第66話 「仲良し3人組」
「ヨータ!射的勝負しようぜ射的勝負!」
「やだよお前負けず嫌いだし」
「5回までにするからさ!」
「5回もやるのかよ…」
あの後、カズは柊達にも迷惑をかけた事を謝罪し、皆で祭りを回る事になった。
最初は中々馴染めなかったカズだったが、春樹が気を使って話しかけた事により徐々に明るさを取り戻し、今俺はカズに射的の屋台へ連れて行かれている最中だった。
「色々な景品があるんですね!」
横に来た柊が景品を見て目を輝かせる。
ふむ、5回か…
「柊、春樹、七海、桃井、風香。 あの景品の中で何が欲しいか教えてくれ」
「え?如月くん?」
「あんたまさか…」
「俺射的得意なんだ」
「確かに得意そうだねぇ…」
柊は犬のぬいぐるみ、春樹は車のラジコン、七海はイヤホン、桃井はお菓子の詰め合わせ、風香は猫のぬいぐるみを指定し、俺とカズは射的屋のおじさんに500円を渡す。
「なぁ、俺の分は?」
「カズは今から自分で獲るんだろ」
「絶対負けねぇからな!先に景品を3つ落とした方の勝ちで!」
「はいよ。でもお前3つも落とせるのか?昔は1つも落とせなかったろ」
「俺だって成長するんだぜヨータ」
「へぇ」
俺達の前に合計25発の弾が置かれる。
100円で5発というのは昔から変わらないらしい。
俺とカズはお互い同時に銃を構える。
まず狙うのは…
「よし、1個目」
「速ぇよ!」
パンッ!という音と共に打ち出された柔らかい弾丸は七海が指定したイヤホンが入った箱にあたり、その場で回転した後に後ろに落ちた。
「ほら、七海」
「ありがと…相変わらずこういうの上手いよねあんた」
「まぁな」
七海にイヤホンを渡している間にカズは2発撃ったが、全て外していた。
さて、残った景品の難しさを並べると…
お菓子、ラジコン、ぬいぐるみ2つの順だ。
お菓子なら3発くらい使えば獲れるだろうが、問題はラジコンで何発使うかだ。
「よし、2個目」
考えながら弾を3発撃ち、桃井が指定したお菓子の詰め合わせを落とす。
「桃井」
「ありがとうございます!後で皆で食べましょうねっ!」
「あぁ」
お菓子の詰め合わせを両手で抱え、桃井は笑顔になった。
さて、残りの弾は21発。
ラジコンが難しい理由は単純に重いからだ。
だから落とすためには4発程使って箱の右上と右下に2発ずつ撃ち込んで少しずつ後ろにズラし、最後に1発撃って落とす必要がある。
だから最低でも使う弾は5発。
次にぬいぐるみが難しい理由は、箱に入ってないからだ。
箱に入ってるならラジコンと同じ獲り方が出来たが、ぬいぐるみはそのままの状態で置かれている。
だから1番バランスが崩れやすい頭の部分に数発撃ち込んで落とす必要があるのだが、こればかりは運が絡む。
しかもぬいぐるみは2個だしなぁ…
「…よし」
俺は覚悟を決め、まずは春樹が指定したラジコンに5発撃ち込んで後ろに落とした。
「ほら、ラジコン」
「ありがとう陽太!このラジコンがずっと気になってたんだ」
「どういたしまして」
春樹にラジコンを渡して前を向くと、隣でカズが悔しがっていた。
「くっそぉまた負けかぁ…」
どうやらカズは1つ景品を獲っていたらしく、手元にトランプが置かれていた。
「でも一個とれたじゃねぇか」
「25発使って1個だけな…」
「昔に比べたら凄い成長だろ。また今度勝負しような」
「!あぁ!」
カズは笑顔になり、俺の後ろへ移動した。
さて…残りの弾は16発。
ぬいぐるみを二つ取るためには一つに使える弾は8発までだ。
まずは猫の方を狙おう。
頭に5発撃ちこみ、猫のぬいぐるみを落ちる寸前まで移動させる。
後は胴体に3発撃ち込めば…
「…よし」
猫のぬいぐるみはコトン…と後ろに落ちた。
「ほら、風香」
「わぁ!ありがとヨー君!大事にするね!」
「あぁ」
さて、最後に柊が指定した犬のぬいぐるみだが、もうさっきみたいな絶望感はない。
犬と猫のぬいぐるみは同じ大きさだし、見た目ほど重くない事も分かった。
これなら8発全てを使わなくても獲れるだろう。
「ふぅ…」
頭に3発、胴体に2発撃ち込んで犬のぬいぐるみを獲り、柊に渡す。
「ありがとうございます!如月君は本当に器用ですね!」
「まぁ慣れだな。柊、あと3発残ってるから後はやっていいぞ」
「え、いいんですか…?」
「やってみたいだろ?」
「はい!じゃあやります!」
俺は柊に銃を渡す。
だが柊はどうすればいいか分からずあたふたしていた。
「…危ねぇから弾は俺が込めるか」
弾を込めてる時に間違って撃って怪我したら大変だからな。
俺は柊から銃を受け取り、弾を込めて柊に返す。
「ここの間を見て狙って撃つんだ」
「分かりました!」
柊は照準を覗き集中する。
狙ってるのは…知恵の輪か。
暇つぶしにはぴったりだもんな。
「ひゃっ…!?」
柊が銃を撃ったが、反動が予想以上だったのか小さな悲鳴をあげた。
だが弾丸は正確に知恵の輪の箱に当たり、少しだけ後ろに動いた。
「やった!当たりました!」
「初めてなのにすげぇな…」
「でも、落とせる気がしませんね…」
確かに当たりはしたが、当たった箇所によって景品がどう動くか変わるからな…
あの知恵の輪の箱なら…
「次は箱の右下を狙ってみろ。 そうすれば結構動くはずだ」
「右下ですか…やってみます」
柊はまた集中し、銃を撃った。
もうさっきみたいに銃の反動にびっくりする事はなく、柊が撃った弾は正確に箱の右下に当たった。
すると知恵の輪の箱は大きく後ろに動いた。
「あとは真ん中に撃てば獲れるだろ」
「分かりました!」
柊は言われた通りに銃を撃ち、見事知恵の輪をゲットした。
「やった…!獲れました!!」
「おめでと」
おじさんから知恵の輪を貰い、柊はずっとニコニコしていた。
「はい!これ如月くんにあげます!」
「え、俺にくれるのか?」
「はい!」
「ありがとな」
俺は柊から知恵の輪を貰い、次の屋台へ移動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「如月くん如月くん!花火が売ってますよ!」
「おー本当だ。買ってくか?」
「良いんですか!?」
柊が目をキラキラさせる。
「買っていって皆で庭でやろうぜ」
「はい!」
「…なぁ春樹さん」
「ん?どうしたんだい?」
後ろでカズが春樹に話しかける。
「ヨータと柊さんってさ」
「付き合ってねぇからな」
カズの言おうとしてる事が分かり先回りして言うと、カズは笑った。
「まぁそうか。ヨータが好きなタイプって黒髪だもんな」
「おい馬鹿…」
カズの言葉で一気にこの場が静かになった。
「え!?ヨー君黒髪の女の子が好きなの!?私初耳なんだけど!」
「む、昔の話だ」
「いつ!昔っていつ!?」
「し、小学生くらいの時」
「今は?今はどんな髪色の女の子が好きなの?」
「考えた事ねぇって…」
風香がめっちゃ問い詰めてくるのでカズを睨みつける。
「なるほど…如月くんは黒髪の女の子が好きだったんですね」
「だから昔の話だって」
「如月先輩残念でしたねぇ。ここに黒髪の女の子居なくて」
「だから…はぁ…」
俺は弁明するのを諦め、ため息を吐いた。
すると次の瞬間、パアアアアン!!と大きな音が鳴った。
「…花火…?」
咄嗟に空を見ると、空には花火が上がっていた。
「お!始まったな!」
「始まったって…この祭りって花火上がらなかったよな?」
「去年から花火を打ち上げる事にしたらしいんだ! だからヨータが知らないのも無理はねぇよ」
「へぇ…だから前より人が多かったのか」
話している間にもどんどん花火が上がっている。
周りを見ると、皆が花火を見るのに夢中になっていた。
「…どうだ?初めての花火は」
花火を見て目をキラキラさせている柊に質問すると、柊は笑顔になった。
「とても綺麗です!!テレビで見るのとは全然違いますね!」
「そうだな」
実際に見る打ち上げ花火は迫力はもちろん、大きな音と火薬の匂いがするから"夏"を実感出来るんだよな。
「如月くん、この景色を来年も見たいです」
「…あぁ。俺も見たい」
花火は終わりが近いのか、大量の花火が打ち上がり、今までで1番大きな花火が上がった。
「また皆で来ような」
「はいっ!」
柊は笑顔で返事をし、他の皆も笑顔で頷いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「終わっちまったなぁ…」
歩きながらカズが呟いた。
花火が終わった後、祭りは終わりの雰囲気になり帰る人が増えた為、俺達も帰る事にした。
「そういえば、カズと風香は門限とか大丈夫なのか?もう20時だけど」
俺とカズと風香は柊達より少し前を3人で歩いていた。
別に何も言ってないのだが、柊達が気を利かせて後ろに下がってくれたんだろう。
「俺の家は門限ないから大丈夫だ!風香は?」
「私はお祭り行くって伝えてるから大丈夫!」
「そうか」
まぁ、2人の家は近くにあるから心配はないか。
「…なぁヨータ」
「どうした?」
「この後、お前の家行っていいか?」
「皆で花火しようと思ってたから大丈夫だぞ。なんなら風香も来るか?」
「え!行きたい!」
「ありがとな。美穂さん達にもちゃんと謝りたいからさ」
あぁなるほど…そういう事か。
「あの人達なら別に怒らないと思うぞ」
「怒る怒らないとかそういう問題じゃないんだ。
明日は風香の両親にも謝りに行きたいんだけど、いいか?」
「え?うん、良いけど…」
「ありがとな。…ヨータは明日向こうに帰っちゃうんだったよな」
「あぁ。明日の昼に新幹線に乗って帰る」
「そっか…寂しくなるな…」
「まぁ…そうだな。
まさか地元が恋しくなる日が来るとは思わなかったよ」
俺が言うと、カズと風香は悲しそうに笑った。
「風香が諦めないでいてくれたのと、カズが変わってくれたおかげだ。
…2人ともありがとな」
「感謝するのは俺の方だろ…」
「そうだよヨー君。約束守ってくれてありがとね?」
「随分かかっちまったけどな」
俺が言うと、風香は首を横に振って笑顔になった。
「たった2年間だよ。 私達はこれからお爺ちゃんお婆ちゃんになるまで仲良くするんだから」
風香の言葉に、俺とカズは笑った。
そして、カズは急に俺と肩を組んできた。
「な、なんだよ急に」
「ずっと思ってたけどヨータ大人っぽくなったよなぁ〜」
「ね!私も思った!成長するんだねぇ」
「久しぶりに会った親戚かお前らは」
その後も、俺達3人は他愛の無い話を続けた。
話せなかった2年間を埋めるように、他愛のない話を沢山。
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「…仲良いねぇ」
目の前で肩を組んで歩いている如月君達を見て、海堂さんが呟いた。
「ね。大喧嘩してたとは思えない」
七海さんの言葉に皆頷いた。
「でも、如月くん楽しそうです」
私は目の前を歩いている如月くんを見て言う。
如月くんは私達に見せる笑顔とはまた別の笑顔をしていた。
その笑顔はきっと幼馴染に見せるもので、私達が知らない昔の如月くんの笑顔なんだと思う。
「頑張って良かったですね!」
桃井さんが言い、私達は頷く。
如月くんは私の過去の話を受け入れ、私を変えてくれた。
如月くんのおかげで最近は初めての経験ばかりだ。
お友達と夏休みの計画を立てたのも、お友達とお泊まりしたのも、夏祭りに行ったのも、射的やヨーヨーすくいをしたのも、皆で花火を見たのも。
如月くんには沢山の物を貰った。
だから、これからは少しずつ如月くんに恩返しをしていきたいと、目の前を楽しそうに歩く如月くんを見てそう思った。
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