第11話 森の調査
里を出て、森の中を進んでいく。
そういえば俺はこの森の中で倒れていたんだよなと思い出し、ふと思ったことをウィルに投げかける。
「そういえば、ウィルは勇者の捜索をしている時に俺を見つけたんだよな? 捜索活動をしなくていいの?」
「私以外にも活動に当たっている方がいるので、大丈夫ですよ。それに、私は森から出ることはできないので、そこまで戦力にはなりませんし」
「へぇ、森から出れないんだ。どうしてか聞いていい?」
「大丈夫ですよ。えっと、私たちは森の神様からの御加護で生きているというお話があったと思いますが、御加護をいただけるのは森の中にいる時に限るのです。ですので、森から出ると御加護をいただけず、私たちは生きていくことができないのです」
だから作中で勇者たちと一緒に冒険ができなかったのか。
原作の疑問に対して納得のいった俺は、先ほどの会話の中で気になったことを聞く。
「でも、森の外に出てるエルフもいるの?」
「はい。まだ私は教えてもらっていないのですが、何かの条件が揃った時、その方は森の外でも生きていけるみたいです。ただ、なかなかそのような機会はないみたいですが」
「そうなんだ。その人たちも勇者の捜索に協力してくれてるの?」
「はい! 里を出て何年経っても、やはり里を忘れることはできないそうで、定期的に帰ってこられます。その際に女王様が協力をお願いしたところ、快諾してくださいました」
それなら、いつか
彼女が少し不憫に思えて、気づいたら隣を歩いているウィルの頭を撫でていた。
「ふぇっ!? あ、あの、リオンさん……」
「え、あっ! ご、ごめん……勝手に頭撫でて」
「い、いえ。その、ビックリはしたのですが、い、嫌じゃなかったです!」
顔を真っ赤にしたウィルにそんなことを言われ、急いで頭から離した手を、もう一度頭に置き、ゆっくりと動かす。すると、ウィルは目を細めて気持ちよさそうな表情を浮かべる。それを見て、前世の妹の小さい頃を思い出し、心が温かくなってきた。
「リオンさんのお手……大きくて気持ちいです……」
なんだろう、急に少しやましい気持ちになった気がする。
俺は焦って手を引き、「終わりね」と言って頭を撫でるのを終了させた。ウィルが少し悲しい顔を浮かべた気がしたが、気にしないことにした。
それからしばらく歩き、俺たちは森の神様が祀られている祠の近くまで来た。
やはり思うのは、この森の暗さだ。木が所狭しと生い茂っており、自然豊かであるため、日光が入ってきていないのだ。
木が細いこともあって、少し不気味だなと思いながら、でもこれも自然を保護しているエルフの活動の効果であり、森の神様の力なのかなとも思う。
「この辺りは神様の力が強く、森の活動も活発です。お気をつけて」
「わかったよ……と、言ったそばからっ!」
突如襲いかかってきた蔓を、さっきいただいた剣で叩き切る。
二つに分かれた蔓は、先端側は動かなくなったが、根元側はまだ元気に動いている。
「おいおい。どうすればいいんだよこれ」
ウィルは庇うように自分の後ろに配置させて剣を構える。
蔓はしばらくこちらの様子を見ていた。そして、もう一度襲いかかってくる。俺はそれをまた斬ることで防御する。しかし、
「リ、リオンさん!」
後ろからウィルの悲鳴が聞こえ、振り向くと、俺が対峙してた蔓とはまた別の蔓にウィルが襲われていた。先ほどの間は様子見ではなく、仲間と攻撃のタイミングを図っていたのか……? 妙に知識がある動きが気味が悪い。
蔓はウィルの身体に巻きつき、その体を地面から浮かせる。蔓は生命を感じる動きで、ウィルの身体を撫でるように巻きついていく。
「ぁ……リ、リオン、さん……んっ……」
R18でよく見る展開じゃないか! と思いながら、冷静にどうやって救出するかを考える。先ほど、切って別れた先端部分は動かなくなった。つまり、ウィルに絡まっている部分より根元側を切れば!
「ウィルを離せ! このクソ変態蔓が!」
力強く剣を一振りし、森の奥から伸びている蔓を切断する。するとさっきまで力強くウィルに巻きついていた蔓は、力を失くしたように緩まり、浮いていたウィルの身体が落下する。
切断後、剣を背中にある鞘に戻すと、瞬時にその場から駆け出し、ウィルの下に到着する。そして、落下してきたウィルの身体を受け止めることに成功する。
「ウィル、大丈夫!?」
「は、はい……助けていただき、ありがとう、ございます……」
無事にウィルを救出することができたが、ウィルの体力の消耗が著しい。ウィルの体は小さく、体重も軽い方ではあるが、全然力が入っていないため抱えていると少し重たく感じる。
切られた蔓は、再度ウィルを捕まえようとこちらの様子を見ている。
「くそっ! ここは一旦退くしかないか」
このままでは犬死にだと判断した俺は、ウィルを抱きかかえたままその場から逃げ去ることにした。蔓はしばらく俺たちを追いかけてきたが、ある程度離れたあたりで諦めたのか、それとも長さが足りなくなたのか、それ以上は追いかけてくることはなかった。
急いでエルフの里に帰還した俺は、里に入って最初に見つけたエルフに声をかける。
「そこのあんた、助けてくれ! ウィルが蔓に襲われて、元気がないんだ!」
俺の必死な訴えを聞いたエルフは、俺が抱えているウィルの姿を見て、事の深刻さを察し、「わかったわ! こっちに連れてきて!」と建物に案内してくれた。
そこは診療所みたいな場所で、医者のような人がいた。ウィルをベッドに横たわらせ、医者がウィルを診察する。
「あの、ウィルの体調はどうなんでしょうか」
「これは……力を抜き取られているみたいですね。力、すなわち森の神様から与えられている御加護が不足しています。どうしてこんなことに……」
「私たちはさっきまで森の調査をしていたのですが、先ほど、蔓に襲われまして、それからウィルはこの調子で……」
「うぅむ。原因はよくわからないが、安心してください。この里にいる限り、我々は御加護を与えられます。明日には良くなっていることでしょう」
「ほ、本当ですか!? よかったぁ……」
医者の話によると、森でできた果物を摂取することでも加護を得ることができるらしく、回復までそんなに時間はかからないらしい。
安心した俺は、落ち着いてきたのかベッドの中で寝息を立て始めたウィルの頭を撫でる。
後は医者に任せることにし、診療所を出た俺は、今回の調査の結果を頭の中でまとめる。
非常に生い茂った森。ウィルを狙ったかのように襲いかかってきた蔓。蔓の襲撃後、力を失ったウィル。そして、森の神様の存在。
「もしかして……」
俺はある一つの考えに辿り着く。しかし、これが本当だとしたら、俺がやることはエルフ達に絶対に反対されるだろう。
説得するためにも、俺はあることを確認するべく、女王の元へ向かった。
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