第21話 「4人で」
「陽太じゃないか。こんな所で会うなんて奇遇だね」
「…お、おう。そ、そうだな」
「…随分と仲良さそうじゃん?」
七海にそう言われ、今俺達は手を繋いでいる事に気づく。
俺と柊はお互い同時にバッと手を離し、お互いそっぽを向く。
「私のチャットに返信ないと思ったら、2人きりで初詣に来てたんだね」
「え、チャット…?」
「1時間前に送ったじゃん」
ポケットからスマホを取り出すと、確かに1時間前に七海と春樹から【初詣行かない?】とチャットが来ていた。
「す、すまん気がつかなかった」
「ふーん…?」
やばい、明らかに七海に疑われてる。
春樹に至ってはニヤニヤしてるし。
「な、七海は人混み嫌いじゃなかったか?」
「嫌いだよ。 でもどうしても叶えたい事があったから仕方なく。だからあんたも巻き込もうとしたんだ」
「なるほど。 もうお参りはし…」
「話、逸らそうとしてるよね?陽太」
春樹にスパッと言われ、顔を逸らす。
春樹と七海は鋭いし頭が良い。
俺はコイツらに嘘を突き通せた事が一度もないのだ。
「あ、あの…」
そこまで黙っていた柊が口を開く。
見れば明らかにオドオドしている。
「き、如月く…さんとは、たまたま近くで会って…どうせなら一緒に…と」
「「はい嘘」」
「うっ」
ビシッと2人に言われて、柊はたじろいだ。
流石にキョドりすぎだろ…
「前からおかしいなとは思ってたんだ」
七海が俺達を見ていう。
「前に柊さんの事を助けた時、あんたは真っ先に助けに行ったよね。 それに関してはあんたの性格上おかしな話じゃない。 ただ、問題はその後」
七海は、人差し指を立てていう。
その姿は、さながら推理をする名探偵のようだった。
「柊さんさ、陽太の事、如月くんって言ったでしょ」
「うっ…!」
「でもその後改めて自己紹介してからは、呼び方は如月さんになってた。 そして、如月さんって呼ばれる度に、陽太は居心地悪そうな顔してたよね」
柊と俺の顔が引き攣っていく。
七海は人を観察するのが上手い。
人の癖や、目線から様々なことを予測できるのだ。
だからこういう時は厄介だ。
ただ…1番厄介なのは…
「陽太さ、火事が起きてから本当に元気になったよね。 前まではコンビニ弁当だったろう? それに加えてホテル暮らしになって環境が変わったとなれば、落ち着かずにやつれるはずだよねぇ」
「そ、それはだな…」
「次に、僕は君にゲームをあげたけど、何も疑問に思わなかったのかい?」
「…な、何がだ?」
「全部、複数人で遊ぶのが楽しいゲームじゃないか。 本当にホテル暮らしで暇なら、僕は君に1人で黙々と楽しめるゲームを送るよ」
そう言われてハッとした。
実際に俺は、柊と共にゲームをして楽しんでいる。
こういう時、七海も厄介だが、1番厄介なのは…春樹だ。
春樹は、勘がとても鋭い。
一度疑問を持ったら、それが正解か不正解かを確かめるまでずっと動き続ける。
だから、春樹に一度でも疑われたら終わりなのだ。
そして、春樹はニヤッとして、俺を指さす。
「君が元気で健康になったのは、食生活が変わったからだろう。 そして、火事が起きた時期から、柊さんと君には何かしらの繋がりが出来た。今では、初詣に2人きりで来る程に仲良くなっている。
陽太、君は今、何処に住んでるのかな?」
疑問系だが、もうこれは確信しているんだろう。
たった一つの行動ミスでここまで迫ってくるとは思わなかった。
きっと七海と春樹でいろいろ話していたのだろう。
人を観察し、少しの変化に気づく七海と、状況からおかしい点を見つけ、ひたすら追求する春樹。
この2人が組んだのだ。最初から逃げ切れるわけがなかった。
俺は両手をあげる。
「降参だ。全部話すよ」
「如月くん…?」
「大丈夫。この2人は信用出来る」
そう言うと、柊は頷いた。
「全部話すが、この話は他言無用で頼む」
「「もちろん」」
ハモる2人に小さく笑い、俺は話し出す。
春樹の推理通り、今は柊の家で居候をしている事、俺が元気になったのは柊の料理のおかげだという事、そして、俺と柊の今までの事を、全て話した。
「…以上だ」
「…予想はしてたけど、いざ本人から聞くと信じられないね」
「…僕も同じ気持ちだよ。まさか陽太があの柊さんと一緒に住んでいるなんてね」
七海と春樹は、俺と柊をジーっと見ている。
そして、七海がとんでもない爆弾発言をした。
「2人は付き合ってるの?」
「付き合ってねぇ」
「つ、付き合ってないです…!」
俺と柊が同時に否定した。
それを見ていた春樹が笑い。「仲良いねぇ」と茶化してきた。
「誤解の無いように言っとくが、俺が柊の家に住んでるのは100%柊の善意だ。 それに対して感謝や好意は抱く事はあっても、恋愛感情を抱く事はねぇ。 それに、俺は誰とも付き合う気はねぇ」
俺はキッパリ言い切る。
七海は、「まあいいか」と言って話を続ける。
「じゃあさ、せっかく会えた訳だし、4人でお参りしようよ」
七海の言葉に、柊は目を輝かせる。
「はい!ぜひ!」
そういえば前に話した時も、柊は楽しそうだったな。
七海とは話が合うのかもしれない。
前回のように前を柊と七海が歩き、その後ろを俺と春樹が歩く。
「ついにバレちゃったねぇ」
「…バレたも何も、ずっと勘繰ってたんだろ」
「まぁね。 ただ、どうしても話したくない内容だったら深くは追及しなかったさ。 今回は、たまたま遭遇しちゃったからね」
「はぁ…俺はつくづく運が悪いよ」
俺が言うと、春樹は苦笑いをする。
「確かに、火事が起きるまでは、君の運は最悪だったよね。 3人で歩いてて1人だけ肩に鳥のフンを落とされてた時は流石に笑ったよ」
「思い出させんなそんな事」
「君は運が絶望的に悪いが、1つだけ飛び抜けて高い運があるよ」
「ほう。それはなんだ?」
「友達運だよ。 柊さんに七海に僕。 良い友達に巡り会えてよかったじゃないか」
「…自分で言うなよ」
そう言うと、春樹は笑った。
「今回七海がなぜ初詣に来たか、予想出来るかい?」
「いや全く。 どうしても叶えたい事があるって言ってたが、俺には見当もつかん」
「ふふっそうかい。 ちなみに、七海と僕の願いは一緒だよ」
「2人一緒とは仲が良いな。 流石は幼馴染だ」
幼馴染は願いとは関係ないんだけどね。と春樹は笑った。
そんな話をしていると、ようやくお参りの順番が回ってきた。
さっきは茶化したが、春樹と七海の願いは予想がついている。
ちなみに、予想通りならば、俺も願いは一緒だ。
お賽銭を入れ、パンパンと手を合わせる。
ーー今年は、4人で仲良く一緒のクラスになれますように。
そう願った。
他の3人も、同じように願った気がした。
4人同時に目を開ける。
「さ、帰ろうか」
春樹の言葉に頷き、一緒に神社から出た。
道中、柊は七海と春樹と連絡先を交換していた。
「そういえば柊さんってさ、金髪だけどハーフだったりするの?」
七海は、俺がずっと気になっていた事を聞いた。
柊は日本人離れした綺麗な金髪で、青目だ。
その髪色になるには日本人は染めるしかない。
だが、柊は髪を染めるような奴には見えない。
「正確には、クォーターですね。 母がイギリス人と日本人のハーフで、この金髪と青目は母からの遺伝なんです」
「クォーターか。 だから顔立ちは外国人っぽくないんだね」
「はい。 なのでよく不良だと勘違いされて怖い人達に話しかけられるんですよね…」
「あぁ…それは災難だね…」
目の前の女子の会話を聞いて納得する。
イギリス人のクォーターだったのか。
「あ、そうだ柊さん。家での陽太ってどんな感じなの?」
「おい。 今それは関係な…」
「如月くんですか? んー…朝は弱いですし、部屋も言わないとすぐに散らかるし、手のかかる弟みたいな感じですかね」
「へぇ〜?」
七海がニヤニヤした笑みを向けてくるので、俺は目を逸らす。
「…そういう柊は、学校にいる時じゃイメージ出来ないくらい甘えてくる時あるけどな」
「なっ…!如月くんそれは…!」
「へぇ〜?」
今度は七海は柊を見る。
すると柊は目を逸らした。
そんな話をしていると、いつもの別れ道にきた。
「じゃあ柊さん、あとはチャットで話そうね」
「はい!青葉さん、海堂さん、今日はありがとうございました!」
そう言って、俺達は別れた。
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「バレちゃったな」
「バレちゃいましたね」
家に帰り、俺達はソファで暖かいココアを飲んでいた。
今回、七海と春樹に遭遇したのは完全に予想外だった。
「まぁ、あいつらは言いふらす奴らじゃないから大丈夫だろ」
「はい。 それは心配してないです。 2人とも良い人でしたし」
柊も気に入ってくれたようでよかった。
今年は一緒のクラスになりたい奴が多い。
柊に、春樹に、七海。
4人が同じクラスになる可能性は限りなく低いだろう。 だが、高校2年生はイベントが多い。
林間学校や修学旅行。
そのイベントをこの4人で出来たらすごく楽しいんだろうなと、俺は未来の事を考えた。
「…一緒のクラスになれるといいですね」
「だな」
「私、お参りの時に4人で一緒のクラスになれますようにってお願いしたんです」
「奇遇だな、俺もだ」
柊も同じ気持ちだったらしい。
そして、春樹や七海も一緒だろう。
4人で願ったんだ。 流石に神様も無視は出来ないだろう。
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