第64話 夏祭り
「風香が公園についたらしい。 俺たちもそろそろ行くか」
「そうだね。女子が来たら行こうか」
時刻は17時、今日は夏祭りの日だ。
俺たちは地元の夏祭りに向かう為、準備をしていた。
「あ、如月君その服着たんですね」
リビングで春樹と女子達を待っていると、リビングにやって来た柊が俺を見て呟いた。
俺は今柊と共に買いに行ったロングカーディガンを着ている。
着た事がない系統の服だが、柊のチョイスだから間違いはないだろう。
「とても似合ってます!」
「おう。ありがとな」
柊にそう返すと、柊の後ろから七海と桃井もやって来た。
「よし、全員揃ったな。 それじゃあいくか」
俺が言うと皆頷き、母さんに挨拶をしてから家を出た。
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「お祭りなんて初めてなので楽しみです!」
風香が待つ公園に向かってる途中に柊が呟いた。
「小さな祭りとはいえ、そこそこ人数居るから、逸れないように気をつけろよ」
「はい!」
柊はさっきからずっと楽しそうに笑っている。
大事そうに首からカメラを下げているし、よほど楽しみなんだろう。
「あ!ヨー君!」
公園に着くと、水色の浴衣を着た風香がこちらに歩いてきた。
「…お前、浴衣着たのか」
「うん! 久しぶりのお祭りだからね! 気合いいれちゃった! 似合うかな?」
そう言って風香は首を傾げる。
当たり前だが風香は中学時代と比べて成長している。
柊と同じクォーターという事で珍しい銀髪が浴衣と絶妙にマッチしていた。
「…あぁ」
あまり直視出来ずに顔を逸らしながら頷くと、風香は嬉しそうに笑った。
それからは風香も含めた6人で祭りの会場へと歩き出した。
「え!? ヨー君って渚咲ちゃんの家に住んでるの!?」
道中、隠すべきではないと言う事で柊が俺との関係を風香に話すと、当然ながら風香は目を見開いた。
「仲良いなぁとは思ってたけど、まさか一緒に住んでるとは…えっと…2人はもしかして…」
「付き合ってねぇ」
「付き合ってません」
風香が何を言おうとしてるかを察した俺たちは素早く否定した。
「そ、そうなんだ…! 」
「風香さん、もし良かったら私とも連絡先を交換しませんか? 向こうで撮った如月君の写真とか送りたいので!」
「え!いいの!? 交換しよ交換しよ!」
そう言って柊は風香と連絡先を交換した。
「…おい柊。 何勝手に俺の写真を送る約束してんだ」
「いいじゃないですか。 風香さんはたまにしか如月君と会えないんですし」
「でもな…」
「はいはい。 家に帰ったらクッキー焼きますから。 それでいいでしょう?」
「……まぁ、いいか」
「おー…ヨー君が甘い物につられた」
「うるせぇ。 …ほら、着いたぞ」
ようやく祭りの会場についた。
幼い頃に何度も行った夏祭りの会場。
広い公園の敷地を使っており、たくさんの人が歩いていた。
「うわぁ…人多いなぁ…」
七海が顔を引き攣らせながら言った。
「そうだなぁ…ま、皆で固まって行動してれば逸れないだろ。行くぞ」
俺が歩き始めると、柊と風香が横に来た。
「渚咲ちゃんってお祭りくるのは初めてなんだよね?」
「はい! 初詣で屋台は見ましたけど、お祭りは初めてです!」
「じゃあいっぱい楽しんじゃおー! 何か気になる屋台があったら言ってね!」
「はい!」
俺を挟んで柊と風香が会話をする。
どうやら風香は柊とも仲良くなれたみたいだ。
風香は昔からコミュ力が高かったし、この分なら七海や春樹ともすぐに仲良くなれるだろう。
「…あ!あれはなんですか?」
歩いていると、柊がとある屋台を指差した。
「あれはヨーヨーすくいだな」
「よーよー…すくい…?」
柊が首を傾げる。
「小さい子が水風船に紐がついた物を持ってるだろ?あれだ」
「あれがヨーヨーなんですね!」
柊が目をキラキラさせてヨーヨーすくいの屋台を見ている。
「…やってみるか?」
「え、いいんですか!?」
「あぁ。 意外と難しいからやってみろ」
「はい!」
柊が嬉しそうに頷き、ヨーヨーすくいの屋台の方へ向かって行った。
「陽太、ちょっといいかい?」
「どうした?」
風香が柊についていき、2人で仲良くヨーヨーすくいをはじめた。
俺は春樹に呼び止められ、その場にとどまった。
「僕達3人は別行動をしようと思うんだけど、大丈夫かな?」
「別行動? 別に大丈夫だけど、急だな」
俺が言うと、桃井が口を開いた。
「私が提案したんです! お祭りの規模が思っていたより大きかったので、別々に行動した方が見つけやすいでしょう?」
「見つけやすい…?」
「この祭りに来たもう一つの目的ですよ」
「…あぁ、なるほど」
桃井の言いたい事が分かった。
俺がこの祭りに来たもう一つの目的。
それは和馬に会い、もう一度話をする事だ。
だから桃井達は別行動をして別々に和馬を探そうと言ってきたのだ。
もしこれを風香に聞かれたら、風香はきっと申し訳ないと思ってしまうだろう。
だから俺1人に言ってきたのだろう。
「…でも、いいのか?お前達も祭り楽しみたいだろ」
「私達は別に来年も再来年も行けるでしょ。 でも、和馬って奴には今日会えないと何も変わらない。 優先順位ってやつだよ」
「…悪いな」
「向こうに帰ったら何か奢ってくれれば大丈夫ですよー!それでは!」
桃井はそう言うと、春樹達と共に離れて行った。
俺は振り返り、柊達の元へ向かった。
「あぁっ…!また失敗です…」
「私もだー! こんなに難しかったかなぁ…」
屋台に向かうと、柊と風香は既に失敗しまくっていた。
きっともうお互いに500円ずつくらいは使っているだろう。
「風香は相変わらず下手だな」
「むぅ…!ヨー君が昔から上手いだけだよ! 私成長したもん!」
「成長ねぇ…?その割には1個も取れてねぇけど」
俺が言うと、風香はまた頬を膨らませた。
俺はそんな風香に笑い、風香の横にしゃがみ、屋台のおじさんに100円を渡した。
そしてヨーヨーを釣り上げるための紐を1本貰う。
「柊、よく見てろよ? ヨーヨーすくいってのはな、紐を短く持つんだ。 そして紐を水に濡らさないように…」
説明しながらヨーヨーの輪っかに紐を通し、そのまま上に上げる。
「「おぉ!!」」
よし、まずは1個目。
柊と風香が拍手してくれるが、俺はそのまま2個目を狙う。
2個目も同じように取り、3個目に挑戦しようとした所で紐が切れてしまった。
「ほら、ヨーヨー取れたぞ」
柊には水色の、風香には白いヨーヨーを渡す。
「ありがとうございます!如月君って本当に器用ですよね」
「ね! 私達何回やっても無理だったのに 」
「コツさえ分かれば簡単だぞ。 さて、別の所行くか」
「はい! …あれ?七海さん達が居ません」
柊が辺りをキョロキョロして七海達を探す。
「七海達は別行動するらしい。 ある程度回ったら合流しようぜ」
「なるほど、了解です!」
その後も、俺たちはさまざまな屋台を回った。
かたぬきや焼き鳥屋、かき氷屋などいろいろ回ったが、柊はずっと目をキラキラさせたままだった。
「あ、ヨー君ヨー君!あれ見て!」
「ん? おー、射的か」
風香が指をさした方を見ると、そこには射的屋があった。
「射的なら知ってます! 撃ち落とした景品が貰えるんでしたよね?」
「正解だ。 じゃあゴミ捨てに行ったら3人で射的やるか」
「さんせー!!」
「楽しみです!」
射的屋から少し歩き、ゴミ捨て場にかき氷のゴミと焼き鳥の串を捨て終えると、ゴミ捨て場の近くにトイレを発見した。
「悪い、ちょっとトイレ行ってきていいか?」
「あ、じゃあ私も行こうかな。 渚咲ちゃんは?」
「私は大丈夫です!ここで待ってますね!」
「悪い。すぐに帰ってくる」
「はーい」
俺は柊と別れ、トイレへ向かった。
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ー渚咲視点ー
如月君達を待っている間、私は如月君に取ってもらったヨーヨーで遊んでいた。
初めてお祭りに来たけど、こんなに楽しいとは思わなかった。
本当に如月君には感謝してもしきれない。
如月君に会っていなかったら、今私は心から笑えていなかったと思うから。
「あっ…カメラ…」
そういえば写真を撮るのを忘れていた。
せっかくカメラをいただいたんだから、如月君達が帰ってきたらいっぱい写真を撮ろう。
そう心に決めると同時に、私は風香さんと一緒にトイレに行かなかった事を後悔した。
「うわ可愛い子いるじゃん!1人ー?」
「俺達と一緒にお祭り周らない?」
大学生くらいの派手な見た目の男性2人に話しかけられ、私はため息を吐いた。
こういう状況になると、本当に如月君や海堂さんが紳士な男性なんだなと実感する。
「…結構です。 友人と来ているので」
目を合わせずに言うが、2人の男性は引き下がらない。
「えー?どこにもいないじゃん」
「俺達と一緒に来た方が楽しいよー?ね?」
1人の男性が私の手を無理やり掴む。
「っ…!離してください!」
「いいじゃん〜」
振り解こうとするが、全く離す気配がない。
本当に非力な自分が嫌になる。
そんな時、誰かの手が男性の手を掴み、無理やり引き剥がしてくれた。
「嫌がってんだろ。離してやれよ」
助けてくれた男性は、私を守るように前に立ち、2人の男性を睨みつける。
すると、2人の男性は舌打ちをして去って行った。
「あ、大丈夫?怪我とかなかった?」
私を助けてくれた男性は私の方を振り返ってそう言った。
「は、はい…ありがとうござい…っ!?」
そこまで言って、私は目を見開いた。
よくこの人の顔を見て気づいた。
私はこの人を知っている。
「そんじゃ、俺は行くから。
…あーダメか、アンタを1人にしたらまたナンパされちゃうもんな…」
男性は顎に手を当てて何かを考えている。
「んー…!どうすっかなぁ…1人にする訳にもいかねぇし」
私はこの人を知っている。
如月君が唯一捨てられなかった写真に映っていた人物。
この人は…
「和馬…?」
「カズ…君」
そのタイミングで、如月君と風香さんが帰ってきた。
そう。写真よりも大人びていたけど、間違いない。
この人は、如月君と風香さんの幼馴染の一之瀬和馬さんだった。
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