


声を荒げる俺を近衛兵が捕縛しようと動いたが、女王はそれを制止させ、頭を下げた。


「申し訳ありません。確信を持てない以上、無闇に語るべきではないと考えていました。そもそも道理に合わないのです。御加護とは、森の神様が我々に与えてくださる生きるための力。それを森の神様の御身の一部である森が奪うなど、私には理解に苦しむのです」


女王の言うことは一理あった。森の神様という存在は、ひいてはそれから与えられる加護の力は、エルフが生き続けるために必要不可欠なものだ。神様を疑うような事をすれば、その力を与えられなくなってしまうのではないかと考えると、慎重にならざるを得ない。実際、森に攻撃することでその資格を剥奪されるのだから。


そして、理解に苦しむといった点。これも俺も同感だ。なぜ、わざわざ与えたものを奪い返すような事をしているのか。


だが、この疑問を解消することは、今抱えている問題を解決することに繋がると確信している俺は、先ほど行きついた考えを女王に話すことにした。


「女王様。一つ確認があります。エルフ族は森の木を伐採することは禁止されていると聞きました。そして、使用する木材は倒木に限られることも。……ところで、ここ数年、木材が足りているのではないですか?」


そんな俺の問いに対し、女王は「そうなんです」と少し嬉しそうに答える。


「ほんのここ数年ですが、倒木が多く見つかっていて、多くの建物の建て替えに利用しようと計画を立てているところです。ただ、立派な木が少なくて、建設には向いていないのではないかとという声も上がっていますが」

「女王様。現在、森が抱えている問題の原因がわかったかもしれません」

「え、本当ですか!?」


目を丸くして驚く女王。俺は話を続ける。


「森を歩いていて気づいたことがあります。この森の木はどうも多すぎます。それもそのはずで、エルフ族が木を伐採することができないから、木は増える一方です。減る要因が倒木しかないのですから」

「た、確かに多いかもしれません。しかし、それは森が豊かになっているということではないのですか?」

「木の数が増えることと、森が豊かになることは等しくありません。たしかに森にとって木は必要不可欠ですが、多すぎるとそれはそれで問題が起きるのです。先ほど女王様も仰っていましたが、細い木も多いです。これは一本一本の木がうまく成長できていないということになります」


俺の話を聞いて、少し考え込む素振りを見せる女王。俺はそれをあえて無視して、話を続けていく。


「林の中が混み合い、隣どうしで枝葉が重なりあうようになります。この状態ではそれ以上枝・葉を広げることは難しくなり、お互いに成長を阻害してしまいます。こうして成長しても細い木ばかりになってしまいます。加えて、木が混み合っていると、太陽光がほとんど差し込まないために、土地がやせ、根もしっかりと張ることができません。ここ最近、倒木が多いのもこれが原因です」


そこまで言い切って、俺は話を終えた。ここから先は、女王が自ら気づき、そして解決案を提案してくれることが一番丸く収まるからだ。


しばらくの沈黙が続いた後、ついに女王が確認するように話し始める。


「もしかして、現在森で起きている異変は、この森林の密集化が原因なのでしょうか」

「私はそう考えています」

「そう、ですか。……では、その対処もリオンさんにお願いしても?」

「もちろんです。なんせ、私にしかできませんから」


そうですねと苦笑する女王に対し、俺は笑顔を作って見せる。


そう。こうなってしまった森林に対する対処法は一つ、間伐である。つまり、木を伐採して間引くのである。エルフがそれをやると、加護を受ける資格を剥奪されるため、人間である俺がやるしかないのだ。


「リオンさんには本当に感謝しています。ウィルがあなたを連れてきたのも、何かの導きなのでしょう」

「俺は勇者じゃありませんけどね。それに、まだ解決したわけじゃないですよ」

「うふふ。確かにそうですが、私はこの出会いを特別なものだと思っています。私ににとっても、あの子にとっても」


あの子……ウィルのことだろうか。ウィルが今回倒れてしまったのは、俺の力不足が原因だ。そもそも、俺があの時森の中で倒れていなければ、ウィルはライクと出会い、ライクが全てを解決してくれたんだ。俺が巻き込んだみたいなものだ。


「女王様、一つお願いしてもよろしいでしょうか」


俺の申し出に、女王は「いいですよ。なんですか?」と快く答えてくれた。


「この近くで、果物が取れる場所を教えてください」


俺がそう言うと、女王はニッコリと笑い、慈愛のこもった目を向けてくれた。

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