自宅が全焼して女神様と同居する事になりました

第69話 「校舎案内」

「先輩達のクラスに白雲美羽が転校してきたって本当ですか！？」

昼休みに学食で食事をしていると、席についてすぐに桃井がそう言ってきた。

あの後も他のクラスからギャラリーが押し寄せて来てマジで騒がしかったなぁ…

本当に白雲が超有名人なんだと実感した。

「本当だよ。で、何故か陽太と仲が良い」

「え！？なんで！？」

「仲良くねぇよ。ずっと巻き込まれてるだけだ」

七海が言った事を速攻で否定するが、桃井がジト目を向けてくる。

「本当ですかぁ？如月先輩の交友関係は謎すぎるので、「実は白雲美羽と知り合いだった〜」って言われても信じちゃいますけど」

「ないない。第一、あんな目立つ髪色の奴と知り合いだったら忘れないだろ」

「まぁそれは確かに…」

「如月くんと白雲さんは同じ宮城県出身なので、他の人と接し方が違うのはそのせいだと思いますよ」

「なるほど！それなら納得…は出来ないですけど、納得しておきます！」

「…でだ。白雲の件なんだが、お前達にお願いがある」

「私はパスで」

「おいまだ何も言ってねぇよ」

「だってあんたが何言おうとしてるか分かるもん。

放課後の校舎案内に付き合ってくれ。でしょ」

「そ、そうだ」

本当にすげぇな…マジで七海には隠し事とか出来ないんじゃないだろうか。

「え？校舎案内って何です？」

「白雲が放課後に校舎を案内してくれって俺に頼んできたんだよ」

「めっちゃ信用されてるじゃないですか！！」

「だから違ぇって。 とにかく、俺1人であいつの相手をするのは疲れる。

だから誰か一緒に来てほしい」

「さっきも言ったけど、私はパス。

あんたと一緒であまり目立ちたくないし」

まぁ、七海は仕方ないよなぁ…

「っていうのは薄情すぎるから冗談ね。

本当は取り置きしてもらってるCDを買いに行かなきゃだから無理。

ハルはどうなの？」

「行ってあげたいけど、僕も今回はパスかな。

今日はお父様に早く帰ってくるように言われてるんだ」

「なるほど…なら仕方ないか」

「力になれなくてごめんね」

「気にすんな。…で、柊と桃井は？」

「校舎を全て案内するとなるとかなり時間がかかりますし…

そうすると夕飯を作れなくなってしまうので、今回は私もごめんなさい…」

確かに、この学校広いもんなぁ…

柊は家に帰ってからもやる事が多いし、あまり迷惑はかけられないか。

「うー…！めっちゃ行きたいのに…！今日に限っておつかい頼まれてるんですよね…」

「まじか…って事は全滅か」

皆予定があるなら仕方ないか…

変な噂が立たないといいけどな…

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「じゃあ陽太くん！行こっ！」

「へいへい…」

放課後になり、俺は白雲に手を引っ張られて教室を出た。

「騒がしくなっちゃってごめんね〜？落ち着かなかったでしょ」

この大人気アイドルの白雲は俺の後ろに座っている為、休み時間になれば同じクラス別のクラス別の学年から他の生徒達が押し寄せてくるのだ。

その度に騒がしくなり、俺は全然ゆっくりする事が出来なかった。

「人気者なんだから仕方ないだろ。気にすんな」

「人気者かぁ〜。でも陽太くんは私の事知らなかったじゃん」

「お前結構根に持つタイプなんだな…」

「そうだよ〜？だから私の事をいっぱい知ってもらおうと思って！」

白雲はそう言って笑顔を向けてくる。

その笑顔は、柊が学校で見せる"良い子の笑顔"でも、桃井が他人に見せる"あざとい笑顔"でも無かった。

嘘偽りのない100点満点の"本物の笑顔"。

目の前にいる白雲美羽という女は、正真正銘のアイドルなんだと実感した。

「どしたの〜？ジーッと見て」

「…いや、なんでもねぇ。で、何処に向かってるんだ？」

「一階に見取り図あるでしょ〜？まずはそこに行こうかと思って！」

「了解」

白雲に手を引っ張られて階段を降り、一階にある見取り図が貼られている壁の前に移動する。

道中他の生徒達に見つかりちょっとした騒ぎになったが、白雲は皆に笑顔を向けて手を振っていた。

「へぇ〜…第二校舎まであるんだ！この学校大きいよねぇ」

「まぁ、一応は進学校だからな」

この学校は教室がある本校舎と、文化部の部室や家庭科室などの専門教室がある第二校舎がある。

本校舎も第二校舎も三階建てで、第二校舎へは外から行く事も出来るが、二階から続いている渡り廊下から行く事も出来る。

「まず何処から案内するかな…」

「んー…じゃあ第二校舎からにしない？本校舎に帰って来る頃には今よりも人が減ってるだろうし」

「だな。そうするか」

「うんっ！じゃあよろしくお願いしまーすっ」

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「ここが家庭科室で隣が科学室、科学室の向かい側が美術室だ。

扉に何も書いてないから入る教室を間違えないように気をつけろよ」

「わぁ〜！綺麗だなぁ〜。私が前居た高校全部古くて壁にヒビとか入ってたんだよ？」

「都会と田舎の違いって感じがするよな。俺が居た地元の中学もそんな感じだった」

「あ！田舎といえばさ、宮城に比べて東京って暑すぎない？

私暑いの苦手だから毎日地獄でさー…」

「奇遇だな、俺も全く同じだ。

最近は東北でも普通に30度超えるようになったけど、やっぱり東京と比べると東北の方が過ごしやすい環境だよな」

「ね！東京来てからまだ1週間だけど、もう地元が恋しいよ…」

「気持ちは分かる。 …そういえば、今まで宮城に居たんなら、仕事とかはどうしてたんだ？」

廊下を歩きながら質問する。

なんだかんだ普通に話せてるな…自由な奴だったと思ってたが、意外とちゃんと会話が出来るタイプだったらしい。

「土日を使って毎週東京に来て仕事してたんだ」

「毎週…？めっちゃハードじゃないか…？」

「モデルとして忙しくなったのは16歳になってからだよ。それまでは仕事場の見学とか小さな仕事をして勉強してたからね」

「ほ〜…大変なんだな」

「大変だったけど、あの時頑張ったから今私はここに居るからね！

あの頃の私に会ったら「よく頑張ったね〜」って褒めてあげたいよ」

白雲はそう言って笑う。

「16歳になって沢山仕事を受けるようになってからは金曜日に学校が終わってからすぐに新幹線に乗って東京行って、日曜日の夜に帰るって生活を続けてたんだ〜」

「よく倒れなかったな…」

「体力には自信があるからね〜。でもアイドルの話が来た時に「これまで以上に忙しくなる」って言われてさ？

だから地元を離れて東京に来る事にしたんだ。

私ね？小さな頃からずっと、アイドルになるのが夢だったんだぁ〜。

だから夢が叶って今凄く嬉しいの」

白雲は数歩前に行くと、くるっと俺の方を振り返り、俺に笑顔を向けた。

「ねぇ、私ってアイドルっぽいかな？」

そう言って笑った白雲の笑顔が眩しすぎて、俺は咄嗟に顔を逸らしてしまった。

「あれ〜？もしかして照れてくれてる？」

「…照れてねぇ」

「うっそだぁ〜。ねね、それより答えて〜？」

白雲はずっと笑顔のまま聞いてくる。

「…アイドルっぽいっていうか、もうアイドルだろお前は」

「……ふふっ…そうだね！」

白雲はその後、また俺の手を掴んだ。

「さ、次に行こっ！」

「…あぁ。といっても、第二校舎にあるのはもう文化部の部室だけだから、次に行くのは外だな」

「はーいっ！」

元気よく返事をすると、白雲は俺の手を引っ張って本校舎に戻り、一階へ降りて下駄箱へ向かった。

下駄箱で外靴に履き替え、俺達は外に出る。

「まずは体育館からだな。 体育館はあそこにあるでかい建物だ。

外にあるから体育館に行く時は外靴に履き替えて行くんだよ。

あ、後運動用の靴も忘れずにな」

「なるほど〜！ねね、体育って男女合同ー？」

「あぁ、合同だけど…どうかしたか？」

「いや、私が前居た高校って女子校でさ？だから体育の授業に男子が居るのが想像出来なくて」

「…ん？小学校や中学も女子校だったのか？」

俺が質問すると、白雲は首を横に振った。

「私小学校と中学校は行ってないんだぁ〜。

生まれつき身体が弱くてさ」

「…そうだったのか、悪い」

「んーん全然！今はこの通り元気だし！

…合同って事は陽太くんがスポーツしてる所も見れるんだね！陽太くんって得意なスポーツとかあるの？」

「得意なスポーツ…昔は色んなスポーツやってたけど最近は全然だからな…」

「じゃあ、好きなスポーツは？」

「…好きなスポーツか、強いて言うなら走る事かな」

「走る事ー？もしかして陽太くんって陸上部に入ってたり？」

「中2まで陸上部に入ってた。今は帰宅部」

「へぇーそうなんだ！じゃあ体育の時間楽しみにしとこ〜っと」

「昔の話だからあんまり期待すんなよ」

「ふふ…って陽太くん陽太くん、あれ何ー？」

そんな話をしながら歩いていると、白雲が校庭の端に植えられている大きな木を指さした。

「あぁ…あれは昔の校長が植えた木らしくてな。

めちゃくちゃ成長して今では大木になってるんだよ」

「へぇ〜。なんか神社とかにある御神木みたいだね」

「だな。あの木の下は人気スポットでな、日陰になるから昼食の時に使ったり、告白に使われたりするらしい」

「わぁ〜青春だねぇ」

「だな」

「でも…なんかいいよねそういうの。ロマンチックでさ」

「俺はロマンチックとは程遠い所に居るから良さとか分からん」

「確かに陽太くんは興味なさそうだね〜」

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「…校舎内だいぶ静かになったな」

最初はあんなに騒がしかった校舎内も、放課後になったという事もあり静かになっていた。

まぁもう17時だし当たり前か。

「そうだね！やっぱり静かな方が落ち着くや」

「意外だな。騒がしいのが好きだと思ってた」

「賑やかなのはもちろん好きだよ？でもこういう静かな場所も好きなの」

「へぇ」

「ねね、次はどこを案内してくれるの〜？」

「食堂だな。 ていうか食堂を紹介したらもう終わりだ」

「食堂で終わりか〜。意外と早く終わっちゃったなぁ」

「そうか…？俺はめっちゃ長く感じたけど」

主に他人からの視線のせいでな。

校庭にいる時は部活中の生徒から、第二校舎にいる時は文化部の生徒から（え、なんで？）という視線を向けられ続けて本当にきつかった。

「私は楽しかったからね！陽太くんは楽しくなかった〜？」

「別にそういう訳じゃねぇよ。ただ周りの視線がな」

「あ〜なるほど。ごめんね？

これからはあまり迷惑かけないようにするからさ、たまにで良いからお話してほしいな…」

白雲はそう言って優しく微笑んだ。

「…席真後ろなんだからたまには無理だろ。

俺から話しかける事は無いかもだが、話しかけられたら普通に話すぞ」

「！ほんと…！？」

「あぁ」

「やったぁっ！ねね、今度陽太くんのお友達を紹介してほしいな！

ほら、今日仲良さそうにしてた子達！」

「あいつらか、別に良いぞ。席近いから仲良くなっておいた方がいいだろうしな」

そんな事を話していると食堂についた。

「わぁここが食堂かぁ〜！やっぱり綺麗だね！メニューも沢山あるし」

「そうだな」

「陽太くんっていつもどこでお昼食べてるの？」

「この食堂でさっき言ってた友達と食べてる。 あそこの窓際のテーブル席でな。

…あ、そういえばお前今日の昼どうしたんだ？」

「食堂に行きたかったけど、分からなかったから教室で皆とお話してた！」

「…悪い、気が利かなかった。先に食堂の場所だけでも教えとくべきだったな」

「んーん、気にしないで！お話するの楽しかったし」

「でも、昼食べてないって事は腹減ったろ。大丈夫か？」

「食事を抜く事には慣れてるからだいじょーぶ！」

「…そうか、なら良かった」

「あーあ…もう校舎案内終わりかぁ〜。もっとお話したかったなぁ」

「別に明日以降も話せるだろ」

「そうだけどさ？2人きりで話すのは難しくなるでしょ？」

「まぁそうだな」

女子2人きりは誰でもキツいだろ。

なんなら柊達でも学校で2人きりはキツいぞ。

なんで俺の周りにいる女子は目立つ奴らばかりなんだ。

いや…女子だけじゃなかったな。

春樹も八神もめちゃくちゃ目立つ奴だったわ。

皆キラキラして目立ってる中俺は悪目立ちってか。はは、座布団没収。

「…あ、電話だ」

帰る為に下駄箱へ向かっていると、突然白雲のスマホが鳴った。

「はいもしもし？はい、はい…学校なら問題ないですよ〜？今はお友達に校舎を案内してもらってました！

…え、打ち合わせ？はい、今から…分かりました！すぐに行きます」

白雲はそう言って電話を切った後、俺に申し訳ないという顔を見せてきた。

「ごめんなさい…！マネージャーさんから仕事の打ち合わせしたいって言われちゃって…今から事務所に行かなきゃいけなくなっちゃった」

「もう案内は終わったし、良いんじゃないか？」

「でもお礼したかった…」

「気にすんな。別に何も要らねぇよ」

「んーん！いつか絶対に何かお返しするから！じゃあ私行くね！

陽太くん、またね！」

「あいよ」

「お家に帰ったら少しだけで良いから私の事調べてみてね〜！」

白雲は笑顔で手を振り、靴を履いて帰って行った。

「やっと終わった…」

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「ただいま…」

帰宅すると、柊がリビングからひょこっと顔を出した。

「おかえりなさい。案内お疲れ様です！」

「あぁ…」

「かなり疲れてますね…お手伝い出来なくてごめんなさい」

「気にすんな。白雲の相手をするのが疲れたってよりは周りからの視線に疲れただけだからな」

手洗いうがいをしてリビングに行くと既に夜ご飯が出来ていた。

「今日は肉野菜炒めか」

「はい。さっきプリンも作ったので、食後のデザートにしましょう」

「お、マジか」

食事を食べる為に椅子に座り、2人でいただきますと言って肉野菜炒めを食べ始める。

「今日は忙しい日でしたねぇ」

「だな…まさかこんな事になるとは思わなかった…

やっぱり俺は不幸なのかもしれん」

「ふふ…でも、楽しくなりそうですね」

「…そうだな。あ、そういえば白雲に柊達の事を紹介してくれって頼まれたんだよ」

「私達の事をですか？」

「あぁ。 後で春樹達にも言うつもりなんだが、大丈夫そうか？」

「私は大丈夫ですよ。席も近いですし！」

「了解」

「それにしても、如月くんって本当に白雲さんと会ったことないんですか？」

「無いな。なんでだ？」

「帰り道に七海さんが言ってたんです。

なんで白雲さんはあんなに如月くんに積極的に絡むんだろう。って」

「さぁな。やっぱり地元が同じだからじゃないか？」

俺が言うと、柊はんー…と唸った。

「でもそれだけじゃない気がするんですよね…白雲さんはアイドルですし、特定の異性と仲良くするのはリスクが大きすぎると思うんです。

現に今日は如月くん以外の異性とは積極的に話してませんでしたし」

「女の勘ってやつか？」

「ですね。でも如月くんが知らないって言うなら私の勘違いでしょうね。

もう如月くんが隠し事してるとは思えませんし」

「その節は誠に申し訳ございませんでした」

「ふふ…硬すぎですよ」

「……」

目の前で笑う柊の顔をジーッと見てしまう。

柊の飾っていない笑顔は、白雲の100点満点の笑顔とよく似ていた。

やはり2人とも顔が整っているからそう思うのだろうか。

「…どうしました？」

「いや、何でもねぇ」

「なら良いですけど…あ、そうだ。如月くん」

「なんだ？」

「後で私がよく読んでるファッション誌を貸しますね」

「え、なんで。もしかしてもっとオシャレしろって言われてる？」

俺が言うと、柊はため息を吐いた。

「私が読んでるファッション誌にはよく白雲さんが載ってるので、見ておいた方が良いと思って」

「いや、別に良くないか？」

「これからお友達になるんですよ？なら相手の事をよく知ってあげないと」

「…まぁ、それもそうか」

「はい。なので後で白雲さんが載っている雑誌を纏めて持っていきますね。

後、ネットで白雲さんの事を検索してあげて下さいね。

如月くんはニュース番組とかしか見ないので、もっといろんな事を知るべきだと思います」

「へいへーい」

そんな会話をしながら、俺達は肉野菜炒めを食べ続けた。

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午後19時ごろ、柊渚咲が住むマンションの前で、1人の男がスマホで誰かに電話をかけていた。

「幸次郎様。渚咲様の件でご報告が」

『…あぁ。どうだった？』

電話の相手は、低い声の男性だった。

「幸次郎様が言っていたあの男子生徒ですが、やはり今日もマンションに入って行きました」

『…そうか。 渚咲との関係はどうなんだ？』

「夏休みに入ってから監視していましたが、2人でキャリーケースを持って帰宅する様子や、2人だけで頻繁に買い物をしてる様子を確認しています。

証拠写真も撮影済みです。

なので私は幸次郎様の予想通りだと思います」

『……』

電話先の男は、深いため息を吐いた。

『…夏休みの間の監視を任せていたのは正解だったみたいだな。

同居している相手がいるのは聞いていたが、まさか相手が男だったとは』

「…幸次郎様、いかがいたしましょう」

『渚咲は1人でも大丈夫だと思っていたが、どうやらただの思い込みだったみたいだな。

自分の娘が家に男を泊まらせていると知って、何もしない親は居ないだろう』

電話先の男…柊幸次郎（ひいらぎこうじろう）は電話を切ると、勤務先の病院の室内でとある1枚の写真を睨みつけていた。

その写真には、楽しそうに話しながら買い物袋を持って歩いている如月陽太と柊渚咲が写っていた。

「如月陽太…か」