二章 新学期、新たな出会い編
第23話 「新学期、新クラス」
季節は4月。
桜が咲き、春になっていた。
そして、4月は、出会いと別れの季節。 何かが始まり、何かが終わる季節だ。
今日から、俺の高校2年生としての新学期が始まる。
そんな大事な日に俺は…
「もう!昨日遅くまで漫画読んでるからですよ! 早く顔洗ってきて下さい!」
「おー…」
寝坊をしていた。
いつもならとっくに起きて朝ごはんを食べようとする時間帯だが、昨日までは春休みという事もあり、気が緩みいつもの癖で夜更かしをしてしまったのだ。
いつもは自分で起きるようにしているが、中々起きてこない俺に疑問を持ったのか、柊が扉を開けると、爆睡している俺がいた。
という流れだ。
「はい! 顔洗ったら制服に着替える! 朝ごはんは用意してますから!」
柊に背中を押されて歩かされ、自室に入れられる。
制服を着てリビングに向かうと、いつも通り美味しそうな朝食が並んでいた。
今日のメニューは、白米にウィンナー、だし巻き卵と味噌汁にほうれん草のおひたしだ。
柊のだし巻き卵は甘めの味で俺好みなのだ。
席に座ると、前に座っていた柊にジトーっと見られる。
「…昨日、私なんて言いましたっけ」
「…明日は学校なので、夜更かしはしないようにして下さいね」
一言一句違わずに言うと、柊はため息をつく。
「まったく…油断するとすぐこれだから困りますね」
「…申し訳ございません」
「反省してるなら大丈夫ですよ。 さぁ、食べましょうか」
柊は笑顔で言い、朝食を食べ始める。
だし巻き卵を食べると、いつもとは違う事に気がついた。
「…今日はいつもより味付け凝ってるか?」
「あ、分かりますか? だし巻き卵の作り方を少し変えてみたんです」
いつも美味いのだが、今日のは、いつもよりもフワフワしており、味もよく染み込んでいた。
「めっちゃ美味い」
「ありがとうございます。 じゃあ今度からはこの作り方にしますね」
そう言って、柊は満足そうに食べ続けた。
全て食べ終わると、俺は皿をシンクに運び、柊は鞄を持った。
「では、私は先に行きますね。 間違えて1年生の教室に行かないようにして下さいね?」
「分かってるよ。 気をつけてな」
「はい。 如月くんもお気をつけて。 行ってきます」
「行ってらっしゃい」
恒例のやり取りをした後、柊は出て行った。
俺は皿洗いをしながら、柊の事を考える。
正確には、柊の両親の事か。
正月に柊が父親にチャットをしたが、柊の予想通り、何も返事はなかったらしい。
それどころか、4月になるまで他の要件でも1度も連絡をよこさなかった。
興味がないとは言え、自分の娘だ。
心配になったりはしないのだろうか。
それに、一度マンションの前で会ったあの男。
あれから一度も会ってないが、俺の予想通りならば、あれは柊の父親だ。
だが、そうだとすると疑問が多すぎる。
父親ならばなぜ、興味がない柊のマンションを見に来るのだろうか。
「あ、時間やべぇな」
そんな事を考えていると、いつも出る時間を少し過ぎている事に気がついた。
俺は急いで鞄を持ち、家を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
学校につき、校門の前に行く。
校門には新しいクラス分けが紙に書いている為、かなりの人数が居る。
「おや、陽太じゃないか。 今日は遅いんだね」
紙を見に行こうとすると、聴き慣れた声で呼ばれた。
振り返ると、そこには春樹と七海が居た。
「今来たのかい?」
「あぁ。 今から紙を見に行くところだ」
「じゃあ、皆で見ようか」
春樹が言うと、俺と七海が頷き、紙が見える場所まで行く。
えーと…如月如月…き…き…
「あった。 2組だな」
俺のクラスは2組らしい。
他のクラスメイトを見てみると…
「お、僕も2組だ。 陽太、また1年間よろしくね」
「私も2組」
春樹と七海の名前もあった。
そして…
ーー柊渚咲の名前もあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3人でクラスに向かい、中に入ると、なにやら人だかりが出来ていた。
まぁ渦中にいる人物は予想が出来る。
同居人である、柊渚咲だ。
柊は、様々な男子から質問責めにあっていた。
皆柊と同じクラスという事で浮かれているのだろう。
柊も、笑顔ではいるが、ちょっと苦笑い気味だ。
「相変わらず人気だね」
「だな」
七海の言葉に短くかえす。
俺の席は窓側の1番後ろだ。
そして隣は前と同じく七海。
更に前には、春樹が座っていた。
こういう時、あいうえお順で初めの方なことに感謝する。
「おや、今回は陽太の前か」
俺はきさらぎ、春樹はかいどうなので、必然的に席は近くなる。
そして七海はあおばだしな。
周りが仲良い奴らでホッとする。
そんな事を思っていると、突然クラス内で黄色い悲鳴が上がった。
ビクッとして扉の方を見てみると、そこには爽やかなイケメンが居た。
少し長めの茶髪に、整髪料をつけているのか、髪型が完璧に決まっている。
その男が入ってきた途端、その男の周りは女子で埋まった。
「な、なんだあれ」
「…八神天馬。 通称・王子様」
七海が教えてくれた。
「王子様…?」
「簡単に言うと、男版の柊さん」
「あぁ…なるほど」
分かりやすい説明に、すぐに納得した。
つまり、このクラスには男女の1番人気が居るって言う事か。
「テストの順位は常にトップ5。 それに加えて入学当初から陸上部のエースって事で、モテモテみたいだね」
「モテる要素しかないな」
八神は、席についてからも女子に囲まれており、苦笑いをしていた。
態度も柊そっくりだ。
そんな事を思っていると、俺のスマホが振動した。
画面を見ると、そこには柊渚咲の名前があった。
柊を見ると、男子に囲まれながら、机の下でスマホを持っていた。
きっとコッソリ打ったんだろう。
内容を確認すると、
『よろしくお願いしみす』
と書いてあり、吹き出しそうになった。
慣れない打ち方をしたからだろう、誤字っている。
プルプル震えている俺に疑問を持ったのか、七海と春樹は首を傾げる。
2人にしか見えないように画面を見せると、2人は下を向いてプルプル震えだした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やってきてしまった。
毎年恒例の自己紹介タイムだ。
俺はこの時間が大っ嫌いだ。
嫌でも注目されるからな…
どうやら、名前と趣味特技を言うらしい。
しかも俺の出席番号は5番。
絶望しかない。
「海堂春樹です。 趣味は機械いじり、特技はパソコン操作かな。 よろしくね」
目の前の春樹が立ち上がり、自己紹介をする。
すると、女子がザワザワしだした。
春樹もイケメンだしな、当然の反応だろう。
だが、今はそんなのはどうでもいい。
次は俺の番なのだ。
俺は深呼吸をしてから立ち上がる。
「…如月陽太です。 趣味は読書、特技はありません。以上です」
サッと終わらせ、サッと座る。
なんとか噛まずに終わらせる事が出来た。
皆俺には興味がないのか、次の男子の自己紹介が始まった。
そして…1番最後の席。
「八神天馬です! 趣味は…読書と歌を歌う事かな? 特技はスポーツです。 1年間、よろしくお願いします」
これ以上ない完璧な自己紹介をし、八神は席に座った。
何人かの女子は顔を真っ赤にしている。
恐るべしイケメンパワーだ。
そして、次は女子の自己紹介の番だ。
「あぁ…最悪…」
隣で七海が絶望している。
七海は俺と似ているところが多く、自己紹介も苦手だ。
七海の番が来て、七海は立ち上がる。
「…青葉七海。 趣味は音楽鑑賞…特技は歌」
そう言って、七海は席に座ると、周りの男子達がザワザワしだした。
七海もかなりの美少女だ。 当然の反応だが、このクラス、顔面偏差値高すぎではないだろうか…?
そして、自己紹介は進み、1人が立ち上がると、それまではザワザワしていた声が一瞬で止んだ。
立ち上がった人物は、柊渚咲だ。
「柊渚咲です。 趣味は…読書で、特技は料理です。 1年間、どうぞよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げると、男子達が叫び、先生に注意された。
前は趣味は内緒だと言っていたが、今回趣味で言い淀んだ所をみると、読書というのはとりあえずの趣味なのだろう。
そして、柊の言う読書とは、きっと漫画だろうなと、俺は心の中で笑った。
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「ただいま」
家に帰り、そう言うと、リビングから制服にエプロン姿の柊が歩いてきた。
「おかえりなさい!」
「お、おぉ…?」
柊は、いつになく笑顔だった。
「鞄持ちますね! 如月くんは手洗いしてきて下さい」
柊は俺から鞄を受け取ると、俺の部屋に置きに行った。
そのあとリビングに行くと、美味しそうな臭いが漂ってきた。
「何作ってんだ?」
「プリンです! 夜に2人で食べましょう?」
「お、おう…なんかやけに上機嫌だな?」
柊は、ずっと笑顔でプリンの液体を混ぜていた。
「だって、皆一緒のクラスになれましたし」
「あぁ、そういう事ね」
「はい! なんか嬉しくなっちゃって」
そう言って柊は照れ臭そうに笑う。
「嬉しくなって誤字っちゃった訳だな」
先程のチャットの事を言うと、柊は顔が真っ赤になった。
「う、うるさいです! あれはその…慣れない打ち方したから…!」
「別に家帰ってから言えばいいのに。 随分と舞い上がってたみたいだな」
ニヤニヤしながら言うと、柊は口を膨らませる。
「…このプリンはどっちも私のにします」
「太るぞ」
「明日は野菜炒めにするので、それでカロリーを調整します」
「誠に申し訳ございませんでした。 反省しております」
「よろしい」
柊は、そう言って笑った。
柊には一生勝てないんじゃないかと思えてきた。
柊の野菜料理は好きだが、それはあくまで柊の料理だから好きなのであって、別に野菜自体が好きになった訳ではないし、野菜はあくまでも副菜としてしか見ていない。
メインが野菜料理とか考えたくない。柊の事だからきっと美味いんだろうけども。
「…でも、同じクラスにいるのに話せないのは辛いですね…」
柊が悲しそうな顔をする。
「あ、なんかそれに対して七海が「私に考えがあるから」って言ってたぞ」
正月に連絡先を交換して以来、柊はよく七海とチャットをしているらしく、友達になれたと柊が喜んでいた。
春樹も七海も俺達の事情を知っている。
だから、七海はクラスで話したいが話せないでいる柊を気にかけたのだろう。
「青葉さんが…?」
「あぁ。 だから明日何かあるんじゃねぇかな」
春樹と柊はもちろん、柊と七海も学校で接点はない。
元々別のクラスだったし、七海は積極的に他のクラスに行くやつじゃないしな。
まぁ、明日になれば分かるだろう。
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