第74話 「写真」

「…デカすぎないか?」


「ふふっ…でしょー?」


今俺と白雲の前には巨大なマンションが建っている。

柊が住んでいるマンションも十分立派だしデカいんだが、白雲が住んでいるマンションは超高級マンションという言葉が似合う程立派だった。


白雲の案内で中に入り、エレベーターに乗ると白雲は40階のボタンを押した。


しかも高層階なのかよ…


「…今日は仕事だったのか?」


エレベーターの中には俺達しか居なかったので質問すると、白雲は頷いた。


「うん!雑誌の撮影だったんだぁ」


「そうか、お疲れ」


「ありがとっ!でもびっくりしたなぁ…家に帰ろうとしたら公園に陽太くんが居るんだもん」


「俺だってびっくりだよ」


そんな話をしているとエレベーターが止まった。

どうやら40階についたらしい。


エレベーターを降りて廊下を進み、白雲は扉にカードキーをかざした。


「はいっ、どうぞ」


「…おじゃまします」


家の中に入ると、まずは良い匂いがした。

そして広い廊下に複数の扉があった。


「…立派な家だな」


「ね!1人暮らしには勿体無いよね〜。タオル持ってくるから、ちょっと待っててね」


「あぁ」


そう言うと白雲はウィッグと靴を脱ぎ、複数ある扉の内の一つを開けて中に入っていった。

どうやらあそこが風呂場らしい。


シャワーを出す音が聞こえた後、タオルを持った白雲が帰ってきた。


「はいっ!タオル」


「助かる」


白雲からタオルを受け取り、髪や顔、濡れた服などを拭いていく。


「シャワー出してあるから、先に入っちゃって!」


「…いや、白雲が先に入れよ。風邪引いたら大変だろ」


「私よりも陽太くんの方が濡れてるでしょー? ほら、早く早く」


白雲は俺の手を引っ張り無理矢理洗面所へ連れていく。


「やっぱり白雲が先に入れって。俺は玄関で待ってるから」


「んーん!先に陽太くんが入って!私陽太くんが入るまでお風呂入らないから」


「はぁ…?」


「それとも、一緒に入っちゃう?」


「っ!?」


ニヤニヤしながら言う白雲に俺は目を見開いた。


「…5分以内にあがる」


「気にしなくて大丈夫だよー。ゆっくり温まってね」


白雲はそう言って笑うと扉を閉めた。


俺はキャリーケースの中から着替えを取り出し、風呂の扉を開けた。


白雲の家の風呂はかなり大きかった。

しかも綺麗に整頓や掃除がされていた。


「陽太くーん?シャンプーの場所とか分かるー?」


シャワーを浴びていると、風呂の扉越しに白雲の声が聞こえた。


「あぁ、大丈夫だ」


「なら良かった!陽太くんが着てた服すごく濡れてるから洗濯しちゃうね〜」


「あぁ。ありが…はぁ!?」


とんでもない言葉が聞こえ、俺は目を見開いた。


「よしっ!これでOK!じゃあごゆっくり〜」


「おい!白雲!?…行ったか…」


白雲から返事は返って来ず、俺は急いで髪と身体を洗って風呂を出た。


「あ、陽太くんだ。おかえりー」


「あぁ…シャワーありがとな。白雲」


リビングらしき扉を開けると、白雲がキッチンに立っていた。


「うんっ!じゃあ私も入ってくるね。

そこのテーブルに暖かいココア置いておいたから、良かったら飲んでね」


白雲はそう言うと風呂場に向かっていってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

白雲の家のリビングは、白と黒の家具で統一されていた。

絨毯やソファは白のふかふかの素材が使われており、テーブルやテレビ台などは黒が使われていてオシャレだった。


しかもこのソファはかなり座り心地がよく、相当な値段がするんだろう。


「ごめんね、ゆっくり入りすぎちゃった」


白雲が風呂に入ってから30分後、リビングの扉が開き、パジャマ姿の白雲が入ってきた。


「いや、大丈夫だ。それより、今日はありがとな。

んじゃ、俺はこれで…」


俺はソファから立ち上がり、リビングを出ようとする。


「どこ行くの?」


だが白雲に手を掴まれてしまった。


「どこって…出ていくんだよ。 流石にこれ以上ここにいる訳にはいかないだろ」


「もう20時になるし、今日は泊まっていったら? お母さん達が来た時用の客室あるよ?」


「いや、流石にダメだろ。さっきも言ったけど、もう少し危機感を持て」


「陽太くんは信用出来るから言ってるんだよ? 流石に見ず知らずの男の子を家にあげたりしないよ」


「信用ってお前な…俺達はまだ会ってから1週間も経ってないだろ。

簡単に人を信用しすぎだ」


俺がそう言うと、白雲は何故か悲しそうな顔をした。


「…やっぱり思い出さないかぁー…分かってたけどショックだなぁ」


「…は?」


「陽太くん、ちょっとソファに座ってて」


「いや、さっきのってどういう…」


「いいからいいから!」


俺は白雲に無理矢理ソファに座らされ、白雲はリビングを出ていった。


"やっぱり思い出さないか"


ってどういう事だ…?

俺と白雲は過去に会ったことがあるのか…?

いや、それは無い。


白雲の髪色は綺麗な銀髪だ。そんな目立つ髪色の女の子の事なんか忘れる訳がない。


「お待たせっ」


白雲は本を抱えて戻ってきた。

そして俺の隣に座ると、テーブルの上に本を置いた。


「…これは?」


「私のアルバム!びっくりするかもしれないけど私達って…いや、ちゃんと陽太くんに気づいてもらいたいから言わないでおこっと」


白雲はそう言うと、アルバムを開いた。

そして1枚目の写真を見た瞬間、俺は目を見開いた。


「え…」


「どう?びっくりした?」


1枚目の写真には、2人の子供が写っていた。

2人とも幼稚園くらいだろうか?

2人は男女で、女の子の方は綺麗な短い銀髪だった。この子は間違いなく白雲だろう。


そして、問題はもう1人の男の子の方だ。

その男の子を、俺はよく知っていた。


だって、この男の子は…


「…俺…?」


俺だったのだから。

母さんの作ったアルバムに何枚も写真が載っていたから間違いない。


この男の子は俺だ。


「昔の自分を見せるのは恥ずかしいけど、陽太くんがびっくりする写真がもう一枚あるんだ。

だから探してみて?はいっ!」


そう言うと、白雲は俺にアルバムを渡してきた。

さっきは白雲の発言を疑っていたが、今はもう疑っていない。


俺は言われた通りにアルバムをめくっていく。


当たり前だがアルバムには小さな頃の白雲が写っている。

幼い頃は活発だったらしく、外で遊んでいる写真が多かった。


親も白雲の事を可愛がっていたのか、幼稚園の頃の写真だけでもかなりの枚数があった。


そして小学校の入学式の写真には、ピンクのランドセルを背負った白雲と白雲の両親らしき人達が写っていた。

俺は次のページには白雲の小学生時代の写真が沢山載っているものだと思っていた。


「え…」


俺はページを捲って驚いた。

そこには、病院のベッドに座っている白雲が写っていた。


その後の写真も全部病室の中の写真だった。

ベッドの上で勉強している写真だったり、父親とオセロをしている写真だったり、そういう写真ばかりだった。


そして、ページが進み白雲が成長していくにつれて、どんどん白雲の髪が短くなっていった。


「お前…これ」


白雲は何も言わない。

俺はまたページを捲った。


そしてとうとう、白雲は頭に帽子を被り始めた。

その頃の白雲はだいぶ成長しており、中学生くらいの年齢だろう。


小学生の頃から入院しているというのに、写真に写っている白雲はいつも笑顔だった。

辛そうにしている写真は1枚も無かったんだ。


そして、俺はこの写真に写っている女の子を知っていた。


今までずっと忘れていたが、中学の陸上部時代、俺が部活の先輩から暴行を受けて1週間入院した時に、俺はこの子に会った事があるんだ。


「…あれ、白雲だったのか…?」


小さく言うと白雲は優しく微笑み、白雲がアルバムのページを捲った。


次のページには、中学時代の俺と、入院している白雲が写っている写真が貼ってあった。


「…どう?びっくりした?」


「あぁ…かなりびっくりした」


「あーあ、本当は陽太くんに自分で思い出して欲しかったんだけどなぁ」


白雲はそう言って笑う。


「私が今アイドルをやれてるのはね? 陽太くんのおかげなんだよ?」


「…俺のおかげ?」


「うんっ! 中学生時代に病室で話した事、覚えてる?」


「………悪い。あの頃は色々な事がありすぎて…」


俺は素直に頭を下げる。

白雲がこんなに言うと言う事は重要な記憶なんだろう。


だが俺は当時何を話したのか全く覚えていない。


「そっか覚えてないかぁ…悲しいなぁ…」


「うっ…悪い…」


泣いたふりをする白雲に謝ると、白雲はふふっ…と笑った。


「冗談だよ。 話をしたのはほんの少しだけだから覚えてないのも無理はないよ。

…ねね、ちょっとだけ昔話してもいい?」


「昔話?白雲のか?」


「うん。私と陽太くんがどんな話をしたのかとか話したいんだ。

そうすれば私が陽太くんを信用してる理由が分かると思うからさ」


「…分かった、聞かせてくれ。 今度は絶対に忘れない」


「約束だよー?じゃあ、話すね」


そう言うと、白雲はゆっくりと口を開いた。

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