第6話  な、何も。世界は絶望で満ちていたのですわ…




 私の左足に着いた枷。それは15m先の。勇者の右足に片割れが着いていた。



 その枷は物理的な繋がりがある訳でもなく。目を凝らして魔力を見ると、そこにはしっかり勇者の枷と繋がっていた。



「あ?なんだこりゃ?変なものが勝手に着いたぞ?」



 それは「枷」。繋がったものを導かなければいつまでも、それそこ勇者が死んでも取れない。


「そ、そんな…。なんでこんなものが!?」


 実物は見たことなどなかった。でも私が見れば解る。自慢じゃないが女神の力は偉大だ。世の理の全てのトップ。ならば潜在する物の詳細は見れば鑑定したかのように詳細に解る。わかってしまう…。


 これが、本物であることくらい。



「おい!またお前の仕業か!俺はもう帰るぞ?」


 勇者がその場から動き。


「うおっ!?!?」


 枷が光り。そのままその場で固定される。それに繋がれた勇者は進行方向に出そうとした足が前に出ることも無く。見事に顔面から地面に転けた。


「痛…、なんだよこれ!!?」



 そんな勇者を見ても、ショックのあまり私は何も言えない。たぶん、思考を放棄して、こうやって現実逃避気味に現状をリピートするだけだ。


 勇者は何度も自身の足を動かそうとするが、一定範囲からは決して進もうとしない。動かない枷。



 何分もそうしているうちに、さすがに諦めたのか。かなりイライラした様子でこっちに歩いてきていた。その足取りは1回転けているからか、かなり慎重である。


「おいッ!!これは一体なんの嫌がらせだ!!俺は帰ると言っているだろ!!お前の遊びなんかに付き合ってやる気は毛頭ない!!早く帰せ!!」


 未だに座り込んでいる私に近づきながら、立ったまま怒鳴り声を吐き散らす。たぶん、その顔は相当怒っているはずだ。

 私はもう無気力に顔をあげることしかできない。



「おいッ!聞いてるのか!?自称女神!さっきから何をずっと…。お前…」



 そこでふと、勇者の声が止まる。








 変だと思って横を見ると。怒っているはず、そう思っていたその顔は、私を覗き込むように困惑していた。



「お前…。ちっ!一体何がどうなってんだよ…。これじゃまるで俺が…」



 私と目が合うと、今度はその表情を一瞬苛立たせ、そして直ぐに当たりを見回してブツブツと呟いている。








 あ、もうどうでもいい…ですわ…。










「で?村はどっちだ?」




「ぇ…?」


「だから。村はどっちにある?女神なら知ってるだろ?さっさと案内しろ」


 な、何を言ってるの?さっきまであなたは帰ると…


「お前が居ないとたぶん俺は詰む。ここが…。もしほんとに異世界なら。俺は確実に生きていける気がしねぇ。だからお前を…。女神様を連れていく」


「わ、私はもう…。女神じゃ無くなったのですわ…」


 急に態度を変えた勇者。一体何を…。それに私もまだ何を言ってるのか分からないですわ…。


「はぁ!?なんでだよ。ついさっきまで女神!女神!言ってたじゃねぇーか。嘘だったのか?」


 い、いや


「この、枷は。堕天の枷ですわ…。私は、今、女神から、堕ちたと判断されたのですわ…。も、もう私は…。女神、では無い…」


 そんなこと言ってもあなたは理解できないでしょうね…。なのになんで私はこんなやつにペラペラと?



「堕天?…だからか。じゃあお前は今、ただの少女なのか?」


 ただの少女。



「少女…。なのかも怪しいですわね…」


「じゃあお前はなんだ?もう力は使えないってか?」


 力?


「いや…。鑑定の目は使えましたわ…」


「ならいい。早く行くぞ。方角は解るか?」





 え?あ、え?




「何処に…?」



「さっきも言っただろ。村だよ。案内できるだろ?」


 村…。えっと確か…。


「こ、こっちですわ」


「なら行くぞ」


「え?」


 なんで?


「お前がいないと俺はここのことは分からない。ついでに離れることもできない。ならもう諦めるしかねぇじゃねぇーか。行くぞ」



 そう言うやいなや、私の手をいきなり握…。は!?何を!?って!ちょッ!!まだ足に力が入ら…!?


「うべっ!!?」


「あ?んだよめんどくせぇな。よっ!とと!お前意外と重いな。運動してないのか?」


 痛い…。膝を擦りむきましたわ…。あ、一応再生してる…。



 ん?



 って!!なんで私はお姫様抱っこされてんの!?ちょ!?恥ずかし!?


「お、下ろせ!!なんでこんな!?」


「おっ!お前本来の口調はそれなんだな!」


「いや、だから!下ろせって!!」


「お前まだ立てねぇだろが、つべこべ言ってないで道案内しろ、迷子になってもいいのか?」


「あ、はい」



 え!?なんでこんなことになってるの〜!?!?




 そこにはただただ広い草原で、勇者にお姫様抱っこされる私がいましたとさ。なんでぇ〜!?

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