第82話 「秘密基地」

火曜日。柊は唐突に学校を休んだ。

担任は家庭の事情で当分休む事になるだろうと説明し、いきなり俺達の予定が崩れてしまった。


「まずいな…今日皆に作戦を話して、明日にでも渚咲を呼び出そうと思ってたんだけど…」


放課後、俺、春樹、七海、桃井、美羽の5人は七海の家に向かう為に歩いていた。


「でも、家庭の事情ってなんなんでしょうね…? 」


「さぁ…でも柊さんが家庭の事情で休むって事は、僕達が立てた仮説が合っている可能性が高いよね」


…確かにそうだ。 というかほぼ確定だと思う。

だが問題は…


「…次の問題は、どうやって渚咲ちゃんを呼び出すか…だよね?」


俺が考えている事を察したのか、美羽が言う。


「…あぁ。 柊の家はオートロックマンションだからな、もし柊が無視をする選択を取ったら柊とは絶対に話せない」


「あーミスった…昨日陽太の事悪く言ったのが相当ショックだったのかな…」


七海が珍しく頭を抱えて弱音を吐く。


「…ま、まぁ! 出席日数とか成績とかありますし、今すぐには会えなくてもいつかは絶対に渚咲先輩に会えますって!

だからそれまで念入りに作戦を練りましょう!」


「小鳥…ありがとね、確かにそうだよね。 小鳥の言う通りだ」


「はい! きっと大丈夫です!」


こういう雰囲気の時、いつも明るい桃井の言葉は本当に助かる。

俺も七海もネガティブ思考だから、放っておくとすぐにネガティブな思考になっちゃうからな。


「…ついた。 ここが私の家だよ。 今は親居ないから、遠慮なく入って」


七海が足を止める。 目の前にはごく普通の2階建ての家が建っていた。

隣にある春樹の家には何度か行った事があるが、七海の家に入るのは初めてだな…


「お邪魔しまーす!わぁ! 七海先輩の部屋って感じだあ!」


「…それ褒めてんの?」


「褒めてますって! シンプルで落ち着いてる感じが七海先輩!って感じで!」


確かに桃井の言う通り、七海の部屋はシンプルな部屋だった。

ぬいぐるみはごく少数で、後はベッドに勉強机。


「とりあえず荷物だけ置いて、庭に行くよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「七海、一体どこに向かってんだ? 庭に何かあるのか?」


「すぐに分かるよ。 …ほら」


あの後、七海は俺達を連れて家の外に出た。

そして家の裏手に回ると、春樹の家の方向にある石壁に穴が空いていた。


「なんだこの穴…?」


「小さい頃、僕と七海が秘密基地に行く為に空けた穴さ。

小さかったから流石に広げたけどね」


「秘密基地…」


「ここからは僕が案内するよ。足元に気をつけてついてきてね」


春樹の言葉に頷き、俺達は穴を潜って春樹の家の敷地に入る。

そしてまた少し歩くと春樹の家の真裏の壁にも同じような穴が空いていた。


「この裏山は僕のお爺様が所有してる小さな山なんだ。

だから小さな頃はよくこの山で遊んでいたんだよ」


また穴を潜り、足元に気をつけながら山を登る。

そして少し歩くと…目の前には2人が座れるくらいの木のベンチと木で出来た屋根があった。


「…変わってないね」


「ちゃんと掃除したからねぇ。 虫が多くて大変だったよ」


ここが…春樹と七海の秘密基地…


「陽太。 ここなら渚咲と2人きりでゆっくり話せるでしょ」


「え…」


「私達も渚咲の友達だけど、やっぱり渚咲に1番近いのは陽太だし、渚咲が1番信頼してるのも陽太なんだと思う。

だから、ここに渚咲を連れてくるまでは私達がやるから、後はアンタが何とかして」


「陽太は柊さんと何を話すかだけを考えてるといいよ。 その他は僕達に任せて」


「お前ら…ありがとう」


俺は春樹と七海に頭を下げた。

その後俺達は再び七海の自室に戻り、話し合いを再開した。


「でも、問題はどうやって渚咲先輩をここに呼ぶかですよね〜。

今の状況だと、例え渚咲先輩が学校に来ても私達と話してくれるかどうか…」


「そうだね…柊さんは頭が良いし、少しでも勘づかれたら…」


春樹が言い終わる前に、七海のスマホが鳴った。

七海はスマホの画面を見ると、「えっ…」と言う声と共に目を見開いた。


「七海?どうしたんだい?」


「…渚咲から、電話」


そう言って七海はスマホの画面を見せて来た。

その画面には確かに柊渚咲の文字が映っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る