第2話 生存フラグ折れてね?
『エルドラクエスト』の主人公ライクとミリヤは幼馴染である。
ライクはミリヤの2つ年上で、二人は小さい頃から兄妹のように育ってきたため、ミリヤはライクのことを「ライク兄ちゃん」と呼ぶ。
だからだろうか、俺はミリヤに兄失格の烙印を押された。
どうして俺は前世から妹に嫌われるのだろうか。いや、ミリヤは正確には妹ではないのだが、家族になるのであれば妹に違いない。
俺がこの村に来てから数日が経った。現代社会で生きてきた俺が、こんなライフラインも揃っていない村で生きていけるのだろうかと当初不安はあったのが、意外と人間慣れるものみたいだ。住めば都とはよくいう。
この村での俺の1日を紹介する。
朝起きて、ミリヤの作った朝食を食べる。嫌々な顔をされるが、一応俺の分もご飯は出してくれるらしい。優しい。
朝食後は、ガルドさんの手伝いだ。基本的に村にいる間は鍛冶屋の職務が多いらしい。鍛治工房に籠り、熱波を浴びながら鉄を打つ。熱いのも辛いが、まだ10歳という子供の体であるため、力が足りずにすぐ疲れてしまう。
昼頃になると昼食を食べ、しばらく休憩をいただく。職務中のガルドさんはかなり厳しいが、メリハリはつけるようで、このように休みを取らせてくれる。やはりガルドさんは優しい。
その際、俺はライクとミリヤとよく遊んでいる。ライクとの初対面の印象は最悪で、俺がミリヤを怒らせたんだと思ったライクが俺に飛びかかってきたといういざこざがあったが、誤解は解け、今は仲良しである。ただ、ミリヤはやはり俺を認めてくれないのか、少し距離がある。
休憩を終えると再び工房に籠る、もしくは店番を頼まれる。この世界ではゴルという単位で金品のやりとりをしている。1ゴル=1円であるため、非常にわかりやすくて助かっている。ちなみに売れ筋はコケシのような何かである。大人の人がたまに買っていくのだが、何に使うのかはよく知らない。ガルドさんに聞いても教えてくれなかった。
そして晩御飯を食べて、水を浴びて、明日のために早めに就寝する。
そんな日々を数日過ごして、俺は自分の立場に気づいた。いや、思い出した。
たしか、ゲーム『エルドラクエスト』の主人公の幼馴染は二人いた。そう、ミリヤと俺ことリオンである。つまり、俺は原作に存在するキャラなのだ。
それも少し嫌なやつだった気がする。作中のリオンは妹であるミリヤのことが好きで、ちょくちょくライクに意地悪をしていた。なぜなら、ミリヤがライクのことを好きだからだ。
しかし、登場人物となると、この後のシナリオに俺は関係するわけだが……ズバリ、俺は死ぬ。というか、8年後、主人公であるライク以外、この村の住人は死ぬのだ。
原因は魔王の命令による魔物の襲撃だ。このゲームの魔王は賢く、勇者が育つ前にその命を刈り取ろうと企てたのだ。
村の住人たちはライクが勇者であることを知っている。そのため、ライクを村長の家の隠し階段から地下室に隔離し、庇った住人たちは……全員死んでしまうのだ。ガルドさん、ミリヤ、俺ももれなく死ぬ。
特にミリヤは、モルフォという変身魔法を使ってライクの姿となり、魔物に立ち向かって殺されることになる。魔物たちは勇者を討ち取ったと勘違いし、帰還するのだ。
プレイ時は、元R-18のゲームでどうしてこんなに重たい開幕なんだと嘆いていた。
さて、こんな未来が待ち受けているわけで、俺はこのまま平々凡々と生きていくわけにはいかなくなった。すでに生存フラグは折られてるんだよ!
どうしたらいいものかと悩みに悩んだ。最悪、俺がモルフォを習得して、ミリヤの代わりになろうと思った。本人には拒絶されているが、ミリヤは俺の妹なのだ。兄として妹を見殺しにはできない。しかし、俺には魔法適性がなかった。
さらに悩み抜いた結果、ひとつの案を思いついた。
——そうだ、早く
ライクの戦闘のポテンシャルは化け物である。レベルアップするにつれて、さすが勇者だというようなステータスになっていく。
少し脳筋な作戦だが、一番可能性があると踏んだ俺は、即行動に移した。
幸い、この村には兵隊上がりの男が住んでいた。ライクを誘って、その人に弟子入りを志願した。どうして俺も弟子入りしたかって? ライバルがいた方が強くなると考えたからだ。そもそも、こんな平和な村で、他の同年代の子供が遊んでいる中、ライクも進んで辛い鍛錬をしたいとは思わないだろう。なぜなら、彼だけは自身が勇者であると知らないからだ。過去に村中で話し合い、そう決めたらしい。俺は父さんから教えてもらった。
家の手伝いの休憩時間を有効活用し、俺とライクは鍛錬に通った。やはりライクはセンスがあり、メキメキと腕が上達していった。
「リオン! 君が誘ってきてくれたおかげで、僕はこの楽しみと出会うことができた! 感謝するよ!」
「まあ、そんだけ上達できると楽しいだろうな。俺は鍛錬についていくので精一杯だよ」
「そんなことないさ。リオンも十分に強い。僕が保証するよ!」
「同時期に入門したやつに保証されるってねぇ」
鍛錬用の木刀を交えながら、二人してそんな会話をする。日々日々ライクの剣が重たく、そして鋭くなっていく。
「リオン、君は僕のライバルであり親友だ! これからも頼むよ」
「親友と書いてライバルと読むってやつね。いいじゃん、そういう関係」
「僕たちの絆は永遠に不滅さ!」
ライクとはかなり打ち解けた。こうして、俺のことを親友だと言ってくれるのは、前世も含めて初めてのことだったため、内心では飛んで喜んでいた。
不甲斐ないライバルでいてはいけないと思い、空いた時間、俺は自主練に勤しんだ。
「ねえ、あんた。そろそろ寝れば?」
家の外で剣を振っていた俺に、ミリヤが声をかけてくる。その表情は決して好意的なものではなかったが、体を心配してくれてると考えれば優しいなと思えた。
「あぁ、もうちょっとしたら家に戻るよ。ありがとね」
「っ。べ、別にあんたの体調なんか気にしてないわよ。ブンブンうるさいからやめてもらおうと思っただけ。それだけよ」
少し顔を紅潮させたミリヤはそう言い捨てて、家の中に戻ろうとする。なんだか前世の妹と被るなと思った。
「あ、ミリヤ」
咄嗟に声をかけると、意外にもミリヤは素直に止まってくれた。
「何?」
「最近、魔法を勉強してるんだって?」
「……それが何よ」
怪訝そうな顔をしている。だが、一つ言いたいことがあるのだ。
「……モルフォだけは、習得しないでくれないか?」
そんな俺の頼みを聞いて、ミリヤはさらに訝しむ。それもそうだ。こいつは何を急に言っているんだと、俺も思う。でも、伝えておきたかったのだ。
「なにそれ。なんであたしが、あんたの言うこと聞かないといけないのよ」
「頼むよ」
俺があまりにミリヤの目をまっすぐ見るせいか、ミリヤは少しバツの悪そうな顔をして、「考えておくわ」とだけ言って、今度こそ家の中に戻った。
そして、8年の年月が過ぎた。
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