四章 白銀の想い 編
第68話 「転校生」
「如月くん!いつまで寝てるんですか!朝ですよ」
「ん〜…」
朝、部屋に来た柊に無理矢理毛布を引き剥がされ、カーテンを開けられて俺は目を開けた。
「今日から学校ですよ!はやく準備しないと!」
「…おー…」
長いようで短かった夏休みはもう終わり、今日からまた学校が始まる。
柊が部屋を出て行ってから俺は制服に着替え、歯を磨いて顔を洗ってからリビングに行く。
「おはようございます。如月くん」
「…おはよ」
「相変わらず眠そうですねぇ」
「昨日までは夏休みだったからな…」
「だから毎日規則正しい生活をした方が良いって言ってるのに」
「へいへい」
柊の言葉にそう返し、柊が作った朝ご飯を食べ始める。
今日の朝食は白米と卵焼きとウインナーとほうれん草のおひたしと豆腐の味噌汁だ。
「それでは、私は先に行きますね」
「もう行くのか?いつもより少し早くねぇか?」
「久しぶりの学校ですからね、早く行きたいなぁって思うんです」
「そんなに楽しみなのか」
「はい!欲を言えば如月くんと一緒に登校したいんですけどね」
「そんな事したら俺の命が危ないだろ」
「流石に2人で登校はダメですもんね…」
「帰りは皆で帰ってるんだから、それで我慢するしかないな」
「ですね。では、行って来ますね」
「あぁ、気をつけてな」
「はい!如月くんもお気をつけて」
「ん」
そんなやり取りをした後、柊はカバンを持って家を出て行った。
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「…俺も今日は早めに行くかな」
食器を洗い終えた後、時計を見るとまだいつもならゆっくりしている時間だったが、さっきの柊の言葉を思い出し、俺も早めに家を出た。
「暑ぃ…なんで制服ってこんなに暑いんだ…」
夏休みは終わったが、まだまだ外は暑い。
地球温暖化の影響で最近は気温が上がりまくってるし、暑がりの俺にとっては地獄でしかない。
柊は俺とは逆で暑さには強いらしく、こんな暑い中でもあまり汗をかいてなかった。
夏だというのに手はいつも氷のように冷たいし、天然の保冷剤か何かかと思うほどだ。
冷蔵庫が無くても柊に食材を持たせておけば絶対に腐らなそう。
「早くエアコンの効いた教室に…」
砂漠を彷徨う人間みたいになりながら歩いていると、突然右の道から女子が飛び出して来た。
「やばいやばい…!きゃっ!?」
「いてっ…」
女子は急いでいたらしく俺に気づかず、そのまま衝突してしまった。
やっちまった…反応出来なかった。
「わ、悪い避けられなかった。大丈夫か…っ!?」
女子の方を見て俺は目を見開いた。
女子は俺と同い年くらいの高校生で、見た事のない制服を着ていた。
髪はとても綺麗な長い白髪で、眼の色は柊の青い瞳とは違う水色の瞳で、柊と同じくらいかなりの美少女だった。
いや、今はそんな事はどうでもいいんだ。
白髪の女子は俺とぶつかった事で尻餅をついてしまったらしく、俺の目には白髪の女子のスカートの中の真っ白な下着が見えていた。
「…あ」
「わ、悪い…!!」
白髪の女子は下着が見られている事に気づいてすぐに足を閉じ、俺はすぐに目を逸らした。
「あはは…えっと…見られちゃったかな?」
「………少しだけ」
嘘をつける雰囲気じゃなかった為に正直に認めると、白髪の女子はゆっくり立ち上がった。
「見られちゃったか〜…じゃあ責任取ってもらおうかなぁ〜」
「…いくらだ?」
大人しく鞄から財布を取り出そうとすると、白髪の女子は笑った。
「あははっ!冗談だよ、ぶつかっちゃったのは私のせいだしね。
じゃあ、私急いでるから!ばいばいっ」
白髪の女子は笑顔でそう言うと走って行ってしまった。
「……なんか、どっかで見た事あるんだよなぁ…」
絶対に会った事は無いのは確かなのに、何故かあの女子の顔には見覚えがあったのだ。
俺はそんな不思議な感覚を疑問に思いながら、学校へ向かって歩き出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「暑ぃ…」
「相変わらず暑がりだねぇ陽太は」
「見てるこっちまで暑くなってくるわ…」
あの後、無事に学校につき、今は俺、柊、春樹、七海、桃井といういつものメンバーで会話をしていた。
「やっぱり代謝が良いんですかね?ほら、如月先輩いっぱいスポーツしてたみたいですし」
「過去の話だぞ…?」
「でも、同じ男子で全くスポーツとかしてない海堂先輩は汗かいてませんよ?」
「全くとは心外だね。僕だって軽いスポーツくらいはするさ」
「ハル。お散歩はスポーツとは呼ばないからね。お爺ちゃんとかなら分かるけど」
「うっ…」
春樹が言葉に詰まっていた。
「あ!そういえば渚咲先輩!昨日貸してくれたノート凄くわかりやすくて助かりました!本当にありがとうございますっ!」
「いえいえ!お役に立てて良かったです」
「…ノート?なんか貸したのか?」
「あー、その時間如月くんお昼寝してましたもんね。
実は昨日のお昼に桃井さんが家に来…」
「渚咲!渚咲ストップ」
「え…?あ…」
「あ」
七海が柊の話を止め、俺と柊はハッとした。
危なかった、ナチュラルに俺が柊の家に住んでいる前提で話してしまっていた。
「周りが騒がしいから良かったけど、本当に気をつけな」
「はい…ごめんなさい…」
「悪い、夏休み気分が抜けてなかった」
「私も渚咲先輩に話振っちゃいましたし…ごめんなさい」
その後も他愛のない話を続けていると予鈴が鳴り、桃井は急いで自分の教室へ帰っていった。
その後担任の教師が入って来てHRが始まった。
「突然だが、今日からこのクラスに新しい生徒が加わる事になった」
は…?新しい生徒…?
その言葉を聞いた瞬間、教室内がざわつき始めた。
新しい生徒って事は、つまり転校生って事か?
高2の2学期から転入なんて珍しいな。
「入ってきていいぞ」
先生が言うと教室の扉が開き、1人の女子生徒が入ってきた。
「……まじかよ」
その女子生徒は、俺が今朝登校中にぶつかった白髪の女子だった。
その女子を見た瞬間、更に教室内がザワザワし始めた。
「え、あの子って…!」
「やっぱりそうだよね!?」
「おいおいまじかよ!」
「俺このクラスで良かった…!」
クラス中からそんな声が聞こえてくる。
なんだ…?皆あの女子の事を知ってるのか?
「皆さんはじめまして!
モデルとアイドルやってますっ!
仕事の関係上あまり学校には来れないけど、仲良くして下さい!」
白髪の女子…白雲はそう言ってペコリと頭を下げた。
そして顔を上げると、俺と目が合った。
合ってしまった。
「あー!!私のパンツ見た人!」
白雲が俺の事を指差していい、クラス中の視線が俺に向いた。
周りに座っていた柊達は最初は目を見開いていたが、今は(マジかこいつ)とでも言いたげな目をしている。
「先生先生!私あの子の近くの席が良いなぁ〜」
「む…別に構わないぞ。じゃあ廊下に置いておいた机を移動して座りなさい」
「はーいっ!」
そう言うと白雲は教室の後ろの方へ移動し、廊下から机を抱えて入ってきた。
「よいしょ…よいしょ…」
白雲は頑張って机を運び、俺の後ろに机を置き、椅子に座った。
「やっぱり人違いじゃなかったねっ」
「……なんて爆弾発言をしてくれたんだお前」
「あはは!ごめんね?つい言っちゃった!
でも本当に怒ってないから安心してね」
白雲と小声で話していると、先生が咳払いをした為俺達は会話をやめた。
「という訳で、新しく白雲がクラスメイトになった。
白雲は芸能人だから知ってる人も多いだろう。 大変な職業だから力になってあげるように」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねーねー白雲さん!私ファンなの!」
「なんでこの高校に転校してきたの!?」
「さ、サイン下さい!」
「彼氏とか居ますか!?」
HRが終わった後、案の定白雲はクラスメイト達に囲まれた。
近くに座っていた俺達は教室から緊急避難して階段へやって来た。
「…で。どういう事なの?陽太」
「君は本当に話題が尽きないねぇ」
七海と春樹に言われ、俺は顔を逸らす。
逸らした視線の先に居た柊は、何故か顔を膨らませていた。
「如月くんはああいう女の子が好きなんですね」
「違うって。マジで誤解だ」
本当に勘違いされたまま引かれそうだったので、諦めて全てを話す事にした。
「なるほど…運が良いのか悪いのか分からないね」
「いや悪すぎるだろ…罪悪感がすげぇよ…」
「でもどうすんの?白雲さんがあんたの後ろの席になった以上、これまで以上に悪目立ちする事になるよ」
「うっ…」
「でもびっくりですよね。あの白雲さんがまさか転校してくるなんて」
「柊も知ってるのか。あいつってそんなに有名人なのか?」
俺が言うと、他の3人は目を見開いた。
「え…あんたまさか知らないの?」
「どっかで見た事あるなぁ…くらい」
「陽太はアイドルとか興味なさそうだもんね…」
「私がよく見てる雑誌に載ってるので、多分それを見たんですかね?」
「あ、多分それだわ」
「はぁ…じゃあ簡単に説明してあげる。
白雲美羽、あんたと同じ宮城県出身の17歳で、高校1年生の時からモデル活動を初めた。
そして最近アイドルとしてデビューした若者に大人気の超有名人だよ」
「ほぇ〜…白雲美羽…ねぇ」
「え!?君も宮城出身なの!?」
突然後ろから声をかけられて振り向くと、そこには白雲美羽が立っていた。
白雲は俺の近くに来ると俺の手を握り、笑顔でブンブンと上下に振った。
「わぁ〜凄い偶然っ!ねねね!名前なんていうの?」
「…如月陽太」
自己紹介すると、白雲は俺の顔をマジマジと見始めた。
「…分かった!陽太くんだね!
ていうかちょっとだけ聞いちゃったんだけどさ、君私の事知らなかったって本当〜?」
「…すまん。芸能人とか詳しくなくてな」
「私もまだまだだなぁ…あ!そうだ陽太くん!今日の放課後って暇かな?もし良かったら校舎を案内してほしいんだぁ」
「え、嫌だけど」
「えぇっ…!?」
キッパリ断ると、白雲は目を見開いた。
「なんでなんで〜…?」
「目立ちたくない」
「うぅ…お願いっ!せっかく席近くになったんだしさ…?」
「いや、お前が強引に来たんだろ」
「…如月くん。案内してあげたらどうですか? 白雲さんも校舎内が分からないと大変でしょうし」
柊に言われ、俺はため息を吐く。
「分かったよ…案内すれば良いんだろ」
「本当!?やったあ!陽太くん大好きっ!」
「はぁ!?」
白雲は最後に大きな爆弾を投下し、笑顔で教室に戻って行った。
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