第55話 「何年だって待ちます」
「…で、俺は2年の夏から不登校になって、高校からはこっちに逃げてきたってわけだ」
柊は途中俺の話を聞きながら泣いていた。
俺の為に泣いてくれる柊に微笑み、俺は立ち上がる。
柊は突然立ち上がった俺に首を傾げる。
「柊、今まで世話になった」
「え…?」
「この話をした時点で、俺はもうここに住む資格は無い。 出て行くよ」
「ち、ちょっと待って下さい…!な、なんで…?私まだ何も言ってないじゃないですか…!」
「俺は誰も信じるつもりはないんだ。 同居人が自分の事を信じてないなんて嫌だろ」
そう言って俺は柊に背中を向け、自室に向かおうとする。
だが柊に右手を掴まれる。
「…なんだよ」
「…逃げないで下さい…」
「逃げるんじゃねぇよ。 ただ…」
「今この家を出て行ったら…過去と何も変わらないじゃないですか…!! 」
「…言っただろ? 俺はお前の事を…」
「如月君が人を信じる事を怖がってるのは分かりました。
ですが、私はそれでも如月君に信じてもらえるようになりたいです」
柊はギュッと俺の右手を強く握る。
「…なんでそんなに俺にこだわるんだよ」
「…卯月さんの気持ちが分かるから…でしょうか」
「風香の…?」
「はい。 きっと卯月さんも如月君が遠くに行くのを止める時、こんな気持ちだったんだろうなって。
如月君、貴方は私の過去を知った上で肯定し、こんなめんどくさい私とお友達になってくれました。
私も同じです。 貴方の過去を知った上で、貴方とお友達になりたいと思っています」
振り返ると、柊は俺の目をしっかりと見ていた。
「如月君、今までよく頑張りましたね。 でも、もう大丈夫です。
今の貴方の周りには優しい人が沢山居るじゃないですか。
皆、貴方の優しさに惹かれたんですよ?」
柊は俺の頭を優しく撫で、優しい声色で言う。
「今すぐに私の事を信じろなんて言いません。 何年だって待ちます。
如月君が「大丈夫だな」って思ったタイミングで勝手に信じちゃって下さい」
俺は…どうすればいいんだ。
幼稚園からの付き合いで1番信頼していた和馬は変わってしまった。
それに対して、柊と俺はまだ出会ってから1年も経っていない。
なのに…なんで柊はこんなに俺が欲しい言葉をくれるんだ…?
「何年だって待つので、「高校生の間だけの関係」なんて言わないで下さいよ。
私は如月くんとずっとお友達でいたいんです」
「柊…」
「私は如月君を否定しません。 蔑んだり、裏切ったりもしません。
だから、もう一度だけ勇気を出してみませんか?」
「勇気…」
「はい。 如月君の過去を聞いて、尚更私は如月君と離れたくないと思いました。
如月君は怖がりすぎなんですよ」
柊はそう言って笑う。
そして、優しく俺の事を抱きしめた。
俺は、無意識に涙を流していた。
柊はきっと俺の涙を見ないように抱きしめてくれたのだろう。
俺の背中を優しくぽんぽんと叩いた後、頭を撫で続けてくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…悪い、もう大丈夫だ」
柊に抱きしめられ続けて数分、ようやく涙が収まった。
柊はゆっくり俺から離れると、俺に笑顔を向けてくる。
「スッキリしましたか?」
「…あぁ。 情けない所見せて悪い」
「寝起きの如月君に比べたら可愛いものでしたよ?」
「うるせぇ…」
「ふふ…」
柊は笑うと、ソファに座り、横をぽんぽんと叩く。
「座りましょう?」
「…あぁ」
俺はまた柊の横に座る。
すると柊は嬉しそうに笑った。
「なんか如月君の過去を聞いたら無性に甘やかしてあげたくなっちゃいました」
そう言って柊は俺の頭を撫でてくる。
「やめろ恥ずかしい…」
「ふふ…またぎゅってしてほしくなったらいつでも言ってくださいね〜」
「からかうな…」
柊は俺の反応を見て楽しそうに笑う。
「ねぇ如月君。 そういえば私達って喧嘩してましたよね」
「…まぁ…あれは喧嘩…になるな」
「なら、仲直りしましょうか」
「…あぁ」
顔を逸らしながら言うと、柊は俺の頭を自分の方に抱き寄せ、俺の頭を柊の膝の上に置いた。
「…おい…?」
無理矢理膝の上に寝かされ、柊を見上げる。
「あれ…嬉しくないですか?」
「はぁ…?」
「さっき如月君がお風呂に入ってる間に調べたんです。 仲直りする為に、男性が喜ぶ方法は何かなぁって」
「…まさかさっき抱きしめたのって…」
「あれは男性が喜ぶ行動2位のハグですね。 因みに3位は頭を撫でてあげる事らしいです」
「ほぅ…で、聞かなくても分かるけど1位は?」
「膝枕です」
「はぁ…あんまりネットの情報鵜呑みにしない方がいいぞお前」
「え…でも如月くん抱きしめてる時も頭撫でてる時も安心してくれてましたよね?」
「……ノーコメント」
柊は笑って膝に寝ている俺の頭を撫でる。
「…重くないのか?」
「意外と大丈夫ですよ? なんなら今日はここで寝ちゃいます?」
「からかうなっての…1分…いや、2分だけ膝借りる」
「はーい」
絶対に口には出さないが、柊の太ももは細いのに柔らかく、寝心地が最高だった。
おまけに良い匂いもするし、なんなら今使ってる枕よりも安心する。
柊に頭を優しく撫でられ続け、俺は無意識に目を閉じてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鳥の鳴き声で目覚めると、カーテンから差し込む明るい光で一気に意識が覚醒した。
そうだ昨日俺は柊の膝の上で寝ちまったんだった…
ふと上を見ると…
「すぅ…すぅ…」
柊がソファにもたれかかって規則正しい寝息を立てていた。
俺が膝の上で寝てるから自室へ帰れなかったんだろう。
非常に申し訳ない事をしたな…
「柊、柊…? 朝だぞ」
「んぅ…?」
優しく肩を揺すると、柊はうっすら目を開けた。
「んぅ…足…痛い…」
「誠に申し訳ございません」
「んぇ…? …え、き、如月くん?」
意識が覚醒したらしく、柊は目を見開く。
そして昨日の事を思い出したらしく、柊は微笑んだ。
「ぐっすり眠れました?」
「…まぁ」
「ふふ…なら良かったです。 ならお顔を洗いに行きましょうか」
そう言って柊は立ち上がる。
だが…
「わっ…!?」
足がもつれ、バランスを崩した。
俺は咄嗟に柊を支え、立たせる。
「あ、ありがとうございます…」
「いや…俺のせいだし」
「ふふ…まさか本当に寝ちゃうとは思わなかったので驚いちゃいました」
「本当にすまん…」
「嬉しい気持ちもあるので大丈夫ですよ〜。 なんなら金曜日は毎回膝枕してあげましょうか?」
「お前昨日からめっちゃ俺の事からかってくるな…」
「ふふ…楽しくてつい」
そんな軽口を叩きながら、俺達は顔を洗いに洗面所に向かった。
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