第8話 里の調査

さて、女王のお願いを了承したわけだが、少し気になったことをこの際なので質問してみる。


「ところで、私がこのお願いを拒否、または失敗した場合はどうなるのでしょうか」


命を助けてもらったのだ。ある程度の義理は通そうと思っている。しかし、逃げ道があるかないかで心持ちは変わってくるものだ。


そんな気構えで聞いた質問だったが、妖艶な笑みを浮かべる女王の答えを聞いて俺は背筋が凍る。


「エルフ族には男性が生まれません。しかし、我々エルフもあなた方人族と同じく有性生殖で子孫を残します。相手は人族でも構わないのです。生まれるのはエルフ族ですが。ただ、我々エルフ族はなかなかその機会に巡り合いません。……なので、そのような機会があれば、里の皆が飛びつくでしょうね。無論、私もです……」

「っ!?」


女王の目が獲物を狙うような鋭い目つきに変わる。そして、「ここまでの情報で、お察しいただけますよね?」といった笑みを浮かべている。


やばいじゃん。こいつらエルフじゃないよ、エロフだったよ。しかも人間拉致って性的に食い殺すタイプじゃん。ヤクザじゃん。ヤクザエロフじゃん! でも……女性に埋もれて搾り取られるってのも、童貞の夢の一つだよな……いや死んでたまるか! なんのためにあんな目にあったと思ってんだ!


もうこれ任務を完遂するしかないじゃん。どうしよ。てか、ウィルはこれを知ってて俺を里に運び込んだのか? ……あ、違うわ。知らなかったぽいわ。顔めっちゃ赤くして身体震えさせてるわ。


「じ、女王様! それは本当なのですか!?」

「あらウィル。あなたまだ知らなかったのね。いいわ、今度私がみっちり教えてあげるから。男の扱い方もね……うふふ」

「……ぁぅ」


女王の言葉を聞いて、ウィルは耳まで真っ赤になって俯いてしまう。


ああ純情なウィルを汚さないでくれ! この子はこのままでいて欲しい! 今さっきの話を聞いて、エルフの里の住民の目つきが怖く感じてきたんだ! ウィルはこの里における癒しになる可能性があるんだ!


そう叫びたいのも山々だが、実際にエルフの種の存亡につながる話なわけで、部外者があまりズケズケと文句は言えないと思い、心の中に留める。


「うふふ、可愛い娘。……そうね。これも縁。ウィルは引き続きリオンさんのお世話をお願いするわ。調査にも同行しなさい。そして、リオンさん。今日はお休みになってください。調査は明日からでも構いません」

「わ、わかりました」

「……承知いたしました、女王様」

「うふふ。楽しみですわ」


女王の最後の言葉が何を示しているのかを考えないようにしながら、俺は女王の間を足早に去るのであった。




* * * * *




女王の間を出た俺は、そのままウィルに里の案内をしてもらった。


たしかに女王の言った通り、どこに行っても男性の姿が見当たらなかった。本当にエルフは女性しか生まれないんだなと思うと同時に、生き残った人族の男性種馬もいないんだなと寒気を感じた。


ここは正真正銘、R18のゲームの世界なんだなと確信する。エッチなことに少し期待していたが、こんな恐ろしい側面を持っているなんて……。


「あの、リオンさん」

「ん?」


同行しているウィルが眉尻を下げ、申し訳なさそうに声をかけてきた。


「申し訳ありませんでした。このようなことになってしまって。私、あ、あんなこと知らなくて……ごめんなさい」

「い、いや! 謝らないでよ。ウィルが助けてくれなかったら、俺は死んでたわけだし……ウィルは命の恩人だよ。そのウィルが、里のみんなが困っているなら、俺も力になるしかないって。だからさ、大丈夫だよ。なんとかしてみせるって!」


申し訳なさを払拭させようと気丈に振る舞い、大丈夫だとアピールするために力こぶを作ってみせる。剣術の鍛錬と鍛冶屋の修行で培ったそこそこの筋肉が、ここで役に立つ。


そんな俺の姿を見て、ウィルは「ふふっ」と笑い、「ありがとうございます」とお礼を言ってきた。お礼を言う立場はずっとこっちなんだけどな。


しかし、こんないい子が、いずれ男の性を食い尽くすような淑女に育つと思うと……胸にくるものがあるね。なんだろうね、この気持ち。


おっと、こんなこと考えている場合ではない。有言実行するには、まずは里の様子をしっかりと調査しなければ。


俺は周りを見渡す。森の中なので当たり前だが、周りは多くの木に囲まれており、建物に使われている素材も木材がほとんどだ。前世のログハウスがあるキャンプ場みたいだなと心の中で感想を漏らす。


「建物の木材も、この森の木を使っているのか?」

「はい。この森で育った木はとても丈夫で、その木で作られた家は少々の衝撃では壊れないのです。なので私たちは重宝しています」

「なるほどね。丈夫だから、少し年季が入ってる建物ばかりなのかな? あまり新し目の建物を見ないけど」

「えっと、半分正解なのですが、半分違うのです。先ほど女王様が仰られていましたが、私たちは加護者である森に対して攻撃することができません。それは森の木を倒すことができないことと同義なのです。そのため、自然に倒れた木を使うしかありませんので、あまり木材が揃わず、新しく建てるということがあまりないのです」


なるほど。少し里の状況というものが見えてきた気がする。


「木は神様のお体の一部と言われているそうで。ただ、果物や草花といったものは採取しても大丈夫なので、普段の生活する分には困らないのです」

「だからあまり気にならないって感じか。見た感じ、火も使わないみたいだし」

「そうですね。森が燃えてしまう可能性があるので、火気は厳禁です」

「あー、それもそうか」


じゃあ、木材は建物を建てる時や家具を作る時くらいにしか必要ないってことか。人口の増大もあまり考えられないみたいだし、それならあまり不便ではないのかな。


里の調査がひと段落したあたりで、俺たちはウィルの家に戻った。家の数も限られているため、俺はウィルの家にお世話になるのだ。


晩御飯はやはり果物だった。黄色のりんごのようなもので、見た目からして酸っぱいのかと思いきや、いざ食べてみるとかなり甘かった。ただ後味はすっきりしているため、次々と食べることができた。


食後、軽く水浴びなどをした俺たちは、翌朝に備えて寝ることになったのだが……


「リオンさんはベッドをお使いください。私は床で寝ますので」

「いやいやいや、流石にウィルみたいな女の子を床で寝させるわけにはいかないって! 俺が床で寝るよ」

「かわ……こほん。いいえ、客人を床で寝させるなんてエルフ道に反します。どうぞベッドでお休みなさってください」


エルフ道ってなに!? 急に知らない単語を使わないでよ! 混乱するじゃないか!


うーん、このままでは押し問答になってしまう。何か妥協案がないだろうか……あっ。


「じゃあ、さ……一緒に寝るってのは、どう? なんて」

「よ、よろしいのですか!?」

「えぇ!?」


目をキラキラさせてこちらを見てくるウィル。なんでこの子、こんなに食いつきがいいの? やはりエロフの血族なのか?


「い、いや、じょうだ……」

「素晴らしい提案をありがとうございます。それでは、私は明日の準備を済ませてきますので、お先にベッドでお休みになっていてください」

「あ、ちょっ……行っちゃった」


明日の準備をすると言って、ウィルは家の外に出て行ってしまった。


今のうちに床で寝てしまおうか? しかし、この話の後で床で寝ていたら、もしかしてウィルが傷つくのではないだろうか? もしくは、起こされて結局一緒にベッドに……。


後に引けなくなった俺は、これが最善策だと思い、ウィルが戻ってくるより前にベッドで寝ることにした。これで意識することもないだろう! 完璧だ。


まあこの策に欠点があるとすれば、クソ童貞野郎がこんな状況ですんなりと寝れるわけがないってことだが……。


寝不足が確定した瞬間であった。

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