第7話 エルフの女王
『エルドラクエスト』のエルフの森編のシナリオを思い出す。
旅の途中、森の中で泣いているエルフを見つけた勇者は、心配になり声をかける。このエルフこそウィルであり、エルフの里が壊滅の危機に瀕しており、助けてもらうために言い伝えの勇者を探しているところだった。
話を聞いた勇者はエルフの里を訪れ、女王と出会い、エルフの里が直面している危機について語られる。たしか内容は、エルフの里を含む大きな森を守っているはずの森の神様が悪しき心を抱いてしまい、守る対象であるはずのエルフを攻撃し始めていた。エルフの種の存続のために、その神様自体を倒すわけにはいかないため、悪しき心のみを斬ることができる勇者が必要、といったものだ。
勇者は無事、森の神様の悪しき心を砕き、エルフの里に平和が訪れる。そういえば、問題解決のお礼として里の秘宝である妖精の剣をいただくと共に、R18の方では、女王から筆下ろしをされるらしいが、俺がプレイしたバージョンではそんなものなかったため、ただ妖精の剣をもらうエピソードだった。
ウィルもヒロインの一人なのだが、エルフはこの森から遠く離れることができないため、いつか里に帰ってくるのを待っていますと言ったきり、エンディング後まで勇者は会わないのだ。R18版ではエッチなシーンがあるみたいだが、もちろん俺のプレイ版はカットしないといけない。そのためか、そのエンディング後のシナリオ自体カットされているらしい。ファンの間では忘れられたヒロインなんて呼び名をつけられていた。
森の神様が悪しき心を抱くようになった原因は、実はまだわかっていない。魔物が関与しているのではと作中で言われていたのみだった。もしかしたら、R18版のエンディング後のエピソードで語られているのかもしれない。
シナリオを思い出しながら整理したところで、ウィルに連れられて女王がいるところまで辿り着いた。
「女王様。彼の者を連れて参りました」
「ありがとう。あなたが、ウィルが森で拾ってきたという人間ね。私はこの里の長でありエルフ族の女王です」
女王を目の前にして、俺は唾を飲んだ。纏っている威厳さに緊張したのもあった。だが、原因の多くを占めているもの、それは——女王のエロさだった。
ウィルと同じく透き通るような色白の肌に長いブロンドヘアーを靡かせ、なによりスタイルがすごい。前世ではありえないような大きな胸に、引き締まったくびれ、そして程よく大きなヒップ。まさにボンッキュッボンッだ。服装も肌がよくお見えで。
前世を含めて約30年間童貞だった俺にとって刺激的すぎて、たじたじしてしまう。てか、ライクはこんな人に筆下ろしされるのか!? ず、ずるすぎる……これが勇者の特権ってやつか……。
本心を悟られないように姿勢を正し、意識してハキハキと喋る。
「私、近くの村出身のリオンと申します。森の中で倒れていたところを、ウィルさんに助けていただいたと聞きました。ありがとうございます」
「そうなのよ。ウィルったらすごく焦った様子で里に戻ってきて。うふふ。あの慌てよう、可愛かったわね」
「じ、女王様!」
女王にいじられてしまい、ウィルのエルフ耳が赤くなる。たしかに非常に可愛らしい。
「果物から作った飲み物もいただきました。本当にありがとうございます。お恥ずかしながら、空腹で倒れていたみたいで」
「うふふ。そうらしいわね。……ところで、ひとつ聞きたいのだけど。あなた、勇者だったりしないかしら?」
「……いいえ。残念ながら、私は勇者ではありません」
女王は俺の返答を受けて「そう……」と少し落胆の色を見せる。しかし、俺に気を遣ってか、次の瞬間にはパッと笑顔を浮かべる。
「それなら、ゆっくりしていってください。今はあまり、おもてなしすることができませんが」
その言い様から、やはり何か問題が起きているのだと確信し、聞いてみる。
「何か問題が起きているのですか?」
「あら、わかっちゃいましたか。すみません、ご迷惑をおかけする気はなかったのですが……」
女王はそんなことを言っているが、その反面、表情は何かを企んでいるような笑みを浮かべている。この人、わざと俺を巻き込もうとしてるだろ。
俺が少し訝しむような表情をしたのが分かったのか、女王は目を細めて笑う。
「実は最近、この森の元気がないのです。私たちはこの森の神様から御加護を受けて生きています。そのため、森が元気をなくすことは、エルフ族存続の危機になるのです」
女王の話を聞いて、ゲーム通りだなと少し安心する。初っ端からイレギュラーを起こしているのだ。シナリオがどのように乱れているのか分からない。
しかし、少し違う点がある。どうやら、森の神様はまだ悪しき心に染まっていないらしい。もしかして、作中で勇者がこの里に辿り着くより前のタイミングに着いたからか?
「そこで、リオンさんには森の調査をしていただきたいのです。……最近、森が襲ってくることがあるのですが、私たちエルフは加護者である森に対して反撃することができません。もしした場合……その者の御加護は、完全に無くなってしまうのです」
いや、若干悪しき心を持ち始めているのか……? 自分の庇護下であるエルフを攻撃するなんて。しかし、加護がなくなるなんてことは、特に作中で言及されていなかったはずだ。まあ、悪しき心を砕くことが目的なら、元から勇者に全てを任せるしかないだろうし、話す必要がないってことか。
「それで……どうでしょう。力を貸していただけないでしょうか?」
伺い立てるように聞いてくる女王だが、その目は断らないよなと言っている。俺は心の中でため息をつきつつ、まあ助けてもらった恩もあるしと言い訳を述べながら、「協力させてください」と答えた。
それを受けて、女王は「恩に着ます」と言い、妖艶な笑みを浮かべた。そこには俺に対する期待が見えたように思えたが、勇者でない俺に対してそこまで期待しているはずがないとその考えを振り捨てるのであった。
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