第4話 魔王軍の襲撃

会場に着くと、既に大人たちがどんちゃん騒ぎしていた。その中心に、本日の主役がいた。いや、この世界の主役でもあるが。


「リオン! ミリヤ! やっと来てくれたんだね!」


俺たちを見つけたライクは、嬉しそうな表情を浮かべてこちらに手を振ってくる。俺は軽く手を上げて「すまん、遅くなった」と軽く謝る。


「誕生日おめでとう、ライク兄ちゃん! これ、あたしからのプレゼントね!」


ミリヤが手渡したのは、ミリヤお手製のヘッドバンドである。作中でも渡していた装備品だ。序盤ではお世話になるのだが、すぐに上位互換が手に入ってしまうため、最後まで装備している人は少ないだろう。しかし、思い出が詰まったその装備を売る、もしくは捨てるなんてことができた人はいないだろう。……いないよね? しかし、こうして現実で見てみると、なんでこれを装備して防御が上がるんだって思ってしまう。


「ありがとうミリヤ! すごく嬉しいよ! ……どうかな?」

「うん、似合ってる! よかったぁ」

「ホント!? これ、ミリヤの手作りだよね? 一生大事にするね!」


なんて仲睦まじい光景なんだろう。この二人の邪魔をしてはいけないと思い、俺は空気を読んで黙っておく。


しかし、ミリヤが「あんたも渡すものあるんでしょ」と俺に話を振ってきた。あれ? 俺、空気読めてなかった?


まあ、俺の番が来たのなら仕方がない。俺は先ほど完成した一品——鉄に青銅を混ぜた作った剣をライクの前に出す。


「誕生日おめでとう。これが俺からのプレゼントだ。ちなみに俺の処女作だ」

「え、えぇ!? これをリオンが作ったの!? 凄い……とてもかっこいいし、なんでも切れそうだな。ねえ、少し試していい?」


俺が「あぁ」と答えると、ライクは嬉しそうに立ち上がり、この後行われるキャンプファイアー用の丸太が積まれている場所に移動する。そして一本の丸太を取り出して、上に放り投げた。


「はあ!」


勇ましい掛け声と共に振られたその剣は、丸太を一刀両断。二つになった丸太の切断面はかなり綺麗だ。


「すごいよリオン! この剣があれば、僕は最強になれるかもしれないよ! ありがとう!」

「そんだけ喜んでくれたらこっちも嬉しいよ」


最強。そうだ。ライクは最強になれる。ただ、その時に携えている剣はその剣ではないと思うが。


先のことを考えて、少し寂しくなる。「あんた、どうしたの?」とミリヤが声をかけてきたが、「なんでもないよ」とはぐらかした。ミリヤはこういう時、気づいて声をかけてくる。やっぱり優しい子なんだ。


それにしても、間に合ってよかった。だって今日は——


「おい!!! 魔物が攻めてきたぞ!!! それも大勢だ!!!」


村の入り口から、男が一人大声を上げながら中心に駆け寄ってくる。今まで陽気だった雰囲気はガラリと変わり、張り詰めた空気が村中を覆う。


そうだ。ライクの18の誕生日。今日この日、魔王の手先がこの村を襲撃する。


「奴ら、遂に気づきやがったか……! みんな、武器を持て! ライクは地下室へ! ……ミリヤ、リオン。頼んだぞ」


父さんが村のみんなをまとめ上げる。そして、俺たちにライクを託す。


「え、どういうこと? 僕も戦うよ!」

「うるせえ! 行くぞ!」


この場に残ろうとするライクの腕を掴み、俺は走り出した。ライクは崩した体勢を整えながら、俺のスピードについてくる。その顔は困惑と動揺が滲み出ていた。


「こっちよ!」


村長の家の裏庭にある隠し階段。ここから降りれば、安全な地下室へ移動できる。


ミリヤが隠し階段の重たい扉を必死に持ち上げようとしている。その時、空中から羽の生えた魔物がミリヤめがけて襲いかかってくる。あれはガーゴイルだ。


「危ない!」


そう言って瞬時に反応したライクは、俺が作った剣を一振りする。すると、グゲッと汚い声を漏らした魔物は真っ二つに割れた。あたりに青い血が飛び散る。


この場面は作中にも存在した。しかし、一つ違う点がある。それは、俺、リオンがこの場にいないこと。そして、ライクの実力だ。


作中でもリオンは誕生日プレゼントとしてライクに剣をプレゼントする。しかし、それは全くの粗悪品だった。そして、ライクは剣術の鍛錬を行なっていない。そのため、作中ではさっきのガーゴイルをライクは倒すことができなかったのだ。結局、ミリヤの魔法によって倒されていた。


「開いたわよ! さあ、早く入って!」


ミリヤは手のひらに魔法の光を出現させて、階段を下っていく。俺はミリヤが十分に下りたのを見計らって——扉を閉じた。


「え、なに!? どういうこと!? ちょっと、リオン! あんたでしょ!」

「リオン……?」


扉から微かだが確かに聞こえるミリヤの怒声。隣から聞こえる困惑するライクの声。それらを一身に受けながら、俺は言う。


「ライク。お前は勇者だ。そして、血の滲むような鍛錬に耐えてきた。お前には十分、いや十二分な力がある。……この村を、大事なやつを救って見せろ! 勇者ライク!」


突然、自分が勇者であるという事実を打ち明けられたライクは、一瞬ひるんだように見えた。しかし、最後の発破を聞いて、決意の表情となったライクはこの場を駆けて行った。


今、俺の前にいるライクは作中のライクではない。ライクはガーゴイルを倒せなかったことから自信を喪失し、素直に地下室へ潜った。しかし、今のあいつには自信がある。実力もある。負けるはずがない。


「ちょっとあんた! 何やってるのよ! あたしたちはライク兄ちゃんを守らないと——」

「ライクは強い。最強だ。あいつが負けるわけないだろ。ミリヤ。お前ならあいつのこと信じてやれるだろ」

「っ……」


沈黙が流れた。その間も、村の中心から激しい声が聞こえる。


「……あんたは、あんたはどうするのよ」

「あいつが戦うんだ。俺も戦うさ。俺とあいつは親友みたいだからな」

「何バカなこと言ってんのよ! あんた、ライク兄ちゃんみたいに強くないでしょ! イキがってんじゃないわよ!」

「大丈夫だ」


そう。大丈夫だ。たしかに俺はライクより弱い。しかし、俺だって血の滲むような努力ってやつをしてきたんだ。この村を、ライクを、ミリヤを、守るために!


「ミリヤはここで待機してろよ! あまり大きな声出してるとバレるからな!」

「あんた、本当に行く気なの!? 戻りなさいよ! ねえ! 聞いてるの!?」


俺は村の中心ではなく、村を囲っている魔物たちのもとへ向かって走り出す。


段々とミリヤの叫ぶ声が小さくなっていく。どうか静かにしておいてほしいが、やっぱり俺の言うことは聞いてくれないらしい。




「行かないでよ……また、置いていくの……? お兄ちゃん……」





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