第22話 「お前が必要だ」
「如月くんそのキャラ禁止です!!」
初詣から帰ってきた俺達は、ソファに座りゲームをしていた。
今俺達は、様々な作品のキャラクターが戦うゲームをしている。
ちなみ、柊は可愛いからと言う理由で国民的大人気キャラクターである黄色い電気ネズミを使い続けている。
対する俺は、柊に勝つ度にそのキャラの使用を禁止されていた。
「おいもう使えるキャラ2体しかいねぇよ」
「なんで全キャラ強いんですか!」
「慣れだな」
「むぅ…絶対に勝ちますからね!」
「まずは1ストック落としてから言おうな」
煽ると、柊が睨んできた。
そんな柊に笑っていると、柊のスマホが振動した。
「電話か?」
「そうみたいですね。…あ、如月くんのお母様からです」
「なんでだよ」
思わずツッコんでしまう。
「はいもしもし。 柊です」
柊は耳にスマホを当て、丁寧に対応する。
「はい。元気ですよ。 如月くんですか?今横に居ますが…はい。 スピーカーにしますね」
柊がスマホをスピーカーモードにし、テーブルに置く。
『陽太聞こえるー?』
「聞こえるよ。 てか、通話かけるなら俺にかけて来いよ。 なんで柊のスマホなんだ」
『だって、あんたいつも正月はダラダラ寝てるじゃないの。 だから渚咲ちゃんにかけたのよ。 どうせ今年もダラダラしてたんでしょー?』
母さんの言葉に、柊はクスッと笑う。
「大丈夫ですよお母様。 私がいる限り如月くんを怠けさせたりはしませんから。 先程は如月くんと初詣に行ってきましたし」
『え、本当に? 私がいくら誘ってもめんどくさいからパスって言われ続けてきたのに!』
「そうだったんですね。 なんか想像できます 」
そう言って柊は笑う。
『でも陽太が初詣ねぇ。 やっぱり陽太も渚咲ちゃんみたいな美少女には弱いのねぇ』
「うるせぇな… それより、要件はなんなんだよ要件は」
『あ、そうだったわね。 いつも通話始めると脱線しちゃうから困るわ。 じゃあ、父さんに変わるわね』
そう言うと、通話の奥で何やら会話をしたあと、ごほんと咳払いの音が聞こえた。
『陽太、久しぶり。 渚咲さんは初めまして。 俺は陽太の父、如月誠です』
通話腰から優しそうな声が聞こえる。
俺の父の声だ。
柊は、突然の父の登場にびっくりしたのか、先程の笑顔が消え、真面目な表情になった。
「初めまして。 柊渚咲と申します。 如月く…陽太さんにはいつもお世話になっております」
柊に陽太と言われる事に対して違和感が凄い。
『ふふっ…そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。 美穂さんから聞いた通り、真面目な子なんだね。 それに、陽太はお世話してもらってる方だろう?』
通話の奥で、母さんが吹き出す音が聞こえた。
『渚咲さん。 息子がお世話になったみたいで、本当にありがとう。 本来ならばすぐに連絡をしなきゃいけない立場なのに、仕事の都合上自宅に帰るのが夜遅くでね。 中々連絡が出来ず申し訳ない』
「い、いえ! そんな…!」
おちゃらけている母さんとは違い、父さんはとても真面目な人だ。
受けた恩はしっかり返すし、人との繋がりを何よりも大切にする。
『それで、美穂さんと話していたら、重要な事をしていなかった事に気が付いたんだ』
「重要な事…?」
柊が首を傾げる。
『うん。 渚咲さんのご両親に、ご挨拶をさせて頂かないとと思ってね』
その瞬間、俺と柊の顔が強張った。
柊の両親に挨拶。
本来ならば、普通の流れだ。
子供を他の家庭に預けるのだからな。
「あ…え、えっと…」
柊が言い淀む。
『渚咲さんが一人暮らしなのは聞いてるから、もし良ければ、ご両親の連絡先を教えてもらえないかな?』
「父さんすまん。 一回ミュートにする」
『え? あぁ、うん』
スマホの音声をミュートにする。
これで俺達の声は父さん達には聞こえない。
「ど、どうしましょう…」
「すまん。 こうなる可能性はあったのに、今まで気がつかなかった」
柊の両親のいい加減さは知っていたし、俺の両親ほど干渉してこないので、頭から抜け落ちていた。
「…やっぱり、全て話した方がいいですよね」
「…だけど、柊、大丈夫なのか? 話すのが辛いなら、俺がごますことも…」
「大丈夫です。 頑張ります」
前は、両親の話をするだけで柊は辛そうだったし、出来るだけ話したくはないのだろう。
柊は、俺の服の袖をぎゅっと掴む。
「…もし、大丈夫じゃなかったら…その時はお願いします」
柊の手は震えていた。
「分かった」
柊は深く深呼吸をすると、スマホのミュートを解除した。
「お待たせして申し訳ございません」
『いや、大丈夫だよ。 何かあったのかい?』
「大した事じゃないですよ。 それより、両親への挨拶の件ですが…」
柊は、また深呼吸をした後、決意を決めた顔をする。
「申し訳ございません。 私と両親の関係は決して良いものとは言えず、両親は私に興味がありません。 そんな状況で、如月くんのお父様が両親に連絡をした場合、何を言われるか予想が出来ません」
『…興味がない?』
いつにもなく、真面目な声で母さんが呟いた。
柊は、俺に話してくれたように、過去の事を両親に話した。
その間、両親は黙って聞いていた。
「…以上が、私と両親の関係です。 重い話になってしまい申し訳ございません」
『…いいや、こちらこそ、辛い話をさせてしまって申し訳ない』
「いいえ。 それで、如月くんの件なのですが、両親には私の方から直接連絡をいれます」
『…分かった。 …この事は、陽太は知ってたのかな?』
「あぁ。 聞いたよ」
『そうか。 …渚咲さん。 よその家庭の事情だし、あまり口出しはするつもりはない。 でも、これだけは言わせてほしい』
柊は、首を傾げる。
『無理はせずに、辛い時は陽太を頼ると良い。 陽太は普段はパッとしないけど、意外としっかりしてるからね』
父さんがそう言うと、柊はクスッと笑った。
「無理しなくて良い。 如月くんにも、同じ事を言われました」
『おや、そうだったのか。…ちょ、美穂さん…っ』
通話の奥で父さんが声を荒げる。
そして、今度はこほんと女性の咳払いが聞こえた。
どうやら母さんに変わったらしい。
『渚咲ちゃん!』
「は、はいっ」
『2年生の夏休み、良かったらウチに遊びに来ないかしら?』
「夏休み…ですか?」
『そうよ。 元々陽太には、夏休みは帰省するように言ってたから、良ければ渚咲ちゃんもその時にこっちに来ない?』
「で、ですが…私はお邪魔では…」
『何言ってんの! 私はもう渚咲ちゃんの事を娘として見るって決めたから、遠慮する事ないのよ!』
とんでもない発言をする母さんに、俺は苦笑いをする。
『今までご両親から貰えなかった分、私が渚咲ちゃんに愛情をそそいであげるわ! 私娘も欲しかったし!』
柊は、チラッと俺を見る。きっと不安なのだろう。
俺は小さく笑い、頷く。
「…では、お言葉に甘えても…良いでしょうか…?」
『もちろん! 生で渚咲ちゃんを見てみたいし、楽しみだわぁ』
「た、楽しみにされるほどでは…」
『美少女がなーに言ってんの! こっちに来たら思う存分いろんな服着せちゃうからね! 』
「ふふっ…楽しみです」
柊の方を見ると、うっすらと目が潤んでいた。
頑張って通常通りの声を出してはいるが、これはもう泣く寸前だろう。
「…母さん、これからやる事があるから、通話はまた今度ゆっくりな」
『えー! …まぁ、仕方ないわねぇ。 陽太、渚咲ちゃんを頼んだわよ』
「はいよ」
そう言って通話終了のボタンを押すと、柊は限界を迎えたのか、俺の胸に顔を押し当てた。
柊の身体は震えており、小さな声で泣いていた。
俺は優しく柊の頭を撫でる。
「よく頑張ったな」
「…はい、頑張りました」
柊にとって、両親の話=悲しい記憶なのだ。
それを自ら話すと言うのは、中々に苦痛だっただろう。
「…如月くんのご両親と話すとつくづく思います。 ウチの両親とは違うなぁ…って」
俺は優しく柊を撫で続ける。
「…私も…普通に愛されたかったです…! 裕福じゃなくても…ただ普通に過ごせれば…私はそれで…満足なのに…!」
柊は、俺の服をぎゅっと強く掴む。
柊の両親にはつくづく腹が立つ。
「…こんな事になるなら…産まれてこなければ良かっ…」
「柊」
柊が言い切る前に、俺は思わず柊の肩を掴み、向かい合うように自分の身体から離していた。
柊の顔は、涙に濡れ、顔は泣いた事によって赤く染まっていた。
「それ以上は絶対に言うなよ」
「…でも、私は両親に必要とされてないんですよ…?」
「誰かに必要とされてなきゃ、生きちゃいけないのか?」
「っ…」
「産まれた事や、生きる事に意味なんか求めんな。 お前は16年間、ずっと頑張って生きてきたんだろ。 その頑張りを、お前自身が無にするような事言うんじゃねぇよ」
柊は、ポロポロと目から雫を落とす。
向かい合っている為、柊は泣き顔を見られまいと下を向く。
「お前が誰かに必要とされなきゃ生きていけないって言う面倒くさい女なのは分かった」
「うっ…私は面倒くさいです」
「あぁ面倒くさい。 だから言ってやるよ。 俺にはお前が必要だ」
柊は顔を上げ、潤んだ目をパチクリさせる。
俺は小さく笑い、人差し指を立てる。
「お前が居ないと困る事を話そうか。 まず、俺は100%不健康になるだろう。コンビニ弁当生活に戻り、部屋は片付けられず、新しい物件が見つかるまでは慣れないホテル暮らし生活だ。間違いなく自堕落な生活になるな」
「…それは…困りますね」
「あぁ困る。 お前が居なくなるだけで、俺の生活はこんなにも変わっちまうんだ」
「…如月くん…私が居ないとダメダメですもんね」
「否定出来ないのが悲しい所だな。 後は普通にお前の手料理が食えなくなるのは嫌だな」
「…毎日野菜炒めでも?」
「………………もちろんだ」
「そこは即答してほしかったです」
柊は、小さく笑い、また俺の胸に顔を押し当てた。
胸がほんのり熱くなってきた。
これは柊の涙によるものだろう。
「…勘違いされないように言っておくと、今のこれは嬉し涙ですからね」
「ほう。 何か嬉しい事でもあったのか?」
「…如月くんはいじわるです」
柊は俺の身体をポカポカと叩く。
だが、それには力が入っておらず、全然痛くなかった。
「…如月くんは、私が必要なんですか」
「あぁ。 お前が居なきゃ俺はダメ人間になっちまうからな」
「…なら、私が如月くんを見張らなきゃダメですね。 じゃないと如月くんのご両親が悲しみます」
「俺をまともな人間にするのは大変だぞ?」
「…なんでそこに自信持ってるんですか」
柊は、はぁ…とため息をつく。
「…私はどうやら厄介な人と同居人になっちゃったみたいです」
「残念だったな。 同居人が俺みたいな奴で」
「本当ですよ」
そう言って、柊は笑った。
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「…落ち着きました。 さっきは取り乱してしまい申し訳ございませんでした」
「硬い硬い。 そんな謝る事じゃねぇ」
「…でも、また面倒くさい所見せちゃいました」
「まぁ確かに面倒くさかったな。…痛っ!」
柊にクッションを投げられた。クッションは俺の顔に当たる。
「…ったく…で、なんでお前はずっと顔逸らしてんの」
「…あんな後じゃ、顔見れないです」
「…あっそ。 んじゃ俺は部屋に戻りますかね」
「ダメです。此処に居てください」
「なんで」
「私のワガママです」
俺はため息をつき、浮かしかけていた腰をまた下ろす。
「ワガママなら仕方ないな」
「はい。仕方ないです」
そのまま数分間、無言の時間が続いた。
そして、柊は突然スマホを触りだした。
「…今から父にチャットをします。 不安なので、此処に居てください」
「…了解」
「…どうせ返事は来ないので、なるべく簡潔に告げます。 あと、念の為性別は伏せます。 無いとは思いますがもし後で男性を泊めていることを問い詰められたりしたら、聞かれなかったからで通します」
柊は、慣れた手つきで文字を打っていき、スマホをテーブルに置いた。
どうやら送り終わったらしい。
「…頑張りました」
「おう。 ありがとな」
「頑張ったので、ご褒美下さい」
「ご褒美って…何が欲しいんだ」
財布にいくら入ってたかなと記憶を探ると、帰ってきたのは予想外言葉だった。
「今日の夕飯は、如月くんの手料理が食べたいです」
そう言われ、俺は思わず笑ってしまった。
「随分と安いご褒美だな」
「わ、私にとっては立派な…」
「はいはい。 夕飯作れば良いんだな? 言っとくが、味、見た目、献立のクレームは受け付けないからな」
「はいっ!」
柊は満面笑みを浮かべる。
時刻はもう夕飯を食べてもおかしくは無い時間だったので、俺はキッチンへと向かった。
柊は、少しずつだが、確実に変わってきている。 前よりもワガママを言うようになったし、感情的になった。
…尚更、俺は柊と同じクラスになれたら楽しいだろうなと思いながら、料理を開始した。
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第1章
女神様と同居編
完
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