第3話 勇者の誕生日
俺がこの村にやってきてから、8年の年月が経った。
俺とライクの身長はグングンと伸びていき、鍛錬の成果もあって体つきもよく、立派な男性の姿となっていた。この世界では15歳で成人となるため、立派な成人男性でもある。
最近では、ライクは遂に剣の師匠に模擬試合で勝利を掴んだ。俺たちはそれを盛大に祝い、未だ白星をあげていない俺は師匠に叩かれた。
やはりライクは勇者だった。その成長具合は目を見張るものがあり、俺では到底追いつけない境地に達していた。それでも師匠は俺の鍛錬を疎かにしなかった。こんなに出来のいい弟子がいれば、そちらばかりに構ってもいいものの。本当にこの世界の人たちは優しい。
ミリヤは魔法のセンスがあるわけではなかったが、色んな魔法を習得していた。習得する度に、俺たち(特にライク)にお披露目してくれたからよく知っている。モルフォはまだ見たことがないが、習得しているかどうか実際のところは知らない。以前、聞いてみようと思ったのだが、雰囲気を察してか逃げられてしまった。
ミリヤの体もよく成長していた。初めて会った時は、少女らしく、可愛らしい体型であったが、今ではスラッとした脚にそこそこ大きな胸を持っている。ただ、詳しくは見えていない。視線を向けるとキッと睨まれるからだ。
そう。そんなミリヤとの仲だが、そこまで変わることはなかった。この6年間で一番変わっていない部分かもしれない。相変わらず俺のことを兄であると認めてくれない。でも、元々あまり感じてはいなかったが、俺の存在を拒否するようなことは無くなったように思える。ご飯も嫌な顔せず出してくれるし、たまに気遣ってくれたりもする。一応、進歩があったみたいだ。
俺はというと、先日、ガルドさん……父さんから鍛冶師の免許皆伝を伝えられた。そう伝えられた時、俺は思わず涙を流し、父さんも涙を流して俺たちは抱擁してしまった。鍛冶工房のクソ暑い中、むさ苦しい野郎どもが抱きついているのを見て、ミリヤが呆れた表情を浮かべていたのが印象的だ。
商人として働くノウハウも叩き込まれたが、剣術や鍛冶ほど精力的に取り組んでいたわけではないので、そこまで何かを成し遂げた気はしない。俺がまず乗り越えるべき壁に、商人の知見は必要ないからだ。
そう、魔王軍の襲撃。それを乗り越えないと、俺たちは死。ジ・エンドだ。
* * * * *
さてさて、今日はライクの誕生日である。この村は人口が少ないためか、住人の誕生日を村中で祝う習慣がある。そのため、村は普段より活気付いている。
村の中心には木製のテーブルが並び、次第に食べ物がテーブル状に並び始めている。村の少女は、どこかで摘み取ってきた花を持ってきて、会場をデコレーションしている。
そんな中、俺は鍛冶工房の中にいた。免許皆伝を受け、俺は一つ成し遂げたいことがあったのだ。その期限が今日なのだが、未だ完成していない。
「ねえ、そろそろ休みなって。今日はライク兄ちゃんの誕生日よ? あたしはいいけど、あんたが来ないとライク兄ちゃん悲しむんだから」
鍛冶工房の入り口に寄りかかり、少し面倒そうにミリヤが言い放つ。入り口とはいっても熱は届いている。自分の手をパタパタと仰いでいる。
「もう少しで完成するから、ミリヤは先に行ってていいよ。ミリヤこそ行ってやらないと、あいつ悲しむぞ」
作中でミリヤがライクのことを好きであるとはっきりと描写されていたが、ライクからの好意は描かれていなかった。しかし、ゲームのプレイ経験やこの6年間を通して、ライクもミリヤのことが好きであると俺は確信した。そう。二人は両思いなのだ! 幼馴染の二人が結ばれる、いい話じゃないですか。ぜひ応援させてほしい。
そのためにも、ミリヤを先に行かせようとしたのだが、ミリヤは無言のままその場を離れようとしない。
「どうした? 俺も後から行くから、行っていいんだぞ?」
「うるさい。あたしの勝手でしょ」
俺はこの8年間で学んだ。こうなってしまったミリヤは梃子でも動かない。
なんでだろうと思いつつ、そうとなれば遅れるわけにはいかないと急いで完成を目指す。
そして1時間後、ついに完成した。その間、ミリヤはずっとそこから動かなかった。
申し訳ないと思い「わるいな」と謝罪すると、「なにが?」と返され、今まで動かなったミリヤの足が歩みを始めた。
女心というものは分かりませんな。特に妹心なんて、前世でも分からなかったしな。もう諦めるしかないのかもしれんね。
心の中でため息をつきながら、俺は完成した物を傷つけないよう慎重に持ちあげ、ミリヤに追いつくよう駆け足で会場に向かった。
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