第15話 「ご褒美」

あれから1週間が経ち、ついにテストの日がやってきた。


このテスト期間中、俺は今までで1番勉強したと思っている。

ぬかりはない。


「陽太、やる気満々って感じだね」


「あぁ。 絶対20位以内に入ってやる」


「どんな心境の変化か分からないけど、頑張りなね」


隣の七海とそんな会話をしつつ、俺は参考書に目を移す。

テスト範囲は完璧に復習し、分からない箇所は何度も勉強した。


一科目目の担当の先生が入ってきて、テストを配る。

一科目は現代文だ。


いつもはだらだらとテストを受けていたが、今回は目的がある分緊張する。


たかがハンバーグの為と思うかもしれないが、20位以内に入りたいのはハンバーグの為だけじゃない。


柊の目の前であんなに勉強し、あんなに応援してくれたのに、結果が出せないのは申し訳ないからだ。


先生の合図で紙をめくり、まずは名前を書く。


問題を見てホッとする。

全て復習した所だ。


俺はその後のテストもスラスラと解いていき、あっという間に放課後になっていた。


「はぁ疲れた…」


「「お疲れ様」」


机に突っ伏すと、七海と春樹から労いの言葉をかけられた。

手ごたえはあった。だがニアミスをしている可能性はあるし、まだまだぬか喜びは出来ない。


テストの結果発表は来週の月曜日なので、それまでの間はずっと緊張する事になるだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


春樹と七海と共に玄関に向かっていると、また中庭に柊と1人の男子生徒がいた。


「あ、柊さんだ。相変わらず人気だよね」


七海がそう呟く。

じっと見ていると、男子生徒が頭を下げた。


「今回のテスト、もし20位以内に入れたら、俺と付き合って下さい!!!」


男子生徒の告白に、柊は困った顔をした後、頭を下げた。


「ごめんなさい。 私は貴方と付き合う事は出来ません」


「…そうですか…理由を聞いてもいいですか?」


「私は、お付き合いはお互いに信頼できる関係になってからする物だと考えています。 なので、何も知らない状態でお付き合いは出来ません」


柊がキッパリ言うと、男子生徒は頭を下げ、その場を走り去った。

また前みたいな事にならないかと不安になったが、今回は何事も無かったらしい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…今日、また告白されてたな」


「あ…見られちゃってましたか」


柊と夕飯を食べている際に言うと、柊は困ったように笑った。

今日の夕飯は肉じゃがだ。

定番中の定番だが、とても深い味わいになっており、いつも通り美味い。


「皆さんは何故私と付き合いたいと思うのでしょうか」


「…そりゃあ、可愛いからじゃねぇの? お前自分でも言ってたろ、自分の容姿が優れている自覚はあるって」


「…顔だけで付き合いたいと思うのでしょうか?」


「思うんじゃないのか? 所詮は学生の恋愛だしな、好きになる理由なんて容姿、学力くらいが多いんだと思うぞ。 もちろん真面目に恋愛してる奴もいるだろうけどな」


「…なら、やっぱり私には理解は出来ないですね」


「まぁ、お前の事が好きな男子達からしたら、今の俺の状況は本当に羨ましいだろうな」


学校1の美少女と毎日同じ家で暮らし、柊の手料理を食べ放題。

そんなの羨ましがるに決まっている。


俺がそう言うと、柊は悲しそうな顔をした。


「…なら、やっぱり学校でも仲良くするのは無理そうですね…」


「そりゃ無理だろ」


「…どうせなら、一緒に登校したり、休み時間とかもお話したいです…帰りも、2人で買い物して一緒に帰ったりしたいんです」


「そんな事したら、俺が学校中の男子達から消されるよ」


他の生徒からしたら、俺と柊は赤の他人に見えているはずだ。

それが急に仲良くし始めたら混乱するだろうし、目の敵にされるのは確定だ。


「…ですよね」


柊は、悲しそうに笑った。


「…来年、同じクラスになれたらいいな」


俺が呟くと、柊は首を傾げた。


俺と柊が合法的に話せる唯一の手段、それは、同じクラスになる事だ。


「ほら、同じクラスなら別に会話しても違和感はないだろ。 勉強を教えたり次の時間割の話しをしたりな」


柊は目をパチクリさせたあと、ふふっと微笑んだ。


「そうですね! 同じクラスになったらいっぱい話しましょう!」


「話しかけすぎたら俺が視線で殺されるよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから日が経ち今日は月曜日、ようやくテスト結果が返ってくる。

午後にテスト結果が返ってきて、その日の放課後には20位以内の生徒が張り出されるのだ。


「陽太、ソワソワしすぎ」


隣の七海に呆れられるが、仕方ないだろう。

今朝柊に、「絶対大丈夫です!」って笑顔で言われたんだ。

これでもし入れなかったら家に帰りたくなくなるぞ。


先生が入ってきて説明をした後、全教科のテストが返ってくる。

結果は…今までで最高の点数だった。


中でも高かったのは


現代文96点

古文90点

数学Ⅰ88点

英語86点


だった。

元々数学と英語は苦手だったんだが、柊の教え方が分かりやすすぎてこんなに高得点を取ることが出来た。


そして、肝心の順位は……


如月陽太 20位。


と書かれていた。


俺は思わずその場でガッツポーズをしてしまった。


20位というギリギリの滑り込みだったが、なんとか目標を達成する事が出来た。


「え、何…?まさか本当に20位以内入ったの…?」


そう言ってくる七海に順位の書いている紙を見せると、「すごっ…やるじゃん」と関心してくれた。

俺もまさかここまで出来るとは思わなかった。


放課後に廊下に張り出されている20位以内の生徒の中に自分の名前があるのを確認し、また心の中でガッツポーズする。


廊下にいる生徒は、見慣れない名前にザワザワしている。


そして、柊も見にきていたらしく、俺の後ろを通ると、誰にも聞こえないように小声で


「おめでとうございます」


と言い、歩いて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おめでとうございます!」


家に帰ると、満面の笑みの柊にそう言われた。

面と向かって言われると流石に照れてしまう。


「勉強頑張ってましたもんね!」


柊に「テスト見せて下さい!」と言われてテーブルの上にテスト用紙を出すと、柊はまた笑顔になった。


「…まぁ、数学と英語はもっと頑張りたかったけどな。せっかく教えてくれたんだから90点は取りたかった」


「それでも、20位以内に入るのは凄いですよ!」


毎回1位の柊に言われると、嬉しい物がある。


「…因みに、柊は何点だったんだ?」


「えーと…」


柊はカバンの中から返却されたテストを出し、テーブルの上に出す。


そこには平均90点以上のテスト達がいた。

現代文、古文、数学Ⅰ、英語、地理、現代社会に至っては100点だった。


「お前凄すぎるだろ…」


漫画読んでゲームして料理して家事もしてたのに、この成績は本当に凄すぎる。


「そんな事より! 今日は如月くんの20位以内を記念して、約束通りハンバーグを作りますね!」


「準備早いな。 材料とか買ってないだろ?別に今度でも…」


「いえ、如月くんは20位以内に入るだろうなと思ってたので、昨日のうちに材料を買って、生地を冷蔵庫で寝かせておきました」


マジかよ。本当に入れてよかった…


「じゃあ、私は準備するので、如月くんはお部屋で休んでて下さい」


「分かった。ありがとな」


部屋で今日間違えた箇所の復習をしてから1時間後、柊が部屋に入ってきた。


「お待たせしました。出来ましたよ」


俺はワクワクしながらリビングへ行く。

すると、テーブルにはまさにプロの店で出されているかのような綺麗なハンバーグが用意されていた。


形は綺麗だし、ソースのかかり方も見栄えがいいし、何よりも匂いが食欲をそそる。


「一晩寝かせたので、しっかりと味が染み込んでると思います」


「おぉ…そこまでしてくれて本当ありがとな」


「お祝いですから」


柊はそう言って笑い、お互いにいただきますをしてから、ナイフでハンバーグを切る。

すると、中から肉汁が出てきた。

フォークで刺し、ハンバーグを口へ運ぶ。


噛んだ瞬間、今まで俺が食べてきたのは本当にハンバーグだったのかと疑ってしまった。

肉は柔らかいが噛みごたえがあり、柊の言った通りしっかりと味が染み込んでいる。


「どうですか…?」


「最高に美味い。 美味すぎる」


不安そうに聞いてきた柊だったが、俺の言葉を聞くと、柊は安心したように笑顔になった。


このハンバーグを食べれるなら、俺は何でも頑張れるかもしれないと、本気で思った。

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