第86話 「これからの事」
「あら、おかえりなさい」
「え」
「せ、星奈ちゃん!?」
柊達と別れた俺と美羽は、そのまま自宅に帰ってきた。
そして扉を開けてリビングに行くと…リビングのソファに黒羽星奈が座っていたのだ。
「あらあら、手なんか繋いじゃって…仲良いわねぇ〜」
黒羽がニヤニヤしながら言い、美羽は顔を真っ赤にして手を離した。
「…なんで黒羽がいるんだ?」
「明日の仕事の件で美羽に渡さなきゃいけない物があるのよ。さっき家で待ってるってチャットしたんだけど見てないの?」
黒羽に言われ、美羽はスマホを見る。
「あ、ほんとだ」
「はぁ…大事な連絡かもしれないんだからちゃんと見ないとダメでしょ。
まぁ、デートしてたんなら仕方ないか」
「デートじゃねぇ」
「どうかしらねぇ〜。さて美羽、早速話があるんだけど」
「…俺居ない方がいいよな?部屋に戻ってる」
「あー…いや、私達が部屋行くわ。あんたは適当に料理作っててちょうだい」
「え、料理…?」
「え!陽太くんの手料理!?」
美羽が目をキラキラさせながら見てくる。
マジかよ…こいつらに料理を作るだと…?
「何でも良いから美味しいものをお願いね〜」
黒羽はそう言うと美羽を連れて部屋に行ってしまった。
…ふむ、まずいな…料理か…
俺が作れる料理は…炒飯、目玉焼き、ウインナー、カップラーメン、お茶漬け…
美羽と黒羽は料理が上手い2人だ、そんな2人の口に合う料理が作れるのか…?
まぁ、やるしかないか…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おまたせ〜、お。炒飯じゃない」
「わぁ!陽太くんのお料理だ!」
結局俺は炒飯を作り、2人を出迎えた。
文句を言われると思ったが意外とそんな事はなく、2人は笑顔で食卓についてくれた。
「炒飯なんて久しぶりに食べるわね」
「…料理は苦手だから味が悪かったらすまん」
「別に気にしないわよ〜。じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
美羽と黒羽はそう言って炒飯を食べ始める。
「あら、なんだ美味いじゃない」
「うん!美味しいよ陽太くん!」
「そうか…?なら良かった」
ひとまず味付けは失敗しなかったらしい。
その後は黒羽の仕事の愚痴を聞きながら炒飯を食べ続けた。
炒飯を食べ終えた後、美羽は風呂の準備をしに行き、俺と黒羽は前みたいに2人で食器を洗っていた。
「…ねぇ、男子の理想の女の子ってどういう子なの?」
「は?」
皿洗いをしていると唐突にそんな質問をされた。
「性格とか容姿とか、色々あるじゃない? 男子ってどういう子が好きなの?」
「いや…そんなの人それぞれじゃねぇか…?皆同じって訳でもないだろ」
「まぁそうよねぇ…」
「…何かあったのか?」
俺が言うと、黒羽は何かを考えた後、ゆっくり口を開いた。
「…美羽には内緒にしてね。
今日、仕事場で男のスタッフが話してるのを聞いちゃったのよ。
「美羽ちゃんみたいな子は理想だよなぁ」って」
「…ほう」
「もちろん私は美羽の事が大事だし、美羽が評価されてるのはユニットとして凄く嬉しいの。
でも、嫉妬はしちゃう訳よ」
黒羽は悲しそうに笑いながら言った。
「私が計算してやってる"こうすれば可愛いだろ"って事を、美羽は計算とか無しに自然にやってるの。
なんかアイドルとか以前に女としての差を感じちゃってね」
「だからあんな質問してきたのか」
「そー。 美羽に追いつく為には色々やらなきゃいけない事が多いからね」
「…お前、美羽に拘りすぎなんじゃねぇか?」
「…どういう事?」
「美羽はこうだから〜とか、美羽なら〜とか、そういうのが多すぎるんだよ。
お前はお前だろ。 現に今お前の事を推してくれてるファンもいるんだろ?」
俺が言うと、黒羽はゆっくり頷いた。
「そのファンは美羽じゃなくてお前に魅力を感じて、今のお前が好きだから推してくれてるんだろ。
なら別に無理に変わろうとする必要はないと思うけどな」
「…でも、素の私は全然可愛くないでしょ?」
「そうか?俺は正直こっちのお前の方が親しみやすくていいと思うけどな。
逆にずっとニコニコしてる方が怖い」
「ふふ…それはあんただけでしょ」
黒羽はそう言って笑う。
「まぁ…芸能界の事は全く知らないけど、応援はしてるから頑張れよ」
「応援してるのは美羽じゃないの?」
「いや、2人共応援してる。アイドルには全く興味なかったけど、お前らの歌は良かったからな。
少し興味が出てきたんだ」
「へぇ?んじゃ今あんたの中で私と美羽は平等って事?」
「まぁそういう事になるな」
「で、あんたは話しやすい素の私の方が好きと。そういう事ね?」
「は?いや、そこまでは言ってな…」
「お風呂掃除終わったよ〜!」
そんなタイミングで美羽が帰ってくる。
黒羽はニヤっと笑い、美羽に近づいた。
「美羽ー、あいつ私のファンになるんだって〜」
「え!?」
美羽がびっくりして俺を見てくる。
「え、え!陽太くんそれ本当!?ダメだよ!あぁいや、星奈ちゃんは悪くないからダメじゃないんだけど…えっと…!」
美羽が俺を掴んで必死に何かを伝えようとしている後ろで、黒羽がニヤニヤしている。
あいつ楽しんでるなぁ…
「落ち着け美羽。俺は2人の事を応援してるって言っただけだ。
だから美羽の事も応援してる」
「え、本当…?」
「あぁ本当だ。 さっきのは黒羽のイタズラだ」
「む…!星奈ちゃん!」
その後美羽によるお説教が始まったが、黒羽はずっと楽しそうに笑っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「風呂上がった」
「おかえり〜!アイスあるから一緒に食べよっ」
黒羽が帰り、風呂に入ってリビングに行くと、先に風呂から上がっていた美羽がソファでくつろいでいた。
美羽と一緒にアイスを選んでソファに座り直す。
「渚咲ちゃんと無事仲直り出来て良かったね!」
「ん?あぁ、そうだな」
「でも失敗したら今度は陽太くんが転校か…大丈夫だよね?」
美羽は俺の手を握り、不安そうな目で聞いてくる。
「大丈夫だ、何とかしてみせる」
「なら良いけど…私、陽太くんが転校とか絶対に嫌だからね…?せっかく会えたのに」
「あぁ。俺も転校する気はないからちゃんと話し合うつもりだ」
「……ねぇ、陽太くん。一つ聞いてもいい?」
少し間を開けて美羽が口を開いた。
「なんだ?」
「陽太くんはさ…全部が元通りになったらどうするの?」
「…どうするってのは?」
「…また、渚咲ちゃんの家に戻るの?」
「あぁ、その事か」
確かに、全てを元に戻すとなると俺はまた柊の家に戻るという事になる。
だが、それだと絶対に柊の両親は納得しないだろう。
今回の件は俺が柊の家に無断で住んでいたのがきっかけな訳だしな。
「今度こそ新しい家を探すつもりだ。
ていうか最近ちょくちょく物件を探しててな、いいなと思う物件はマークしてあるんだ」
「え…」
「俺はずっと柊と美羽の優しさに甘えてきた。だけどそろそろ自立しなきゃだからな」
「…ずっとここに住んでも良いんだよ? この前仕事中にお母さんと通話した時に陽太くんの事話したんだけど、大丈夫って言ってくれたし…
元々陽太くんに再会する前から話してはいたから、良かったねって言ってくれたんだよ、だから…」
「凄くありがたい提案だけど、もう決めた事なんだ。
付き合ってもいない男女が一緒に住んでるなんて普通に考えておかしいしな」
「なら…!なら…さ」
美羽は何かを言おうとしていたが、顔を真っ赤にしたまま固まってしまった。
「…どうした?」
「…あー…ははは…まだ言う勇気でないや…
ごめん、なんでもないっ」
美羽はそう言うと立ち上がり、アイスの袋をゴミ箱に入れる。
「一人暮らしする件だけど、もうちょっとゆっくり考えてみてもいいんじゃないかな!きっと渚咲ちゃんも同じ事言うと思うよ!
じゃあ、私は先に寝るね!
アイス食べたからちゃんと歯磨きしてから寝なね!おやすみっ」
美羽は俺の返事の前にリビングを出て行ってしまった。
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