第14話 「女神様の看病」
あー…やってしまった。
と、アラームで朝目が覚めた俺は直感した。
自分の事は自分が1番わかっている。
ガンガン痛む頭、喉はイガイガして、喋る気が起きない。
そして気分が悪く、何もする気が起きない。
100%風邪である。
だが、今はテスト前。
そんな大事な時期に学校を休む訳にはいかない。
自分の体に鞭を打ち、リビングに向かおうと扉を開けると、ちょうど寝間着姿の柊も同じタイミングで扉を開けた。
柊の寝巻きは、上下ピンクのモコモコした服装で、下がショートパンツだ。
寒くはないのだろうかと心配になる。
「おはようございます。今日学校は…って」
柊は目を見開き、俺の元に駆け寄って来た。
「如月くん!? 顔赤いですよ大丈夫ですか!?」
「大丈…夫」
「とりあえず部屋に戻ってベッドに座って下さい!」
柊の肩を借りながらベッドに座る。
身体がだるい。
何もする気が起きない。
「体温計です。 自分で測れますか?」
「ん…」
ゆっくりと体温計を受け取り、体温を計る。
ピピピ、という電子音がなり、体温計を取ると、そこには、38.4と書かれていた。
「何度でした?」
柊に体温計を見せると、柊は目を見開いた。
「今すぐ寝てください!」
「…でも学校…」
「今日は大雨警報が出て、臨時休校になりました。 学校からのメール見てなかったんですね」
怠すぎてスマホを見る気力がなかったのだが、そんな事になっていたのか。
確かに、よく耳を澄ませば外から雨の音が聞こえる。
「昨日よりも更に強くなっているので、今日は自宅から出れませんね」
「…そうだな」
「待ってて下さい。色々持ってきます」
そう言うと、柊は部屋を出て行った。
そして数分後、風呂桶にタオルと水を入れ、ほかに救急箱を持って帰ってきた。
「まずは熱さまシートを貼りましょう。 髪触りますね」
「ん…」
柊は俺の髪を触り、おでこに熱さまシートを貼る。
懐かしい冷たい感覚に、最初はびっくりしたが、このひんやり感は落ち着く。
「次は汗を拭きますね」
体温が高いからか、汗をかいていたので、柊は濡らしたタオルで優しく顔や首などの汗を優しく拭いてくれた。
「よし。 では、私はご飯を作ってきますので、如月くんは無理せずゆっくりしていて下さいね」
「…分かった」
「漫画とか読んじゃダメですからね」
「…おう」
そう言うと、柊は部屋を出て行った。
運良く臨時休校になったから良かったが、明日までには絶対に治さなきゃな。
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「如月くん。起きてますか?」
少し寝てしまったらしく、柊の声で目を覚ました。
時計を見ると、30分ほど寝ていたらしい。
「起こしちゃってごめんなさい。 お粥作ってきました」
柊は、お椀を持っていた。
お椀の中には、お粥と梅干しが入っていた。
お粥なんて何年振りだろうか。
「食欲ありますか?」
「ん…大丈夫だ」
「良かったです。 身体起こしますね」
柊は俺の背中に手をやり、優しく身体を起こした。
そして、柊は大きめのスプーンにお粥を掬い、俺の口の前に持ってくる。
「冷ましてから来たので、そのまま食べれますよ」
「…一人で…食べれる」
「病人は大人しくしてて下さい」
「…いや、でも…」
「口答えしない」
こうなった柊は絶対に引かない。
俺は大人しく口を開き、お粥を食べさせられる。
お粥は、ちょうどいい硬さと塩加減で、梅干しの酸味が絶妙だった。
ただのお粥でも美味いのか…と柊の料理スキルに関心してしまう。
その後も柊にお粥を食べさせられ、あっという間に完食した。
「よく食べられましたね。 次はお薬です。 市販ですが、ないよりはマシでしょう」
柊は水が入ったコップを俺の口の前に持ってくる。
もう諦めて口を開く。
薬を飲むと、柊は頭を撫でてきた。
「よく飲めましたね」
「…子供扱い…すんな」
「まぁまぁ」
柊はもしかしたらこの状況を楽しんでいるのかもしれない。
言い返したいが、頭が痛すぎて何も思いつかない。
俺はベッドに横になると、柊が布団をかけてくれた。
「お薬を飲んだら、後は寝るだけですね。 ゆっくりして下さい」
「…ん」
「汗とかは私が拭きますから」
「いや…風邪移るから…部屋にかえ…」
「はい。病人は喋らない」
口を押さえられ、喋れなくさせられた。
どうやら俺に口答えをする権利はないらしい。
恨みを込めて柊を睨むと、柊はニコニコした笑みを返した後、漫画を取りに行った。
どうやら本当にここに居座る気らしい。
そして取ってきた漫画を床に置くと、優しく俺の頭をなでてきた。
薬のせいか眠気が襲ってきていた俺は抵抗できず、そのまま眠りについた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…んん?」
次に目が覚めると、身体の調子は良くなっていた。
きっともう熱は下がっているだろう。
寝ながら時計を見ると、時刻は18時だった。
お粥を食べたのが9時だったので、かなり寝てしまったらしい。
「…え」
身体を起こそうとすると、違和感に気づいた。
横を見ると…
規則正しい寝息を立てながら、柊が座りながら寝ていたのだ。
顔をベッドに乗せているから違和感があったのだろう。
そして、柊の右手は俺の頭の近くに置かれていた。
きっと頭を撫でている最中に寝ていたのだろう。
今回、柊には本当に迷惑をかけた。
これはこんどちゃんとしたお礼をしなければいけない。
柊を起こさないようにベッドから起き上がり、柊の背中に毛布をかける。
「…ありがとな」
リビングに来た俺は、冷蔵庫の中を確認する。
柊は今寝ている。
流石に起こすのは可哀想なので、今日の夕飯は俺が作ろう。
柊は人の手料理を食べた事が少ないらしいからな。
俺は冷蔵庫から卵、ラーメンに入れる用の焼豚、ネギを取り出す。
白米は柊が17時に炊けるように予約していたらしく、既に炊けていた。
俺はフライパンに油をしき、料理を始める。
男の手料理の定番といえばもちろん、チャーハンだ。
簡単な上に美味い。
最強の料理だ。
先にフライパンに焼豚入れて日を通し、その後に卵を入れ、すぐにご飯を投入し、一気に炒める。
塩胡椒で味付けをし、味見をする。
柊はあまり濃い味が好きじゃないらしいので、このくらいがちょうどいいだろう。
2人分を皿に盛り付け、冷めないうちに柊を起こしに行く。
自室に帰ると、柊はまだ規則正しい寝息を立てていた。
「柊。柊起きろ」
「んん…」
「柊ー、学校遅刻するぞ」
嘘をつくと、柊はバッと顔を上げた。
そして寝ぼけた目で時計と俺を交互に見る。
「…んん…?」
「おはよ。 看病ありがとな。 おかげで元気だ」
「え…風邪治ったんですか?」
どうやら意識が覚醒したらしく、俺に質問してきた。
柊は安心したように胸を撫で下ろし、もう一度時計を見ると、目を見開いた。
「え、18時…!? 嘘…!」
「ご飯作っといたから、食べるぞ」
「え、如月くんが夕飯を…?」
「おう。 目玉焼きじゃないけどな」
柊と共にリビングに行くと、テーブルに置いてあるチャーハンを見て柊は驚いた。
「チャーハン…作れたんですね」
「馬鹿にしてるか? チャーハンくらい作れる」
「凄いです。 美味しそう」
「それは良かった。 冷めないうちに食べようぜ」
席に座り、お互いにチャーハンを食べる。
さて、柊の口に合うだろうか。
「美味しい…味付けも私が好きな濃さです」
「なら良かった」
「たまにはチャーハンも良いですね」
「久しぶりに食べると美味しいよな」
そういった会話を続けながら食べ続けると、あっという間に食べ終えた。
皿を洗っていると、柊がスマホを見て笑顔になった。
「明日は晴れらしいですよ。 良かったです」
「おーよかった。 雨だったら濡れながら登校するハメになってたぞ」
「ですね。如月くんも傘、2本買っておいたらどうですか?」
「だな、そうするか。 明日帰りに買ってくるよ」
それからは、お互いに風呂に入り、明日の準備をしてから、眠りについた。
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