第65話 「元通りとはいかないけど」
「和馬…?」
「カズ…君」
「へ…?」
柊が待つ場所へ行くと、俺は目を見開いた。
柊の隣に和馬が立っていたからだ。
昔よりも大人びていたが、間違いない。
和馬も俺達に気づいたのか、同じように目を見開いていた。
「き、如月君!こ、これは…えっと」
「…久しぶりだな。和馬」
柊が事情を説明しようとしていたが、俺は一歩前に出て和馬に向かって言った。
和馬は一瞬俺から目を逸らしたが、ゆっくり俺と目を合わせた。
和馬の目は、震えていた。
「…陽太」
「夏休みだからこっちに帰ってきたんだよ。 そしたらやっぱり色々思い出しちまっ…」
「陽太…!」
俺の言葉を遮り、和馬は深く頭を下げた。
「ごめん…っ!!俺…お前にいっぱい酷い事言って!
俺…おれ…っ」
和馬は泣いていた。頭を下げていたから顔は見えなかったが、涙がポロポロと地面に落ちていた。
「ずっと謝りたかったんだ…!でもお前はもう何処にも居なくて…」
「…柊、風香。 悪いんだが先に春樹達と合流しててくれねぇか?」
俺が言うと柊は頷き、風香と共に人混みの中に消えて行った。
「…顔上げろよ」
和馬は首を横に振り、頭を下げ続ける。
「…頭下げたままじゃ会話できねぇだろ。
ベンチ座ろうぜ」
俺はそう言って近くにあったベンチに座る。
すると和馬は顔を上げ、涙を拭ってから俺の隣に座った。
「祭りには1人で来たのか?」
「…あぁ。陽太は?」
「高校の友達4人と風香だ」
「そっか…上手くやれてるんだな」
「まぁな」
その後お互い無言になり、気まずい空気が流れる。
「俺さ…陽太が不登校になり始めてから急にタイムが伸び始めたんだ。
それで陸上の推薦で高校に行ったんだよ」
和馬は膝の上でギュッと拳を握った。
「でも…何も楽しくねぇんだ…!」
「……」
「その時にやっと陽太が言っていた事の意味が分かったよ…
俺も同じだったんだ…ただ"陸上"が好きなんじゃなくて、"お前と競い合いながらやる陸上"が好きだったんだって…っ」
和馬はまた涙を流す。
「なんでそんな簡単な事に気づかなかったんだろうな…?
気づいた頃にはもう、俺の大切だった物は1つも残ってなかった」
和馬はずっと下を向いたまま話している。
「陽太の事も風香の事も傷つけて、居心地の良かった関係も、俺達の夢も…全部俺が壊しちまったんだ。
今更謝っても許してもらえないって事は分かってる。でも…」
和馬は震える目で俺の事を見てくる。
「あの時は本当にごめん…!」
「……はぁ…」
俺は和馬を見て溜め息を吐く。
「…正直な、俺からしたらお前は謝って来ない方が都合が良かったんだ。
お前は悪者で居て欲しかった。そうすれば過去の事を綺麗さっぱり忘れられたからな。
俺は、和馬を嫌いになる理由が欲しかったんだと思う」
「……」
「でもなぁ…なんでお前元に戻ってんだよ…
これじゃあ忘れられないだろ」
「…ごめん」
「風香とは最近話してないんだよな?」
俺が言うと、和馬は頷いた。
「中学の卒業式に色々言われちまってな…あれだけの事をしたんだ。
嫌われて当然だよ」
「…別に風香はお前の事を嫌ってる訳じゃねぇよ」
「え…」
「こっちに帰ってきて久しぶり風香と会ったんだ。
でも俺はもう過去の事は切り捨てたかったから、風香に俺達の事は忘れろって言ったんだよ。
そうする事が風香にとって1番幸せだと思ってたんだ」
「…そう…だよな」
「でもな、風香はまだ諦めてなかった。
俺もお前も変わったけど、風香だけはまだあの時のまま何も変わってなかったんだ。
風香はな、まだ俺達が元に戻れるって信じてるんだ」
「っ…!」
知らなかった風香の思いを聞き、和馬はまた涙を流した。
その涙はきっと後悔からきた物だろう。
和馬もずっと悩んでたんだ。
中学生という大人になりかけの不安定な時期、成長期が早くくるか遅くくるかの違い、数々の要因が重なって俺達の関係が崩れたんだ。
あの時はこんな事考えもしなかった。
全部和馬のせいにして俺は全てから逃げたんだ。
俺があの時もっと冷静に和馬と話していれば、何かが変わっていたかもしれない。
でも、そうしたら俺は地元に残ってたわけだから柊達とは出会えなかった。
本当に、人生とは何があるか分からないもんだな…
「和馬、お前はどうしたい?」
俺はずっと泣いている和馬に言った。
「どうしたいって…?」
「俺達の関係。
俺もお前ももう大人になったからな、大人らしく過去の事は水に流してまた1から始めるって事も出来る」
「…い、いいのか…?俺はお前達にいっぱいひどい事を…」
「お前は謝ったし、風香は俺達が元に戻れるように頑張ってた。
俺だけ何もしてなかったのにここでもまた何もしなかったら俺だけガキみたいだろ」
「でも…俺は…」
「あぁもうめんどくせぇな…俺昔風香と約束しちまったんだよ。
「俺が全部元通りにしてやる」ってな。
だから、その約束を守ろうと思う」
「うぅ…陽太…ヨータぁ!!」
「うわっ!?」
突然和馬が泣きながら俺に抱きついてきた。
「ちょ…離せ馬鹿!」
「ずっと話したかったんだ…!ありがとう…ありがとなぁ…!」
「はぁ…あとで風香にもちゃんと謝れよ」
和馬は何度も何度も頷いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お、柊達が来たみたいだな」
あの後、和馬が泣き止んでから俺は柊達をベンチの場所へ呼び出した。
柊達はもう春樹達と合流していたらしく、5人で歩いてきた。
「和馬、大丈夫そうか?」
「だ、大丈夫だ!」
「本当かよ…」
「えっと…カズ…君」
俺と和馬の前に風香が来た。
柊達は遠くの方でこちらを見ていた。
3人で話せということなんだろう。
本当にいい奴らだ。
「風香…えっと…」
和馬は立ち上がり、風香の事をじっと見る。
風香は和馬の言葉を聞くのを待っているのか、何も言わない。
「あの日殴ってごめん…!それと、3人の関係をめちゃくちゃにしてごめん!」
「……」
「今更何言ってんだって思うだろうし、許される事じゃないって事も分かってる!
でも…」
「…ヨー君とはどうなったの?」
「へ…?」
「ヨー君とはちゃんと仲直りできた?」
風香の問いに、和馬はチラッと俺の方を見てくる。
仕方ない、助けてやるか。
「あぁ、問題ないぞ風香。
和馬はしっかり謝ってきたし、なんなら泣きすぎてちょっと引いたぐらいだ」
「引いたってお前…」
「事実だろ。久しぶりに会う男友達に泣いて抱きつく奴が何処に居るんだよ」
「し、仕方ねぇだろ!感極まっちゃったんだから!」
「まぁ、そういう訳だから…って風香!?」
「え!?風香どうした!?」
俺が風香の方を見ると、風香は泣いていた。
それを見て俺と和馬は焦りまくっていた。
「ははは…ごめんね…?なんか懐かしくなっちゃって」
そんな風香を見て俺は笑うが、和馬は申し訳なさそうな顔をしていた。
「…カズ君!」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれ、和馬はビクッと身体を震わせた。
「私が中学の卒業式に言ったこと、覚えてる?
「私を殴った事に関してはもう怒ってないけど、ヨー君を不登校にした事は許せない」って、そう言ったよね」
和馬は申し訳なさそうに頷く。
「カズ君がした事は決して許される事じゃない。 私だって最初はカズ君の事を嫌いになろうとした。
でも出来なかったの」
「……」
「ヨー君を不登校にした事は許せない。
けど、ヨー君自身がもう許したなら、私からは何もないかな!」
風香は右手を前に出す。
和馬は何をすればいいのか分からないのか、首を傾げる。
「ほら、仲直り!」
「あ…」
風香が強引に和馬の右手を掴み、握手する。
「ほら、ヨー君も!」
「はいはい…」
3人で手を繋ぎ、向かい合う。
「また仲良くしようね!」
「あぁ…!」
「…小まめに連絡する」
「うん!」
「さて、渚咲ちゃん達の所に戻ろうか!皆待たせちゃったし」
「そうだな。 後は何も考えずに祭りを楽しもうぜ」
「うん!」
時刻は18時30分。祭りが楽しいのはこれからだしな。
和馬の事は解決したし、後はもう祭りだけに集中出来る。
「あれ、カズ君どうしたのー?」
俺と風香は柊達の方へ歩き出したのだが、和馬はずっと立ったまま動こうとしなかった。
「いや…俺行っていいのかな…?あの人達ってヨータの友達だろ?
邪魔になるんじゃ…」
「あいつらはそんな事を思うような奴らじゃねぇよ。すぐに仲良くなれるから安心しろ」
「そうだよ!皆優しいよ」
「でも…」
俺と風香が言うが、和馬はまだ悩んでいた。
きっと罪悪感がまだ残っているんだろう。
まぁ、そりゃそうか…
「仕方ねぇか…おい和馬」
「…ん?」
俺は和馬の胸ぐらを掴み、右手を振り上げる。
そして思い切り和馬の顔面を殴った。
「痛っ…!!」
「え!?ちょっとヨー君!?」
和馬は地面に倒れ、俺の右手がズキズキ痛む。
俺は右手の痛みを我慢し、和馬に手を差し伸べる。
「今ので昔殴られた件はチャラにしてやる。 だからもう気にすんな」
「ヨータ…」
和馬は俺の手を取り、俺は右手を引いて和馬を立ち上がらせる。
「俺明日帰るから少しでも楽しんどきたいんだよ。久しぶりの祭りだしな。
だから早く行くぞ、カズ」
「!お前…今」
「先行ってるぞ」
俺はそう言って柊達の方へ歩き出した。
俺の横に来た風香はずっと笑っていた。
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