第81話 「力になりたいんだ」
「さて…んじゃ話すか」
「は、はい!」
黒羽が帰った後、俺は七海に言われた通り美羽に全てを話す為にソファに座ったのだが、美羽は何故かずっと緊張しており、ガチガチに固まっていた。
こいつ絶対になんか勘違いしてるよな…
「…話って言うのはだな、俺が前居候してた奴との関係についてだ」
「へ…?あ、あー…!そ、そうだよね」
美羽はそう言うと、先程までの緊張が解けたのか、息を吐いて真面目な顔になった。
「陽太くんが話したくなさそうだったから聞かなかったけど、話す気になってくれたの?」
「あぁ。俺が居候させてもらってた相手は…」
「渚咲ちゃん…とか」
「っ!?」
急に柊の名前を出され、俺の身体はビクッと震えてしまった。
そんな俺の反応を見た美羽は、複雑な表情で笑った。
「…やっぱりそうだったんだね」
「……なんで分かったんだ…?」
「だって、陽太くんが家に住むようになってから急に話さなくなったじゃん。
最初は居候してたのは海堂くんかな?って思ってたんだけど、仲良さそうに話してるし。
それに、なんか陽太くん女の子との同居に慣れてる感じだったもん」
「………」
驚いた。まさか美羽がここまで考えていたとは…
ていうか俺、そんなに慣れてる感じ出てたのか…?
「ほぼほぼ確定だろうなぁって思ってたけど、やっぱりびっくりしちゃうね」
「まぁ…そうだろうな」
「……あのさ、陽太くんと渚咲ちゃんって」
「付き合ってない。 さっき黒羽がいる時に話した通り、元々は俺の家が全焼してから始まった関係だったんだ。
それまでは柊とは話した事もなかった」
「そ、そうなんだ…凄く仲が良さそうだったからさ…」
「まぁ…10ヶ月くらい同居してたからな」
「…じゃあ、そろそろ聞いてもいいかな? そんなに仲が良かったのに、何があったの?」
俺は、柊と何があったのか。そして俺と七海達が立てた仮説、更にこれからどうしたいのかを全て美羽に伝えた。
柊の家庭事情を聞いた美羽は最初は驚いていたが、俺達が立てた仮説を聞いてからは真面目に聞いていた。
「…なるほど、確かにその考えが正しかったら急に態度が変わったのも納得だよね」
「あぁ。 だからまずは柊ともう一度ちゃんと話し合いたいんだ。
そして…仲直りしたい」
「………」
美羽は目を閉じ、ゆっくり頷いた。
「…陽太くんはさ、もし渚咲ちゃんと仲直り出来たら、また渚咲ちゃんのお家に戻るの?」
「いや、いい機会だしちゃんと一人暮らしを始めるよ。
これ以上周りに迷惑をかけるわけにはいかないしな。 実は最近暇な時間に物件を探してんだ」
「そ、そっか…」
そう言うと美羽は数秒間目を閉じ、何かを決心したように目を開けた。
「よーし!私も力になるよ! お友達には仲良くしてほしいからね!」
「え…いやいや、流石にそこまでしてもらう訳にはいかねぇよ。
美羽にはもう十分迷惑かけちまってるし」
「あのねぇ陽太くん。 お友達には沢山迷惑かけていいんだよ!
それに、私は昔陽太くんに救われたから、少しでも力になりたいんだ」
「美羽…」
「私に出来る事は少ないかもだけどさ、手伝わせてほしいな」
「…助かる」
「うんっ!」
美羽は笑顔で頷き、この話はこれでお終いとなった。
そしてその後風呂に入った俺は部屋に戻り、宿題を終わらせた後七海に美羽に全てを伝えた事をチャットすると、すぐに電話がかかってきた。
「もしもし」
『お疲れ。 美羽はなんて言ってた?』
「…力になりたいって言ってくれた」
『そっか、やっぱり美羽はいい子だね。 じゃあ私の方からも報告を一つ。
あんた達が2人で静かに話せる場所、用意できそうだよ』
「え、本当か?」
『うん。詳しい事は明日話したいんだけどさ、明日って美羽仕事ある?
美羽にも説明してあげたいんだよね』
「分かった。ちょっと聞いてくる」
俺はベッドから立ち上がり、スマホを持ってリビングに行く。
リビングにはちょうど風呂から上がった美羽がソファに座ってテレビを見ていた。
「あ、陽太くんだ。どうしたの?喉乾いちゃった?」
「いや違う。 美羽、お前って明日仕事か?」
「んー?明日はオフだけど…あ!もしかして放課後デー…」
「だってよ、七海」
『別にスマホ持ってく必要ないでしょ…』
「こっちの方が楽だろ」
「え…七海って…え!?七海ちゃん!?」
七海の名前を聞くと美羽は目を見開き、勢いよく立ち上がった。
『何この驚きよう…あ、もしかしてあんた、私達にバレた事言ってないんじゃ…』
「あっ…」
『はぁ…ほんと馬鹿。 ちょっと美羽と話させて。私が説明するから』
「わ、悪い…」
俺はずっと驚いて固まっている美羽にスマホを渡す。
すると七海が分かりやすく簡潔に全てを説明してくれた。
「な、なんだー…もうバレちゃってたのかー…あはは」
『美羽と陽太が知り合いだったって事にはびっくりしたけどね』
「ははは…」
『でも安心して、私達はこの事を言いふらしたりは絶対にしないから』
「うん。それは何も心配してないよ! 実際に渚咲ちゃんとの関係は誰にもバレてないしね」
『なら良かった。 じゃあ美羽、本題に入るんだけどさ。
明日の放課後時間ある? 私の家で作戦会議しようかなと思ってるんだけど』
「うん!大丈夫だよ! 作戦会議かあ…!なんかたのしそうだねっ!」
美羽は俺の方を見て笑顔で言う。
「…あぁ。そうだな」
俺は本当に友達に恵まれている。
昔の俺ならば柊に家を追い出された時点で仲直りする事を諦めていたはずだ。
俺はずっと来るもの拒まず去るもの追わずの考えだったしな。
コイツらが居なければ俺は自分から何かをしたいとは思わなかっただろう。
俺は、柊と仲直りしたい。
考え方は真逆だし、決して話が合うわけでもない。
更に真面目な柊とだらしない俺だ。相性も最悪。
だが、いつの間にか一緒に居るのが当たり前で、1番気が許せる相手になっていたんだ。
また、あいつの笑顔がみたい。
「…改めて、よろしく頼む」
俺は、ぺこりと頭を下げた。
「うんっ!!」
『任せな』
美羽の元気な返事と、七海の頼りになる返事を聞き、俺は自然と笑顔になっていた。
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