第70話 「Gemini《ジェミニ》」
白雲に校舎を案内した次の日の朝、いつも通りに教室で柊達と話していると大きな歓声と共に白雲美羽が教室に入ってきた。
廊下には白雲について来たであろう生徒達が沢山いた。
「皆いっぱいお話してくれてありがと〜!またお話しようね〜!」
白雲は廊下にいる生徒達にそう言って手を振り、自分の席がある俺達がいる方へ歩いてきた。
「陽太くんおはよーっ!」
「おー…相変わらず人気だな」
「いやぁ照れちゃうなぁ〜」
白雲はそう言って笑う。
そして次に柊達の方を見て笑顔を向けた。
「昨日は挨拶出来なくてごめんね!白雲美羽ですっ!
皆とも仲良くしたいから、良かったら皆の名前とか教えてほしいな〜」
「こちらこそ昨日は何もしてあげられなくてごめんなさい…!
私は柊渚咲といいます!是非仲良くしましょう!」
「僕は海堂春樹だよ。よろしくね、白雲さん」
「青葉七海…です」
「渚咲ちゃん、春樹くん、七海ちゃんだね!覚えたよー!
あ、そういえばファンの子達から渚咲ちゃんのお話聞いたよー?
この学校の有名人なんだってね!」
白雲の話を聞き、柊は苦笑いをした。
「近くで見ると有名人になるのも分かるなぁ〜。
渚咲ちゃん凄く綺麗だもん」
「そ、そんな…!そんな事ないです!」
アイドルに容姿を褒められたからか、柊は顔を赤くして首を横に振った。
「いやいや、本当に綺麗だよー?
渚咲ちゃんもモデルとかやってたりするのー?」
「いえ、そういうのは何もやってないですね…」
「そうなんだ…勿体無いなぁ」
「ふふ…ありがとうございます」
学校1の美少女と超人気アイドルの会話に、クラスの皆は話すのを辞めて釘付けになっていた。
「白雲さん、もしお勉強で分からない所とかあったら遠慮なく聞いて下さいね!」
「本当!?ありがとう〜!置いていかれないように勉強してはいるんだけど、危なかったら頼るね!」
「はい!」
「あ!そうだ陽太くん!」
「…ん、なんだ?」
急に話しかけられて一瞬びっくりしてしまった。
「昨日ちゃんと私の事調べてくれた〜?」
そういえば昨日白雲と別れる時に「お家に帰ったら少しだけで良いから私の事調べてみてね〜!」って言われてたっけな。
あの後柊から白雲が載ってる雑誌を借りて読み、白雲の事も調べた。
調べた結果、白雲美羽というアイドルはとんでもない存在だというのが分かった。
裏表のない明るく穏やかな性格、見る者全員を惹きつける美貌、皆に元気を与える笑顔。
そしてどんな時でもファンサービスを欠かさず、SNS活動も積極的に行なっていた結果獲得した圧倒的な若者への人気。
だから若者をターゲットにしているファッション誌は白雲美羽を載せたがるんだろう。
そしてネットにはこう書いてあった。
《白雲美羽は、"天性のアイドル"である》と。
「あぁ、ちゃんと調べたよ」
「わぁ本当〜!?どうだったどうだった〜?」
「…凄かった」
「えーそれだけ〜?」
「語彙力が無くなるくらい凄い奴だったって事だよ。
正直予想以上すぎた」
「ふふっでしょー?TV出演のオファーとかも来てるから、リビングで私を見る日も近いかもねっ」
「…まぁ、体調には気をつけて頑張ってくれ」
「うん!ありがとっ!」
そんな会話をしていると担任の先生が来た為、俺達は会話を辞めた。
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「美羽。あんたってお昼はどうするの?誰かと食べる予定とかある?」
昼休みになり学食に行こうと立ち上がると、七海が白雲に質問した。
最初は敬語&苗字呼びだった七海だが、白雲が「名前で呼んで!」と言った為、女子組はお互い名前呼びする事になったのだ。
「んーん!特に予定はないよ〜。どこで食べようかなぁって思ってた所」
「じゃあ、私達と一緒に食べる? 私達がいつも座ってる席6人用だから1つ席余ってるし」
「え、いいの!?」
「もちろん。皆も良いでしょ?」
七海が言い、俺達は頷く。
昨日俺は白雲の昼食まで気が回らなかったが、さすが七海だな…
「じゃあ、お邪魔しますっ」
白雲はそう言って笑顔で立ち上がり、俺達と共に食堂へ向かった。
「わあぁ…色んなメニューあるんだねー!」
食堂に置いてあるメニュー表の前に白雲が立つと、あっという間に周りに人が集まってしまった。
人混みに耐えられなくなったのか、七海は春樹を連れて早々に離脱し席へ向かって行った。
「ねー、おすすめとかってなにかあるー?」
「そうですね…全部美味しいですけど、私がよく食べるのはサンドイッチですね」
「お前本当サンドイッチ好きだよな。週3で食べてるだろ」
「む…そういう如月くんは週4でハンバーグじゃないですか」
「仕方ないだろ他のメニューにはキャベツとかサラダがついてるんだから」
「なるほど…渚咲ちゃんがサンドイッチで陽太くんはハンバーグかぁ…」
俺達の意見を聞き、白雲はメニュー表を見て悩んでいる。
「うん、決めた!今日はハンバーグにして、次はサンドイッチ食べようかなっ」
白雲はそう決め、食券を買って料理を持っていつものテーブル席へ向かった。
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「すいません遅れましたー!…ってえぇ!?」
テーブル席で皆で話していると、遅れてきた桃井が目を見開いた。
「し、白雲美羽…さん!?」
「あ!君が小鳥ちゃん?」
「え、なんで私の事…」
「皆から聞いたんだぁ〜!私も一緒に食べる事になったんだけど、良いかな?」
白雲がそう言って首を傾げると、桃井はブンブンと頷いた。
「もちろんですよっ!!あのあの…っ!私ファンなんです!」
桃井は目の前に居る白雲を見て興奮していた。
「わぁありがとうー!嬉しいなぁっ」
「うわ可愛い…っ」
白雲の計算されていない笑顔を見た桃井は顔を赤くし、いつもと同じ席に座った。
席順は七海、春樹、俺が隣で座り、七海の前に桃井、春樹の前に白雲、俺の前に柊が座っている。
目立つ人間ばかりが集まっている為、他の生徒達がチラチラ見てきて本当に落ち着かない。
「あの!白雲先輩!」
「んー?」
「えっと、アイドル活動っていつぐらいから始めるんですか?
…あ!もしかしてこれって話しちゃダメな奴ですかね!?ごめんなさい無神経で…!」
途中で気づき、桃井はぺこぺこと頭を下げる。
「んーん!全然気にしなくて大丈夫だよ!
ちょうど今日の夜にテレビで発表されるんだぁ」
「え!今日って確か…バラエティ番組に出演するんですよね?」
「よく知ってるね〜。そのバラエティ番組で正式に発表して、活動開始するんだぁ!」
「おぉ…!じゃあ絶対に見なきゃですね!!」
「ありがとっ!陽太くんもちゃんと見てよー?」
急に話を振られ、俺はビクッと身体を震わせた。
やめろよ急に話を振るんじゃねぇびっくりするだろ。
「…なんで俺だけ名指しなんだよ」
「だって陽太くん私の事なーんにも知らないんだもん」
「分かったよ。ちゃんと見とく」
「やったぁっ」
その後、白雲が急に「皆と連絡先交換したい!」と言い出し、皆と連絡先を交換して昼休みの終わりまで何気ない話を続けた。
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あの後は何事も無く時間が進み21時、俺が風呂を上がりリビングに行くと、柊がソファに座ってテレビを見ていた。
「あ!如月くん如月くん!白雲さんが出るバラエティ番組始まりましたよ」
「おー」
21時から始まると言われていたが間に合って良かった。
俺は首にタオルをかけたまま柊の隣に座る。
「そういえば如月くんとバラエティ番組を見るのって初めてですね」
「だな、俺テレビとか全然見ないし」
「という事は出演している芸能人の人達の事も…?」
「あぁ。1人も名前分からん」
そう言うと、柊は苦笑いした。
『それでは登場してもらいましょう!先日発表され、瞬く間に注目の的になった今話題のアイドルユニット!
Gemini《ジェミニ》の2人です!』
司会の女性が言うとカメラが切り替わり、照明が暗転して入り口のような場所にスポットライトが当たった。
そして大きな歓声と共に2人の少女が出てきた。
1人は俺達がよく知る白雲美羽。
白雲は白と青を基調にしたのアイドル衣装を着ていた。
白と青は白雲のイメージカラーにとても合っており、白雲の魅力を更に引き立てていた。
次に白雲の隣を歩いている黒髪赤目の美少女。
黒髪の少女は綺麗な黒髪を腰まで伸ばしており、常にニコニコしながら周りに手を振っていた。
そして黒髪の少女の衣装は白雲とは真逆で、黒と赤を基調としたアイドル衣装だった。
『凄い歓声ですねー!それでは自己紹介の方をお願いします!』
司会の女性が言うと、白雲と黒髪の少女はマイクを持った。
『皆さんはじめまして!Geminiの白雲美羽ですっ!』
『はじめましてー♪
その後は司会者や他の出演者達が2人に話を振り、2人がそれに答えていくという形で番組が進んで行った。
白雲はいつも通り常にニコニコしていて元気よく質問に答えており、黒羽という少女もずっとニコニコしていた。
…なんかこの黒羽って奴桃井に似てるな…いや、気のせいか?
『それでは、Geminiのお2人にはお歌を披露してもらいましょう!』
司会者が言うと白雲達は立ち上がり、カメラが切り替わった。
そして、白雲と黒羽はステージの上に立っていた。
「わぁ…!凄く豪華ですね!」
「だな、こうやって見ると本当に白雲がアイドルなんだって実感する」
「ですね!どんな歌を歌うんで…ん?」
突然、柊のスマホが鳴った。
「電話か?」
「はい。誰でしょう?…え」
柊はスマホの画面を見ると、目を見開いた。
「…どうした?」
そう質問すると、柊は首を横に振った。
「が、学校からの電話です」
「はぁ?こんな時間にか?」
「…な、なんでしょうね?」
「まぁ、番組は録画してるし、出てきたらどうだ?」
「…そ、そう…ですね。ちょっと行ってきます」
「あいよ」
そう言うと柊はスマホを持って足早にリビングを出て行った。
『『それでは聴いて下さい!
"雪景色の君へ"と、"STELLA《ステラ》"』』
ステージがライトアップされ、音楽が流れ始め、2人が歌い始めた。
白雲も黒羽も歌唱力が高く、人気が出るのも納得だった。
…そして2人の歌が終わり、番組が終わっても尚、柊は帰ってこなかった。
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